異世界に飛ばされたけどお兄ちゃんがいるから大丈夫だよね?
その日私はいつものように学校に行く支度をして玄関で愛する人を待っていた。
「おまたせ、ひなた」
そう言いながら玄関にやってきたのはこの私『小鳥遊ひなた』が世界で一番愛している『小鳥遊勇太』である。
「お兄ちゃん、早く行かないと遅刻しちゃうよ」
「わかってるよ。寝癖がなかなか治らなくてな」
「だから私がやってあげるって言ったのに」
「妹に髪といてもらうなんて恥ずかしいだろ」
そして私達は家を出ると学校に向かった。
すると少し先に見知った人たちが歩いていた。
「もう!太一がなかなか来ないからこんな時間になっちゃったじゃない!」
「だからさっきから謝ってるじゃないか」
「ん。謝って済むなら警察はいらない」
「いやいや、ケイも遅れてきたじゃん」
女3に男1のグループだった。
『篠山太一』『水城ありさ』『要恵』『鹿苑寺渚』
私のクラスでもカースト上位の4人組だ。
「前を歩いてるの、お前のクラスの生徒じゃないのか?」
「そうだけど・・・別に話したことあんまりないし。あっ、そういえばお兄ちゃん!」
「ん?」
「もうすぐだね。全国大会」
「まあな。高谷剣心流が使えりゃ優勝できるかもしれないが普通の剣道の試合だからな」
「普通に剣道でも絶対お兄ちゃんが優勝するもん!」
そんな話をしていた時だった。
「わっ!なんだ!?」
篠山くんが叫んだ。
前方を見ると、4人の足元が突然光りだしていた。
それはまるで魔法陣のようだった。
「これはまさか異世界召喚?」
要さんがつぶやく。
そして、何故か私達の足元も光りだしていた。
「ひなた!」
「お兄ちゃん!」
私とお兄ちゃんは無我夢中で抱き合っていた。
そして次に目を開くとそこは見たこともない草原だった。
「ここは・・・?」
「ひなた、大丈夫か!?」
「う、うん。私は大丈夫・・・。でもここは・・・・?」
「わからない。少なくともうちの近所ではなさそうだ」
お兄ちゃんがスマホを見ながら言った。
私もスマホを手に取り見てみると『圏外』の文字が。GPSも機能していないようだった。
「これはもしかしてアニメでよくある異世界転移とかゆうやつか?こういう時は、『ステータスオープン』!なんてなーーてマジか!?ひなた見えるか?」
お兄ちゃんがそう言うと、半透明のメニューみたいなものが宙に浮いていた。
名前 ユウタ・タカナシ
レベル1
称号 ヒナタの兄 剣聖 異世界召喚に巻き込まれし者 魔術師?
体力 560
魔力 12650
スキル なし
「わ・・・本当にステータスが。まるでゲームみたい・・・」
「ひなたもやってみたらどう?」
「う、うん。『ステータスオープン』!」
私も同じように手をかざし叫んでみる。
名前 ヒナタ・タカナシ
レベル1
称号 ユウタの妹 異世界召喚に巻き込まれし者 魔術師?
