第10話ダンジョンの守護者
ダンジョン守護者とは、一定の階層に現れる特別に戦闘力の高い固定モンスターの事だ。
学園に入学したての新入生なんて、鼻息で殺せるもはや兵器である。
「……で、これから倒せと?」
自分でも出来るわけないだろと思いながら聞いてみると、攻略君は自信満々に肯定した。
『そうなる。でもね? 10階の鉄巨人は簡単に倒す方法があるんだ』
「ホ、ホントに? 始まったら死ぬ感じだけど?」
『君の相棒を信じなさい』
「スキル鑑定にヒットしないくせに?」
『それは言わない約束だろう?』
それはそう。だがまぁ少しだけ臆病風に吹かれた戯言だ、華麗にスルーしといてもらいたい。
守護者のフロアは大きな扉に閉ざされていたが、僕が前に立つと音をたててゆっくりと開く。
そして中に一歩足を踏み入れたら……ズズズズっと大きな鎧騎士をかたどった巨像が動き出した。
「うぉ……」
圧倒的なプレッシャーに身体が縮み上がるのを感じる。
そんな僕に、攻略君は叫んだ。
『右にダッシュ!』
「……!」
ほとんど反射で走り出す。
『良く動いた! そのまま壁沿いに部屋をグルリと一周だ! ずるはダメだぞ? 壁に肩が触れそうなほどギリギリだ!』
「走りづらいんですけど……!」
全力ダッシュしか言う通りにすることしか出来ないと言うのは思いのほかもどかしい。
そして背中にはとても巨大なモノが追ってきている感覚があって、生きた心地もしなかった。
『……そしてでっぱりがある柱の横を通過したら……横に飛ぶ!』
「横に……!」
『今! 更にダッシュ!』
「うおおお!」
全力で跳躍。続けてダッシュ!
するとどうだろう? 振り返った先で見たのはゆっくりと倒れてくる鉄巨人だった。
「は?」
ズドンと地面が揺れる。
方向転換の時、足がもつれてそのままずっこける巨体は全身に罅が入るほどにダメージを受けて、じたばたともがいていた。
『ボーッとしちゃだめだ! あいつの背中に文字が入ってる場所がある! その頭文字を攻撃!』
「あ、ああ!」
バタバタしているその背中に飛び乗るとわかりづらいが確か文字らしきものが光っている。
僕は死に物狂いで、そこにハンマーを叩き込むと―――バキリと嫌な音がした。
たった一撃だ。
それだけで鉄巨人の身体に致命的な罅が入って、砂になってしまったのだ。
「え? 一撃?」
『おめでとう! ボス討伐完了だ!』
「……うそだぁ」
攻略君は歓声を上げるが、僕は釈然としなかった。
「ビビッて損した感がえぐいな……」
『正面から戦ったらこんなに簡単にはいかないんだけどね。1000回やったら1000回ミンチだよ?』
「本当にそうなりそうだから生きた心地がしなかったよ」
思わず安堵から力が抜けて、今一現実感が伴わない。
しかし一気にレベルアップする感覚と、宣言通りドバッとやって来るあまりにも強力なパワーアップはさすがに嘘はつかなかった。
「す、すご……」
漲る力を実感すると、攻略君はすこぶる上機嫌だった。
『だろー? レベルアップは格上と戦うのが一番さ。ドロップアイテムも回収してね。特に初回攻略特典の転移宝玉は忘れずに。次に10階まで簡単に来れなくなっちゃうからね』
「そんなのあるんだ」
便利なようなおっかないような、とんでもギミックに僕はちょっとだけ背筋が寒くなった。
とはいえ、確実に一つ死線を越えたのは間違いない。
今頃になって膝が震えてきて、ここまで立っていられたのが奇跡のようにも思えた。
だと言うのに、攻略君は自分の提供した攻略成功に気が大きくなったのか、ずいぶんあっさり言ってくれた。
『今のを10回も繰り返せば、10階層以降もいい感じに戦えるようになるよ』
「10回……なるほど、そりゃあ確かにかなり景気よくレベルが上がりそうだ……」
『ちなみに復活は一階上に上がって戻ってくればいいよ』
「……まさに地獄のマラソンだなぁ。いいや、ここまで来たら行くところまで言ってやろう。10回くらいなら今日中に終わらせちゃおうか?」
『……ひょっとして結構やる気だね?』
「まぁね。おかげさまで思ったより早く終わったし」
後は単純に楽しかった。
今までのコツコツ積み上げていく感じもよかったが、スリルがあった今回、アドレナリンが段違いだ。
きっとこの妙な高揚感はレベルアップのせいだろう。
「でも……」
『でも?』
「こいつは食べられそうにないな」
『……君ってやつは』
大事な事でしょ?
人生で一番運動している実感がある最近、狩った後はなるべく食べたいなって思う今日この頃である。




