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ダンジョン学園サブカル同好会の日常  作者: くずもち


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第17話無償の信頼

 僕は悪だくみを始めた。


 最初はそんなつもりは全然なかったのだが、人間切羽つまると色々試してみたくなるもののようだ。


 そして僕のたわいない質問に、攻略君は策を一つ授けてくれる。


『―――今から薬草を取りに行こう。こいつをそろえれば面白い効果の薬が作れるよ』


 攻略君の言う薬の効果に、僕は思わずブルリと震えてしまった。




 本日のサブカル同好会は一時休止。


 僕らは武器持参のダンジョン装備で部室に集まった。


「えーでは。今からサブカル同好会強化計画を始動します。ではまず昨日渡したアンケートを見せてください。これは間違いないですか?」


 今日は前もって用意していたアンケートに答えてもらっていたのだが、浦島先輩も桃山君もちゃんと書いてきてくれていたようだ。


 ざっと確認すると、桃山君は戦士のアタッカー。そして浦島先輩は後衛のバッファー希望で、出来れば目指したいスタイルの傾向が記してあった。


「出来れば素敵でござるなーっていう理想でござるよ?」


「やっぱりちょっとはあるよね。せっかくダンジョンに潜るなら」


 僕とてダンジョンに潜ると聞いて、様々なゲームが頭をよぎったが、僕だけが例外ではなかったようだ。


 しかし現実は非情である。


 ゲームっぽい用語はあるが、自由度があまりにも狭いビルド。


 隙あらば命を脅かす危険なモンスター。


 そして命の危険が日常になると、憧れが日々消え失せてゆく。


 しかしそれは僕らが知らなかっただけなのだ。


 僕はアンケートの希望を基に攻略君の考えたおすすめビルドをメモに書き留めると、それを二人に手渡した。


「ではこれだけモンスターを倒してください。種類は指定で、書いてあるモンスター以外は倒さないようにしてください」


 メモを手渡すと二人からは最初、怪訝な表情が返って来た。


「よくわからないでござるが……拙者信じるでござるよ。友達でござるからな」


「……桃山氏」


 桃山君がそう言ってくれるだけで、僕は胸がいっぱいである。


 だが浦島先輩の方はメモの内容を確認すると真剣な表情になり、バッと手のひらを僕にかざした。


「……ちょっと待って」


「……何でしょう?」


「アンケート見た時も思ったんだけどさ……ひょっとすると、ワタヌキ君さ? ある程度後から理想のパラメーターに近づける方法知ってたりする?」


 それはまさしく核心に迫った質問だった。


 だから僕は隠し立てすることなく縦に首を振った。


 葛藤なら前もって済ませている。だから後は確認だけだ。


「はい」


「じゃあ。それが嘘じゃないって前提で話すよ? これ、私らでちゃんとパーティ組むこと前提で話を進めない?」


「……!」


 浦島先輩の言葉に僕は衝撃を受けた。


 まさか今の段階で、こんなことを先輩の方から言ってくるとは予想していなかったからだ。


「本当にすみません。正直最低クラスの落ちこぼれが何言ってるんだと、自分でも思いますけど……」


「そういうのいいから。どうせダメもとなところあるんだし、勝算はあるんでしょう? 今はちゃんとやりたいことを言ってよね?」


「そうでござる。……拙者に二言はないでござるよ。信じると決めた以上、言う通りにやるでござる」


「うう……ありがとう」


 チョットこんなに感動するとは自分でも思わなかった。


 ならば僕とてその信頼に応えなければならない。


 僕は二人を甘く見ていたことを心の中で謝り、もう一歩踏み込むことにした。


 これははっきり言って悪だくみだと思う。


 何せ友人を、本来ならあり得ない形に改造しようと言うのだから。


「じゃあ……僕も最大限妥協なしで提案させてもらいます。………僕は浦島先輩の言う通り、パラメーターをある程度思った通りに育成する方法を知っています。でもこれは言ってみればパラメーターをとがらせる方法で、それは倒したモンスターの種類と数によって変わります」


 それを聞いた浦島先輩は、ふむと唸った。


「……となると、私はそんなに変えられないかも。それなりにモンスターを倒してるもんね」


 さすが先輩は話が早い。しかしその問題を解決する方法はすでに僕の手の中に存在する。


「いや、問題ないです。ここに隠しパラメーターをなかったことにする薬があるので」


 僕はそう言って薬瓶に入った液体を二人に差し出す。


 余りにも都合のいい薬を見た二人は困惑して僕を見ていた。


「……それって本気で言ってる?」


「はい」


「……つまりそれを飲んだら弱くなるってことでござるか?」


 桃山君の疑問は、何も間違ってはいない。


 まさしくこれは弱くなる薬だ。


 そしてそれはダンジョンに挑戦する者にとって死活問題に他ならない。


「そういうことになるね。だからこればかりは強制できない。今までの努力の成果をなかったことにされるし、負担をしいちゃう。それでも僕の提案に乗ってくれるのなら……この薬を飲んで欲しい」


 浦島先輩と桃山君は薬をジッと見つめる。


 だがすぐに二人は薬瓶を掴み取ると、一気に飲み干した。


「……ぷはぁ! まずいわ!」


「あ。拙者は割と大丈夫でござる」


「……マジで驚きました。二人とも何で……」


 自分でもおかしいと思うが、そんなセリフが口を衝く。


 だけど帰ってきた答えは、楽しそうな笑い声だった。


「何でも何もないでしょ? 私も部室無くしたくないの。正直にいうと、部室に関しては結構後がないのよ。そこに後輩に秘策ありなんて言われた日には……そりゃ乗るよ。ワタヌキ君の人柄もまぁわかってるし、私は胸も体もでっかいから、存分に貸してあげましょう! ちなみに先日体重が100キロ台に突入しました!」


 浦島先輩は豪快にふくよかな胸を叩く。


「そうでござるよ。それに、この薬がもし嘘だったら、それで今までの話が真実かどうか証明にもなるでござる。……拙者も体重言わなきゃダメでござるか?」


 桃山君は弱くなったことを気にも留めずにグッと親指を立てた。


「浦島先輩……桃山君……うん。これで二人の力は大きく減った。だから無理をしないように1階で特定のモンスターだけ倒してみてください。ちなみにリポップの場所と探すコツはもうメモしてありますから。ちなみに体重は55キロくらいです」


「おいおい私の半分くらいか……反応に困るわ。いやそうじゃなくって、準備万端過ぎるだろう……。でもまぁ、ちょっと根詰めていきましょう」


「了解でござる。遅れは取り戻さねばならんでござるしな」


 浦島先輩も桃山君も、もう疑うどころかやる気を出している。


 だから僕も―――少しばかり燃えて来た。


「お願いします。その間僕は―――きっちりポーションを集めてきますんで」


 ではまずは目先の危機を回避しないと始まらない。


 確たる根拠も示せなかった僕はこの無償の信頼に応えるために、力を尽くすことに決めた。


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