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鳥かごの少年達  作者: LOG
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第7話 一時の夢を見せてあげる

 任務を遂行しなかったルーサを、アスカは責めなかった。「娘さんが病気で、品数が全然なくて……」と取ってつけた弁解を彼女は信じ、「それは心配だなあ……」とアリスの身を案じる。

 プレゼントの購入は来月へ持ち越しとなり、アスカが別の店で調達すると言い出した。何度も訪ねては病気のアリスやその家族に負担をかけるのではと、彼女なりの気遣いだ。ルーサはセルとマイに事情を伝えると、「アスカらしいな」とセルは呟いた。

 セルはルーサの行動が理解出来ないでいた。痣の持ち主が見つかった以上それを機関に伝えるのは当然の義務だ。ましてや想定外の13人目ともなると、早期に対応する必要があるのは、誰の目から見ても明白だった。一定のサイクルを刻んでいた呪いに、僅かな綻びが現れた以上それを見過ごす事は国として絶対に出来ない。ルーサはその禁忌を犯そうとしているのだ。どんな処罰を受けるかわからない友を前に、セルは溜息をついた。

「もしあの母親が、娘を連れて行く事を拒んだらどうするんだ?」

 休み時間に尋ねるセルに、ルーサはしばらく考え込んだ。

「その時は有無を言わさずリツカに言うぞ、いいな?」

 返答を待たずに付け足したセルに対し、ルーサは無言だった。代わりにセルに悲しい表情を向ける。

「……まさかお前、あいつに惚れたのか?」

 あいつとはアリスの事だ。ルーサはそれにも答えなかった。次の授業に使う教科書を数冊出し、おもむろにページを捲る。セルは小さく溜息をつき、「それでも絶対に機関に報告するからな」と念を押した。

「みんな、席に戻って」

 いつものリツカの声に、皆がばたばたと席につく。室内が静かになったのを確認すると、一呼吸置いて口を開いた。

「……三日後、誕生日会をします」

 瞬間、教室内の全ての音が消えた。ついに、来た。

「ラルム……あなたの誕生会です」

 努めて冷静にリツカは告げた。名前を呼ばれたラルムは何も言わない。レイナが椅子を倒す勢いで立ち上がった。

「嫌だ……!」両手を固く握り締め、体を震わせる。

「ラルムがいなくなるのは嫌だ……!」今にも泣きそうなレイナ。常に勝ち気で攻撃的な彼女のそんな姿に、皆が何も言えず神妙な面持ちで注視する。

「私は……!」「うるせえぞ、レイナ」

 低い声が遮った。ラルムは前を見据えたまま続けた。

「がたがた言うな。自分の誕生日でもあるまいし」

 鼻で笑うラルムを、リツカが叱責する。

「ラルム! レイナは……。レイナはあなたの事を、本気で心配して……」「そういうのがうぜえんだよ!」立ち上がったその勢いに驚いた近くの女子が、大きく上体を斜めに反らした。

「家族だ恋人だうるせえ……。どうせ成人したら死ぬんだよ。最初から終わりが決まってんのに、好きだの嫌いだのまじでくだらねえな。……こんな俺達に姉をきどるお前は、もっと気に食わねえけどなあ!」

 リツカは驚きの表情を見せた。何か言おうとする彼女の口を塞ぐように、ラルムは続ける。

「一般教養? 他の子供と同じ? はっ、笑わせんじゃねえよ。俺達はこの痣を持って生まれた瞬間に、他の子供とは天と地程かけ離れた存在なんだよ。それを善人ぶって家族とか言って、俺達を育てた気になってんじゃねえぞ? どうせお前もマダムリリーも、高額な支援金目当てで俺達の面倒見ているのは分かってんだよ。そんな噂ずっと昔から流れてるし、町歩いてりゃあ色んなやつに言われる。金目当てなら最初から割り切れよ。家族だとかくだらねえ入れ物に、俺達を無理やりはめようとするんじゃねえ!」

 機関銃のように罵声を浴びせたラルムは、その勢いを維持したまま教室を出て行った。次いでレイナ。二人の気配が消えて静寂に包まれた室内に、再び音を取り戻したのはマダムリリーだった。

「どうしました。何やら酷く騒がしい様子でしたが」

 眉間に皺を寄せ、不快感を露わにする。リツカはすぐさまかぶりを振った。

「何でもありません、お母様」

 曖昧な笑みを浮かべて答える彼女に、それ以上言及はしなかった。しかし舐めるように教室を見渡すと、思い出したかのように「ああ」と一言呟いた。

「まあまあ仕方ありませんね。取り乱すのは、ね。しかしこれは光栄な事。他の皆さんは分かっていますよね?」

 確認の語尾に圧があった。何も言えない子供達の静寂を切り裂いたのはセルだった。

「俺は国のために死のうなんて考えていない。ただこの呪いが存在する以上それが避けられないなら、成人するまでは何としても生きて、少しでも呪われた子供の数を減らす。でも俺がいる以上、絶対に――」

 皆の視線がセルに注がれる。

「俺は絶対に、必ずこの呪いを解いてみせる」

 セルは椅子にもたれかかる。マダムリリーは目を細めたが、セルの次の言葉を待つかのようにじっと動かなかった。

「家族ごっこなんかするから反発するやつが出るんだ。ラルムの言う通り、割り切って淡々とただ衣食住を保障すれば済む話を、あんたらがややこしくしてるんだ。違うか?」

 リツカが口を開きかけたが、一つ早くマダムリリーが返答する。

「知った口を生意気に。私達はですね、家族に捨てられたあなた達に、ほんの一時の夢を見させてあげているんですよ」

 すると、驚きと怒りが混ざったリツカの視線を察知したのか、肩をすくめたマダムリリーは「失礼」と告げ、その場を去る。

「セル……。いや、皆、あのね」「リツカ、もういい。……もういいんだ」

 リツカの弁解を拒否するセルを、誰も責めはしなかった。

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