5 モブ令嬢、萎縮する
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王子ローレンス様やウィルヘルム様たちの前で盛大に転び、ウィルヘルム様が婚約をしてると周知した翌日――。
慣れない不躾な視線を浴びながら今日を過ごす。
言いたいことがあるのなら視線じゃなくて言葉を送って欲しいと思ってしまうけど、まぁそんなことするわけないよね。
周りからは中途半端な距離をとられながら放課後、昨日の言葉通りにウィルヘルム様が教室にやって来た。
忘れたふりして家に帰りたかったけど、クラスメイトたちが引き止めるからそれも出来ない。
ま、そりゃそうか。
伯爵家と言っても王家に近い家だし、もしウィルヘルム様がいらっしゃった時に私がすでに帰ってしまっていたら自分たちが怒られるかもしれないもの。
例え、ウィルヘルム様がそういった方ではないと分かっていてもだ。
自分たちが格下の家である以上、何かがあってもおかしくない。
「アスクル嬢、行こうか」
「え、は、はい」
手にしていた荷物をさりげなく取られ、呆気にとられる私をウィルヘルム様は可笑しそうに笑いながら馬車の待つ場所へ向かう。
ウィルヘルム様と並んで歩くべきではないと数歩下がって歩こうとしていたのにウィルヘルム様はさせてくれなかった。
いつもより長く感じる廊下を歩き切るとやっと多くの視線から解放されたけど、緊張の糸は未だ繋がったままで顔を上げることが出来ない。
開き直るにはまだ度胸も諦めも足りないらしい。
2人だけの馬車の中は静かで落ち着かない。
馬車が走る音だけが響いて長い沈黙ばかりが続いて、やがて小さな建物の前で止まった。
どう考えてもウィルヘルム様のような方が訪れるような外観ではなくて――頭の中では警鐘が大きな音を立ててなり始める。
それを察知したのかウィルヘルム様は、私が逃げるとでも思ったか、馬車から降りるために貸してくれた手でそのまま私の手を引いて中に入った。
お店、なのかな?
外観こそ古びた家のようだったんだけど、中はシンプルだけどおそらく高級品だろう家具があった。
なんていうか家具からウィルヘルム様たちのようなオーラがあるから高級品なはず。
「ようこそいらっしゃいました、ウィルヘルム様。本日はお連れ様も一緒でしたか」
モノクルを右目にかけた男の人が出迎えてくる。
隙のなさそうな人だなぁってもしかして証拠隠滅とかする人?
だとしたら、やっぱり殺されるの?
兄さんについて来てもらわなくて正解だった。私が起こしたことに巻き込まなくて済むんだから。短い人生だったな。
「アスクル嬢?」
「……な、なんでしょうか」
目の前でウィルヘルム様が手を縦に振って心配そうにこっちを見てます。
「気分が悪いようなら――」
「だ、大丈夫です。びっくりしただけですから」
「それならいいけれど、無理はしないで声をかけて?」
「は、はい」
ウィルヘルム様に案内されたのは二階にある個室で、なんというか外観からは想像もできないほど立派な部屋です。
先ほどのモノクルをかけた男の人が紅茶を運んで部屋を出て行くとウィルヘルム様は涼やかな笑みをして口を開いた。
「楽にしてよ。そんな怯えられると流石に傷つく」
「……は、はぁ」
うーん、なんだろう。
ウィルヘルム様はウィルヘルム様なんだけど違和感が……。
違和感はあるけど、まぁいいかとすぐに考えるのをやめたレイ。