体力 460
魔力 68000
スキル なし
「どうだ?出たか?」
お兄ちゃんには見えていないようだった。
「うん!見える?」
「おお、見えた見えた」
どうやら本人が許可しないと他人には見えない仕様のようだ。
「やっぱりここって・・・」
「ああ、異世界のようだな」
「とにかく人のいる場所まで行ったほうがいいよね・・・。さっきから嫌な気配がするし・・・」
「ヒナタも気が付いたか。まさかこの世界にも怪異が・・・」
そう、私たち小鳥遊家は街に蔓延る不可思議な存在、通称『怪異』を駆除する魔術師の家系なのだ。
悪霊や妖怪がほとんどである。
「とりあえず調べてみるか。『探索』!」
お兄ちゃんが手をかざして探索の魔術を展開する。
「2時の方角5km先に怪異の気配が3つだな。ちなみにおそらく人間の気配が2つ」
「お兄ちゃんどうする?助ける義理はないけど助けたら情報が聞けるかも」
「そうだな。まずは情報が欲しいな。よし、急ごう!」
というわけで私とお兄ちゃんは走り出した。
「ねぇお兄ちゃん、飛んだほうが早くない?」
「いや、ここがどこか分からない以上目立つのは避けるべきだ」
いくら魔術師でもさすがに5kmのマラソンは少し疲れる。
ようやく目的地についた頃には私は息が切れていた。
「はあ、はあ・・・でもお兄ちゃんはさすがだね・・・」
お兄ちゃんは全く息が切れていなかった。
「鍛えてるからな。それにしてもありゃなんだ?」
女性二人の周りを緑色の小さな人型の妖怪?が三体取り囲んでいた。
「小鬼?にしては色がおかしいけど・・・」
すると一人の女性がこちらに向かって叫んだ。
「あなたたち!早く逃げて!子ども二人じゃゴブリンには勝てないわ!」
「お〜っ!これが噂に聞くゴブリンか!さすが異世界だな」
「だね!」
女性二人は傷だらけでゴブリン相手に剣を構えていた。
「お兄ちゃん、私がやっていい?」
「ああ、でもちょっと待ってな」
お兄ちゃんはそう言いながらゴブリンの間を一瞬で抜けて女性二人のもとに行った。
そして地面に手を着くと魔法陣が展開された。
「もういいぞ」
お兄ちゃんが張った結界にゴブリンが突撃するがビクともしない。
「えっ!?今あなた何を!?」
「なんだ、結界魔術を知らないのか?異世界なのに」
「魔術!?魔法じゃなくて?」
「うそ!?詠唱もなしで魔法を行使するなんて」
結界により攻撃が効かないと分かったゴブリンは私の方に向かってきた。
「お嬢ちゃん!危ない!」
「いや、ひなたなら大丈夫。それより衝撃に備えてくれ」
私はゴブリンに向けて手を伸ばし、魔術を組んでいく。
「これだけ広ければ思い切りやっても大丈夫だよね」
そしてゴブリンたちの足元に魔法陣が光る。
「グゲ・・・?」
ゴブリンは戸惑っている。
「獄炎乱舞!」
高さ15mほどの火柱が立つ。
そしてゴブリンたちは一瞬で影を残して消え去った。
「お兄ちゃん、終わったよ!」
「てゆうかヒナタ、さすがにオーバーキルだろ!今のはドラゴン相手でもやりすぎなくらいの魔術だろ」
「いたっ!何もたたくことないじゃない」
お兄ちゃんは私のもとに来るなり頭をポカリと叩いた。
すると女性二人が駆け寄ってきた。
「えっと・・・とりあえず、助けてくれてありがとう」
「ありがとうございました」
二人が頭を下げる。
「言葉は通じるみたいだね、お兄ちゃん」
「みたいだな。口の動きと言葉が全く合ってないのが気持ち悪いけど。異世界召喚特典みたいな?」
「とりあえず自己紹介するね。私はクリス、冒険者よ」
「ミリアです。同じく冒険者です」
赤髪ロングの女性がクリス、緑髪ショートヘアの女性がミリア。
「俺は小鳥遊勇太、いや、ユウタ・タカナシって言えばいいのか?」
「私は妹のひなたです」
「家名持ちってことは貴族様!?」
「い、いや。俺達の国ではみんな家名を持ってるんだよ」
「へぇ、そうなんだぁ」
「そうなんですかぁ」
とりあえず納得してくれたようだ。
「ところで、聞きたいことがあるんだがいいか?」
「うん、助けてもらったし何でも聞いて?」
「ここはどこなんだ?地球じゃないよな?」
「チキュウ?ここはエルハンド王国の王都近郊だよ」
やはり異世界のようだった。
すると突然私の頭の中に声が聴こえてきた。
『レベルが上がりました。称号ゴブリンキラーを獲得しました』
「えっ!?何!?」
「ひなたどうした?」
「なんか今頭の中に『レベルが上がりました』って声が・・・」
「それは『世界の声』ですね」
「そうそう、レベルアップの時とかに聞こえるやつ」
クリスとミリアが教えてくれた。
「ところでさっきの威力だけど、ヒナタはそうとうレベル高いでしょ!?」
「えっと、レベル2ですね」
「「ウソ!?」」
二人が同時に驚く。
「俺なんかまだレベル1だけど」
「「はっ!?」」
さらに驚いていた。
「さっきの動きはレベル1の動きじゃなかったよ!?」
「まあ、日々体を鍛えてるからな。それより人がいる街に行きたいんだが」
「それなら私達もこれから王都に行くところだから一緒に行く?」
「ならちょうど良かった。案内を頼む」
「うん!まかせて!」
そして私達はクリス達と一緒に王都エルハイムに向かうことになった。