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ダンジョン学園サブカル同好会の日常  作者: くずもち


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第121話救助隊はロマンスなど求めない

「……」


 飛び掛かってきていたモンスターはすべて弾き返せたか。


 ラウンドシールドをフル活用したスキル、シールドバッシュは聖騎士のスキルと合わせると、驚異的な範囲をカバーできる盾となるらしい。


 フフフッ、イージスの盾とでも名付けようかな? 11階程度のモンスターじゃ、オーラもこゆるぎもしていないじゃあないか。


 さてどうしよう? 救助者の生存は確認したが?


 壁を最短でぶち抜くためにパイルバンカーの弾をさっそく使ってしまったが、その甲斐はあったようだ。


 モンスターはより取り見取り。


 僕としては魔法使いじゃないから広範囲を殲滅するのは苦手な部類だが、これくらいのレベルなら問題はない。


 だけど、僕の戦い方ってこう数が多いとひたすらにグロいんだよなぁ。


 背後には月読さんもいるし、精神的に疲弊している彼女にこれ以上無用の負担はかけるべきではないだろう。


 しかし僕にはこういう時のために、とっておきの魔法があった。


「つえい!」


 僕は空間に魔力を走らせる。


 とたん常備している文字発動の魔法がすぐさま視界をノイズまみれにしていった。


 これぞモザイクを掛ける魔法!


 これで、どんなにショッキングなグロ映像でも、ちょっとよくわからない、もやもやしたものに早変わりだ。


 強めの刺激もソフトタッチで、みんなニッコリというわけだった。


 では改めて!


 僕はガッキンとアームを広げて、敵の中に突っ込んだ。


「―――ダブルラリアット!」


 腕をグルグル回すだけの驚異の剛腕を喰らうがいい。


 鉄の塊、そしてパイルバンカーと魔法金属製のラウンドシールド付きのそれは、魔力で武装した重機の一撃である。


 ちなみに僕は見ているだけみたいなもんだ。


 掠っただけでパッカンパッカン飛んでいくモンスターの中にうまそうなやつを探す余裕すらあった。


 あ、羊っぽいのと、貝っぽいのがいるや。あれは回収していこう。


 あと少し冒険して、ワニっぽい奴もいただこうか。


 それ以外は手加減せずゆっくり歩くだけで、ほぼミンチである。


 モザイクの魔法があって本当によかった。


 僕はそう時間もかからずにモンスターハウス殲滅に成功した。


 これで、いったん緊急事態は終了である。


「あ、あの! あの時はありがとうございました!」


 ただ突然月読さんが話しかけてくるが、いったい何の事だったか?


 ちょっと一瞬思い出せなかったわけだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


 まずは救助が最優先だった。


「しゃべらないで」


「……! しゃ、しゃべった」


 そりゃあ僕は喋るともさ。


 しかしどうやら僕の声が正しく伝達されているという事はないみたいだった。


「でも声が変……というかごめんなさい。疲れすぎていて色々おかしくて……」


「君の視界は正常だよ。まぁよくあることだよ」


 やっぱ声おかしいかな? いやまぁモザイクの魔法辺りが悪さをしている可能性はあるか。


 よく聞けば、ちょっと甲高い声になっている気がするし、きっと僕のモザイクを掛けた人物はこんな声になるというイメージが反映された結果だと思う。


 というか、僕までモザイク圏内ってどういうことなの?


 何か僕の存在がいつの間にかモザイク案件になったのかと青くなったが、どうやら返り血の量が多すぎたみたいだ。 


 コスプレ中という事もあって頭も燃えているし、モザイクまでかかって訳が分からないけど、僕は立派な? 人間だよ。


 しかし、不審人物でないことを懇切丁寧に説明して誤解を解きたい感情はあったが、あんまりぐずぐずしてもいられない。


 上を浦島先輩に任せてしまっているから、僕も手早く仕事を済ませなければならなかった。


 僕とて最近は前衛のタンクなんてやっているが、元はヒーラーでもある。


 月読さんは打撲や、骨折はあるようだが、目に見えないダメージもあるから激しい戦闘の後は注意が必要だろう。


 一旦回復魔法で治療して、僕は月読さんに言った。


「回復魔法は施したけど、魔力が結構減ってるから安静に。落ち着いたら、この薬を飲んで」


「えっ……は、はい。ありがとうございます」


 借りてきた猫のような月読さんをアイテムボックスに一応入れてあった救護用ストレッチャーに乗せて運搬。


 ああ僕ってやつは、なんて準備がいいのだろう?


 救急隊のような手際に我ながら自画自賛だった。


「……」


 月読さんは何か言いたげな顔をしていたが、けが人はしゃべらないでね?


