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52・夫婦という関係

 ヒヒイロゴン討伐の翌日。


 江ノ島を臨む藤沢の街は、昨日までの嵐のような緊張感が嘘のように、穏やかな放課後の陽光に包まれていた。


 カララン、と小気味よい音を立てて店のドアが開く。


 やってきたのは、駅前の、なんてことのない大手ファーストフード店だ。


 約一週間前。信也が、家にいる市香から逃げ出そうとして、皮肉にも彼女を見つけてしまった、あの因縁の場所。


 あの日、絶望と拒絶の色に染まっていた空間が、今は不思議と、自分たちを温かく迎え入れてくれる戦地帰りの休息所のように見えた。


「えー、それじゃあ! イチちゃんとナガの仲直りとか、地獄のヒヒイロゴン討伐とか、あとついでにこの楽しいオフ会とか、色々まとめて……祝います! 乾杯!」


 ギルドマスター、ハル――現実の姿である「風火」が、コーラの入った紙コップを勢いよく掲げた。


「「「乾杯!!」」」


 三人の声が重なり、プラスチックの蓋が軽くぶつかり合う。


 隣に座る市香も、昨夜の泣き顔が嘘のように晴れやかな笑顔で、メロンソーダを口に運んでいた。


「……いやあ、マジで凄かったよ。あの最後の一分間。私、モニターの前で叫びすぎて、今も声がガラガラだよ」


 風火がポテトを頬張りながら、昨夜の興奮を語り出す。


「たった二人で一分で五パーセントを削り切るなんてね……でも、あの時の二人の動きを見ていたら、納得出来るわ」


 風火と同じく向かい側に座る彩が、呆れたような、けれどどこか誇らしげな表情で肩を竦めた。


 彼女の鋭い観察眼を持ってしても、昨夜の信也と市香のシンクロ率は、ゲームのシステムを超越した「何か」に見えたのだろう。


「ヒヒイロゴン、強かったな。……終わってみれば、あんなにやりがいのあるボスはいなかった。一人じゃ絶対に無理だったし、ハルとアヤがいなきゃ、あの場所まで辿り着くことすらできなかったよ。本当に、ありがとう」


 信也が心からの感謝を口にすると、ハルは照れ臭そうに鼻を擦り、彩はふふっと上品に笑った。


「何言ってるのさ。私たちこそ、あの伝説の瞬間に立ち会えて光栄だよ。……また別のボスでも、ボイスチャットを繋いでやろうね!」


 そんな他愛もない攻略の思い出話や、これからのギルドの予定について、おしゃべりに花が咲く。


 昨夜、命を懸けて戦った戦友たちとの、最高に清々しい打ち上げ。


 だが、会話が一段落したところで、彩が不敵な笑みを浮かべて身を乗り出してきた。


「それで……。ぶっちゃけ、今はどういう関係になったの? 二人」


 その直球の質問に、店内の喧騒が一瞬だけ遠のいた気がした。


 市香が隣でビクリと肩を震わせ、上目遣いで信也の反応を窺う。


 解決した、とは伝えていた。


 けれど、血の繋がった兄妹でありながら、ゲーム内では夫婦であるという、この歪で、けれど誰よりも純粋な関係に、どのような名前をつけたのか。


 信也は、迷わなかった。


「……まあ、一言で言えば。夫婦、だな」


 静かに、けれど断固とした意志を込めて、信也は告げた。


 直後。


「「きゃあああああああああああああ!!」」


 彩と風火……女子高生二人による、黄色い悲鳴のような歓声が店内に響き渡った。


 周囲の客が何事かとこちらを振り返るが、そんなことは今の彼女たちには関係ないようだった。


「お兄ちゃんと結婚! リアルでもゲームでも! 何それ!きゃーっ!!」

「最高!!やっぱり、私の読み通りだったわ!二人なら、きっとそうなるって信じてた!」


 興奮して机を叩く二人を前に、信也は苦笑しながらも、少しだけ居住まいを正した。


「……不味いことだってのは、俺も分かっている。世間的には、到底認められることじゃない。でも……」


 信也は、隣で頬を赤らめている市香の手を、テーブルの下でそっと握りしめた。


「それでも、俺たちはこの道を選んだ。……お前たちが、あの時『レッツゴー!』とか『ファイト!』とか言って、俺たちの背中を押してくれたから。そのおかげで、俺はイチと……市香と、心から愛し合えるようになったんだ」


