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7・癒しの時間

 イチのチャットがゆっくりと流れた。


『ねえ、ナガ君。……ずっと気になってたんだけど。ナガ君とハルさんって、リア友なんだよね?』


「うん、腐れ縁の幼馴染だよ。それがどうかした?」


『……だって、ナガ君は男子高校生で、ハルさんは女子高校生なんでしょ? 二人とも仲良しだし、その……趣味の合う男女がいつも一緒にいるから。リアルでも、付き合ってたりしないのかなって』


 信也はモニターの前で、思わず「ぶふっ」と吹き出した。


 イチとアヤは、ハルの正体が「武田風火」という、重度のメイド服狂いの変人であることを知らない。


 純粋なイチの目には、二人は共通の趣味を持つ親密なペアに映っているのだろう。新婚一ヶ月の彼女にとって、それは無視できない不安の種だったようだ。


 信也は、安心させるように素早くキーボードを叩く。


「ないない。向こうは俺のこと、『メイド服が似合わないから可愛くない。だから付き合うのはちょっと……』って感じだぞ。あいつの基準は、メイド服をいかに着こなすか、だからな」


『えっ……!?』


「それに、趣味が合うのはむしろイチの方だよ。昨日だって、お互いの母親が作るエビチリが最高に美味いって話で盛り上がったじゃないか。その前にも、駅の自販機の新商品のアイスが最高に美味しかったとか、学校の近くに芸能人が来ていたとか、色々な話で盛り上がっただろう?あんなに話が合うのは、世界中でイチだけだよ。ハルがどんなに美人でも、俺が選ぶのはイチだけだ」


 画面上のイチが、一瞬だけ動きを止めた。


 直後、彼女の周囲にハートのエフェクトがこれでもかと溢れ出す。


『……っ。ナガ君、大好き! ありがとう、もう不安じゃないよ! 今度私もエビチリを作る練習をしてみるね!』


 何か画面の端で、『そんな振り方ってないでしょwww』とアヤが一人で爆笑しているが、今は無視だ。ギルドの頭脳として君臨する彼女の笑いの沸点がどこで崩壊したのかは不明だが、今は大事な、イチとの「癒しの時間」なのだから。


「それにしても、今日は本当に疲れたんだ。学校の掃除当番でさ」


『よしよし、お疲れ様。私がナガ君の疲れ、全部取ってあげるね』


 画面の中で、イチが「なでなで」のエモーションを繰り返す。


 彼女は今日、学校でどんなことがあったのか、どんな事があってナガを思い出していたのかを、ぽつりぽつりと話し始めた。


 ナガは、彼女の言葉を一つも漏らさぬようにタイピングを返す。


 文字を交わすたびに、現実の自室の壁が消え去り、自分たちが本当にあのテラスで肩を寄せ合っているような錯覚に陥る。


 一分が、一秒に感じる。


 指先から伝わる温度はないはずなのに、キーボードを叩く指が熱い。


(ああ、溶ける……)


 このまま、ハルが戻ってこなければいい。


 信也にとって、この五分間は、現実の二十四時間よりも遥かに濃厚で、重みのある「真実の時間」だった。


 だが、非情にも画面の端で、ハルの「離席中」アイコンが消える。


『ただいまー。いやあ、炭酸がうまい! さて、アヤもなんか変なテンションになってるみたいだし、そろそろ出陣する?』


 ハルが席を立ってから、正確に五分。


 体感では瞬きほどの時間だったが、ナガの心は、かつてないほどに満たされていた。

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