 何度も言うが救助が最優先だった。





 そうして僕らは守護者の階層にすぐに戻る。


 しかし手早くやりすぎてしまったのか、まだ戦闘中の鉄巨人に遭遇してしまった。


 え? 浦島先輩どこ行った?


 もうとっくに到着していなくてはおかしいはずだが、どこにも浦島先輩の姿はない。


 そして草薙君パーティの三人だけで、鉄巨人との戦闘はすでに佳境に突入していた。


 鉄巨人は攻略法が存在するモンスターだと僕は知っている。


 だがそれを知らない草薙君達は当然、鉄巨人相手に真っ向勝負を仕掛けていて、順当に圧倒されていた。


 前衛二人の攻撃は刃が立たず。


 天音さんの魔法が通用しなければ詰む局面。


 鉄巨人の防御力は正面から戦えば20階の百足の遥か上だった。


「いけぇ!」


 天音さんが叫び、限界まで魔力を込めた魔法はしかし鉄巨人の装甲にパカンと弾かれ、鉄巨人の表面を焦がしただけだった。


「うそ……キャ!」


 そして雑に振るわれた一蹴りで飛んできた石礫になすすべもなく、天音さんは吹き飛ばされてしまった。


 天音さんは動かなくなったが、その場にうずくまって気絶しているようだ。


 致命打を与える手段もなくなり、このままでは絶対絶命である。


「……来る」


 ただし絶望的な状況の中、絶妙なタイミングで、妙な地鳴りが入り口の方から聞こえてきた。


 そして扉をぶち破って飛び込んできたのは大量の牛であった。


「「「……!!!」」」


 いきなりの事に、草薙パーティは声も出ないくらい驚いていたけど、僕は次々飛び込んでくるモンスター達にもちろん見覚えがあった。


「あっはっはっはっはっは! 突撃! 突撃ぃ! 一年は確保ね!」


 そしてバサリと突然何もない空間から現れた浦島先輩は、先頭の牛の背に飛び乗って高笑いである。


 浦島先輩……まさか透明マントで姿を隠して出ていくタイミング図ってた!?


 確かにこれならいざという時そばに待機していられるし、勝ち目があるなら邪魔しなくて済むけど……あまりに不意打ちが過ぎる。


 ごっついフルフェイスのヘルメットをかぶった全身黒い衣装の不審人物は、このフロアの視線を独り占めして、牛を乗りこなしていた。


 そしてとう! という叫びと共に牛の背中から飛び降りた浦島先輩は、まだ意識を保っていた草薙君の前に着地。


 そのまま突進した牛達は一直線に鉄巨人にタックルをぶちかました。


 巨人に追突する牛の群れはまるで肉の津波で、重い衝撃音の中、鉄巨人はもみくちゃにされていた。


「君。大丈夫? ダメだよ守護者に挑む時は慎重にやんなきゃ。ここは君達にはまだ早い……そういうことだね」


「だ、だれだ!」


「助っ人だよ」


 浦島先輩は一言呟き、こっそりハンドサインでカメラ君に撮影開始を指示した。


 そして先輩はカメラ君が位置を決めたのを確認して、走り出す。


 さすがは鉄巨人。


 守護者だけあって、数に物を言わせても上の階のモンスターだけで倒しきれはしなかったか。


 ダメージもほとんどなかったようで、すぐさま浦島先輩の指示で牛達が飛びのくと、同時に浦島先輩は手のひらから衝撃波を飛ばす。


 鉄巨人は打ち出された衝撃波でドカンと派手に後ろに吹き飛んだ。


 損傷がないのは手加減されたからだろう。


 しかしターゲットを奪うには十分なダメージで、鉄巨人は草薙君たちから狙いを外して浦島先輩をターゲットに定めて動き出す。


 これはお久しぶりの、誰でも出来る鉄巨人討伐の始まりだった。


 ヘイトを持ったまま先輩は壁際を走り、ルートを器用に誘導しながら鞭を引き抜く。


 そしてジャンプ。


 鉄巨人が躓いた所で反転。


 ばっちりなタイミングで飛び上がった浦島先輩は、綺麗にひっくり返った鉄巨人の背中に着地して―――鞭の一撃で鉄巨人は文字ごと体を胴体から真っ二つに叩き割られた。


「おう――――まぁこんなもんだね。背中の文字を削り取るのがコツだよ」


 浦島先輩は自分のレベルの上がりっぷりに確実に驚いたようだが、かろうじて取り繕った。


 そして後輩の前で格好をつけた先輩は、討伐された鉄巨人の上から彼らを見下ろして、リーダーの草薙君にまずは回復魔法を掛けた。


「……あ、あなたは」


 瀕死の怪我から瞬時に回復して、草薙君は驚きの表情で浦島先輩を見上げている。


 浦島先輩もいい感じにキメているが、そろそろショーは終了である。


 そのまま気にするなとでも言って撤退するとばかり思っていた浦島先輩は何を思ったのか、その場でヘルメットを外して不敵に笑って見せたのだ。


「―――なに。ただの先輩だ。命は大切にしないとダメだよ」


 そう言って手を差しのべる浦島先輩は、いつの間にか激やせしていた。


「あ。魔力を使いすぎたからか。……マジで先輩、脂肪の燃焼と魔力消費が直結してるんだなぁ」


『実に興味深い体質だね』


 攻略君まで驚かせるとか、浦島先輩は本当に破天荒なお人である。


 しかし今なぜ、ヘルメットを取る必要があったのだろう?