 その言葉を聞いた瞬間、彩と風火の瞳に、わずかに湿った熱が宿った。


 彼女たちは知っていた。


 信也がどれほど悩み、どれほど自分を殺そうとしていたか。


 そして市香がどれほど絶望し、それでも兄を求め続けていたか。


 そのすべてを見守り、時に煽り、時に支えてきた「戦友」として、今の信也の宣言は、何よりも嬉しい「勝利報告」だった。


「当たり前じゃない。……あんたたち、幸せにならなかったら承知しないわよ。ねえ、イチ。もしもナガに泣かされたら、私に言いなさい。この手でアカウント消去してあげるから」


「そ、それは勘弁してくれ」


 彩の軽口に、一同が再び笑いに包まれる。


「よし! せっかくだから、こっちでも記念写真を撮ろうよ! ほら、二人とも真ん中に寄って寄って!」


 ハルがスマートフォンを取り出し、カメラを構える。


 信也は、市香の肩を抱き寄せた。


 市香もまた、当然のように信也の胸元に身体を預け、幸せそうに目を細める。


 その両脇を、最高の仲間である彩とハルが固める。


 レンズ越しに見る自分たちの姿。


 カシャリ、と乾いた音が、放課後の店内に響いた。


 スマートフォンの画面。


 そこには、最高の仲間たちと、かけがえのない最愛の存在。


 そして、愛を語ることを、誰かを求めることを、もう躊躇わなくなった。


 ヒーラーであり、双子の兄である、信也自身の新しい顔が写っていた。


 窓の外。


 江ノ島の海は、どこまでも青く、穏やかに続いていた。


「崩壊」を経て、たどり着いたこの平穏。


 ここから始まる日常が、どんなに険しいものであっても。


 隣に彼女がいて、そしてこの絆を認めてくれる仲間がいる限り。


 俺たちは、どんなボスの攻撃も、どんな運命の嵐も、笑って乗り越えていける。


 もう、境界線なんてどこにもない。


 ただ、この温もりだけが、俺たちの真実だ。

以上で、長いようで短い物語「ネトゲの嫁が妹だった件」を終わります。作者の感想としては、後から「アレ書くべきだったな……」と思うところがたくさん湧き出ました。主に中盤、信也が自分の気持ちに気づき始める辺りでの、ネトゲでの様子の変化や母親の反応を書くべきだったなと考えています。でもそれらを思いついた頃には既に、加筆修正出来る段階ではなかったので諦めました。ブクマは嬉しいです。高評価も嬉しいです。感想も、その他の反応何もかもに私は喜びます。遠慮なく私にそれらをプレゼントしてください。でも、それと同じくらい……「この物語を覚えてて欲しい」です。本作品はAIを使用していますが、これは純度百パーセントの「私の言葉」です。そしてまたいつか、ふとした時に、ここに戻って来て欲しい、なんて思っています(勿論、今すぐ読み直すのも全然構わないですし、そうしたくなるぐらい楽しんでもらえたなら嬉しいです)。読み直すと、例えば33話の「今にも折れそうな危うい感じ」などの細かい表現に気づけるかもしれません。そしてそれらを見て「市香が金曜日時点で既に大分弱っている事を、こんなさり気ない表現で出していたのか!」みたいな感想が更に出たら嬉しいです。最後に、もう一つ「私の言葉」を申し上げます。「お付き合いいただき、ありがとうございました!!」次回作「(完結保証)殺人を止めるために告白したけど、このあとどうしよう!?」も応援してください!!もう九話までは出してます!!

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