第134話なんだか後ろめたい気がする
ダンジョンには様々なアイテムが存在する。
中には扱いに困るアイテムもいくつかあって、そのうちの一つが今日も一つドロップした。
場所は94階層。浜辺にいた幻を吐くでかいハマグリは、たまにとある落とし物をすることがあった。
「ドロップアイテム……これは」
『酒だね。これは体力常時回復の効果があるが……酩酊状態になる』
「ダメだなぁ、お酒そのものだ」
レベリングを終えてからは僕も逃げるばかりではなく、モンスターと戦うことが多くなった。
そんな時たまに出てくるのがこのお酒類である。
味はとてもおいしいらしく、たまに見つかるとニュースで話題になったりするし、ダンジョン産だけのことはあって様々な効果があった。
しかし未成年は飲酒厳禁!
その辺りまで緩くしてしまうとさすがに収拾がつかなくなるので、仲間内での取り決めで、飲酒は禁止となっている。
しかし捨てるのももったいないという事で、現在はサブカルカフェの方で保存中だった。
そういうわけで今日も僕は酒だけを専用の棚に並べているわけだが、そこで背後に視線を感じて振り向くと―――龍宮院先生が見ていた。
「……」
「……」
一旦見なかったことにして視線を逸らすが、絶対勘違いじゃない。
背中に感じるプレッシャーが気のせいのわけがなかった。
もう一度チラリと背後を確認すると、変化があった。
近づいてきている……!
完全にロックオンされて、僕の背中には冷汗が流れ出た。
「それは……お酒かな?」
「はい……そうですが?」
「……ダメじゃないか、そんなものため込んでは?」
「いえ、割とドロップするんですよ。飲むわけにもいかないので一応鍵付きの棚で管理してる感じです」
「ならいいか。これどうするつもりなの?」
「そうですね……まぁこのまま使い道がないようなら捨ててもいいですけど?」
「……いや、それはさすがにもったいなくないかな?」
「……じゃあ料理にでも使うのがいいですかね? ああ、でも今日は一本使ってみようと思ってますよ?」
「そうなんだ」
今日は龍宮院先生と二人のようだし、では早速やってみることにした。
ではまず捕って来た超巨大ハマグリに解呪をしっかりめに掛けて
そこに浄化の魔法を掛けて様子をみると、勢いよく水とよくわからない靄を吐き出した。
この靄は触れると幻を見るが、僧侶の魔法で無力化できるようだ。
あえて無視。しばらくすると水も幻も吐かなくなったので、手早く蓋つきのフライパンに入れてニンニクと鷹の爪を入れる―――。
「そしてこいつを注ぎ入れる」
最後に攻略君曰く、結構いいお酒であるらしいそれを、惜しげもなく投入。
しばらくすると貝のいい匂いがしてきて、ハマグリの蓋が開いたら完成だった。
フライパンの蓋を開けた瞬間、熱い蒸気と幻の残りがピンクの靄になって飛び出したが、それを差し引けばおおむね美味そうだった。
「フッフッフッ……やはり調理において、僧侶系スキルは最強……」
「なんかピンクの靄が出てるけど大丈夫?」
「はい。大丈夫ですよ。すぐ持っていくんで待っててください」
「……ああ、なんだか悪いね」
モンスターを蒸す僕を見て、すごく一瞬複雑な顔をした龍宮院先生の反応は割と最近は新鮮だった。
僕はカフェのカウンター席にフライパンごとそれを持っていって『ダンジョン風ハマグリの酒蒸し』完成である。
普通のハマグリの3倍はあるであろう化け物酒蒸しをドンとそのまま龍宮院先生の前に置くと、その目は幻がなくとも夢見心地になった。
「おお……これはすきっ腹にはしんどい匂いが。何だろうモンスターのくせに食べ物に見える。でかい酒蒸しだね……」
「では最初に僕がいただきますね。よかったらひとつまみくらいどうぞ?」
「う、うん」
では実食。
僕はたまらず貝にかぶりついて……そして固まってしまった。
「どうしたんだ!?」
「うっ……うまい! 何だこのコク……?」
「……本当に?」
龍宮院先生は半信半疑の様子で貝を掴んでしばらく見ていたが遂にかぶりつくと、瞳がウルリと輝いた。
「ナニコレうまぁ! ただ……これ酒が飲みたいね!」
「酒……いいですよ? どうせ死蔵するだけですし。というかどうします? 先生が決めちゃっていいですけど?」
「えぇ~? それはさすがにまずいんじゃないかなぁ……。しかしドロップ品だからなぁ」
僕が気軽に進めると、龍宮院先生が考え込んでいる。
まぁドロップが多かったこともあって酒の種類も数も結構なものだから、本当に好きにしてもらって構わない。
何と言うつもりなんだろうと言葉を待っていると。うんと頷いた先生は言った。
「よし私が管理しようか。……カフェにアルコールが置いてあるのもどうかと思うし」
「まさか……全部飲むんですか?」
「え? これくらいならすぐなくなるんじゃないかな?」
「……! 酒豪だぁ……」
「い、いや、全部飲んだりはしないよさすがに。そんなに酒飲みってわけではないんだよ? 嗜む程度、そう! 嗜む程度に呑むだけだから。ホラ、付き合いとかもあるし、普段全然飲まないとそういう時、辛いんだよ? まぁそのうちわかると思うけど」
「そんなものですか?」
「そんなものさ。二十歳になったら飲んでみるといい」
おお、大人だ。
考えてみれば龍宮院先生には急に巻き込んでしまって、迷惑をかけている感はある。
飲む予定のないお酒で少し仲良くなれるのなら惜しくはないのかもしれない。
「……いいですよ。じゃあここにある分と今後ドロップしたものは先生にすべて渡します」
「はい、任されました。……ちょっと飲んでみても?」
「もちろん。かまいませんよ」
僕は適当に頷いて見せた。
大人が飲酒するのを止める理由なんてそんなにない。すべては自己責任だろう。
軽く笑う龍宮院先生は適当なグラスを取ってきて酒を軽く飲むと、驚いて目を丸くした。
「おぉ……これはなんというかすごいな。噂ではきいていたけど、うまい」
「せっかくだから、もっと飲んじゃってもいいですよ?」
「ハハハ。魅力的な提案だけど、もうやめておくよ」
龍宮院先生は実に気安いのに紳士的で人気があるのも頷けた。
ほんの軽い気持ちで僕はお酒をすべて渡したんだけど、それはちょっと意外な展開に繋がった。
「よし! じゃあせっかくだ。この間の手加減の続きを教えてあげようか?」
「え?……危なくないですか?」
「もうレベル差はかなり埋まっただろう? まぁ私も感覚のズレを調整したいんだ、付き合ってくれよ」
「……」
がっちりと僕の腕を掴んで引っ張る龍宮院先生の力は、なるほど逃げられる気はしない。
本当に手加減の練習になるかなと、僕はちょっぴり不安を感じたのだった。