 場の空気に酔っている? その可能性は大いにあるが、それだけとも思えなかった。


 ならばなぜ?


 僕の方が焦りながら頭を回転させたが、そこで僕は絶妙な位置で撮影を続けるカメラ君を発見してしまった。


 まさか……画面映えを意識している……!?


 太目こそパーフェクトボディだと言う彼女の言葉は嘘偽りはなかったようだが、今の体型は残念ながら変身後だった。


「……っ!」


 しかし身内の贔屓目かもしれないが、僕と違って浦島先輩は素顔でも華がある。


 それに激やせしたことも、今となっては彼女の武器となるだろう。


 元々コスプレにも、動画配信にも興味津々だった浦島先輩が攻めに出たというわけか。


 ただここで問題があったとすれば、現在の浦島先輩は間違いなくカッコつけるまでもなくカッコイイという事だろう。


 そして死線を越えて、圧倒的上位者を前にした草薙君のドキドキはそれと誤認するのも無理はない。


 腰が抜けた状態から、浦島先輩にぐっと引き上げられ、立ち上がった草薙君は何とか声を絞り出す。


「あ、ありがとうございます……」


「ああ。気を付けるんだよ。君なら次は突破できるさ」


「あ……はい」


 顔を真っ赤にしたイケメンが狼狽えながらお礼を言っている。


 呆けたような彼に片手を軽く振った浦島先輩は、余計なことついでに一瞬笑いかけるとクールに去った。


「あっ……」


 何も言えずに、草薙君はせっかく立ち上がっていたのに腰が砕けてその場に座り込んでいた。


「……!」


 いやいやいや、浦島先輩浦島先輩? あなた思春期の青少年に、何かいけない傷を残しちゃったんじゃないですかね?


 だがまぁ僕らじゃあるまいし、そんなに単純なことはないかなって考え直した僕はその場に月読さんを置いて去ることにした。


「転移宝玉の使い方はわかるね? ドロップしたら1階にすぐ帰れるから、今日のところはパーティメンバーを安心させて、ゆっくり休むといい」


「は、はい」


「精霊はうまく使えばこんなところで遅れはとらない。じゃあ、気を付けて」


「あの……!」


「?」


「また―――会えますか?」


「? ……もちろん。ダンジョンにいる限り、必ず」


 あ、ダメだね。浦島先輩みたいにカッコよくないわ。


 それにカッコイイからってついでに頭の火を消す度胸もないです。浦島先輩すげぇ。


 チョット気取ったセリフを咄嗟に言った僕も間違いなく場に酔っていたんだと思うね。


 だって後で床に頭をぶつけて死にたくなったもの。


 僕は浦島先輩と合流すると肩を落としつつ、いちおう聞いてみた。


「……さっきのは一体?」


「どうだった? エキスポは任せきりだったからさぁ。いい動画にしたいじゃない? 10階の守護者の攻略なんて見せ場貰ったら、やってやらねばならんなと」


「めっちゃかっこよかったですよ。でも素顔さらしちゃっていいんですか?」


「大丈夫じゃない? コスプレバッチリ決めて、イベントに出ようっていうのに、いまさら恥ずかしがってちゃ女が廃るってものよ。ああ、大丈夫。本番はダイエットビシッと決めていくからね!」


「もう成功してますよ……。草薙君が、メロついてたらどうしますよ?」


「あっはっはっ! 危機に颯爽と現れた美女にホレちゃったって?……ワタヌキ後輩? そんなエロゲーみたいな展開がリアルにあるわけないだろ? 現実を見ろ?」


「……そうっすね」


 でもまあずっと視線を感じてるんだけど、僕はすべて気のせいだということにしておいた。

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― 新着の感想 ―
浦島先輩、罪作りな女である。
パイセンには客観的に見た自分、と言う視点が欠けているのでは…?
あちゃー、浦島先輩に惚れちゃったかー。 下手に触れると火傷するぜ、ベイベー。 月読さんはとっくに手遅れと。 でも鈍感ちゃんだから当分は気付かないでしょーねー。 え、待って。 主人公くんが浦島先輩を…
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