第107話思わぬしわ寄せ
「はい! それでは本日我々は正式に部になることが決定いたしましたー! おめでとうございますー!」
「「「おおー」」」
浦島先輩の号令に合わせてパンパンパンと一先ずクラッカーを鳴らし、ケーキを食べる。
カフェでささやかなパーティー感を楽しみながら、僕はなんとなく訊ねた。
「そういえば、部になるのは分かりましたけど。具体的に何か活動って変わるんでしょうか?」
そんな質問をすると浦島先輩は笑顔で言った。
「特に変わらん」
「えぇ……」
「あー、でも予算がつくのはでかいかな? いやぁでもダンジョンアイテムマネーに比べたら……雀の涙かも。やっぱりそんなに変わらないかも?」
「そんなことないですよ! ワタシは大手を振ってここにいられます! ありがとうございました!」
大事なことだとレイナさんが主張すると、それこそが最大の成果だと浦島先輩も頷いた。
「おおーそうだよ。うん! 部になってよかったよかった。これで部室が取り上げられる事もなくなったわけで……ポーション集めてせっせと提出なんてことはしなくてよくなったかな?」
しみじみと言う浦島先輩の言葉で、僕の脳裏に過ったのは同好会に入ったばかりの頃の懐かしき穏やかな日々の記憶だった。
「いいじゃないですか! じゃあ、元の静かなサブカル同好会が戻って来たってことですよね?」
ああ、懐かしき真の活動が戻って来たかと思うと胸の中に熱いものがこみあげてくる。
桃山君も目じりに浮かぶ涙を拭っていた。
「……遂にでござるなぁ。長かったでござる」
「いやぁ……静かかどうかは分かんないけどねぇ」
浦島先輩はしかし遠い目をして言うが、僕ら全員ゆっくりと視線がさ迷っているところを見ると、漠然と静かなのは無理なんじゃないかなって雰囲気は察するところだった。
「だけどサブカル部なんて存在させられるとは思わなかった!……これはすごいことだよ? ぶっちゃけ不可能だと思ってた」
「そう……ですかね?」
「まぁ普通そうだよね。順当に同好会には降格したし、なんやかんや部室を出ることになって、適当な場所で集まってオタク談義する絵は見えてたよ」
「……まぁ見えてましたね」
「見えてたでござるな」
まったく浦島先輩の言う通りだった。
まぁぶっちゃけた話、楽しく過ごすならそれで充分って話でもある。
今回の一連の流れははずみがトントンと荒ぶった結果だとしか言えなかった。
「ところが、この大偉業ですよ。元はささやかな抵抗から始まったけど。これで誰に文句を言われることなくオタ活を楽しめるというものです」
「……考えてみると、こんなに短期間で出来る事でもないのに、良く達成出来たでござるよ」
「それはそうよ。これは何ていうか……巡り合わせの妙だよね。それかレイナちゃんの影響力ありき?」
「いやいやそれを言うなら、マスターワタヌキの不思議でしょう」
私ばかりのせいじゃないとレイナさんは笑うが、まぁ僕もむきになったというか、それだけこの部室に愛着を持っている自分に驚きだった。
「……どうだろうね。こう……無駄に引っ掻き回しただけのような気もするけど後悔はない……と思う」
僕は頷いて言った。
冒険をするのは勇気が必要だ。
だけど部室でまったりしていた時を考えると、謎の多い攻略君を過度に頼ることをしたかと言えば、自信がなかった。
「そうだね。確かに面白かったでござる」
「最高でした! 人生で一番成長を実感しましたよね……今なら誰にも負ける気がしないです!」
ここの所やりすぎている感じがしていたが、メンバーが楽しめているなら言う事もない。
そして僕自身もかなり自重なくはしゃいだ日々は、楽しかったのは間違いない。
ずいぶんロマンを追い求めているし、とてもじゃないが楽しんでいないなんてことは言えなかった。
今後問題はあるだろうが、一先ず最初の問題は解決して大団円。
僕はそう思っていたが、笑顔のまま浦島先輩はしかし突然コトリとコップを置いて、とても深いため息を吐くと、椅子に体重を預けた。
「ただ……問題が一つあります」
「な、なんです?」
この流れで、一体なにごとかと全員の視線が集まる。
浦島先輩は椅子に体重を預けて、天井を仰いだ。
「夏に間に合いません……私はもうダメです」
「浦島先輩……なんかすみません」
「ああ、先輩……お悔み申し上げるでござる」
「ダメですか? 薄い本なくなってしまいましたか?」
「ないなる寸前ですわ……」
これはアレかな? 夏に本を出すスケジュールの話かな?
これはすでに万策尽きる寸前か。
何とかしてあげたいが、こればかりは頑張って描いてくださいとしか言えない。
いくらレベルが上がろうと、残念ながら時間ばかりはどうしようもないのだ。
まぁ今年は仕方がないよねっと励まそうと思ったが、念のため一応攻略君に確認すると……別の意味でとっても気になる情報をお出しされてしまった。
「あらぁ……」
これは言うべきか、言わざるべきか?
僕の葛藤は数秒。
しかし後で知っていることがバレたら僕なら怒るので、まぁ一旦僕は口を開いた。
「……浦島先輩。一日が一年になる部屋があったら……興味あったりします?」
「あるに決まってるでしょう!?」
「何でござるかそれ!?」
「貴方には今すぐ状況を共有する義務があります!?」
「おやまぁ……食いつきますよね」
時間に追われる現代人なら、みんな一度は興味を持つアレ。
いやでも実際に修行なんかに使うかどうかは自己責任でおまかせしたいものだった。




