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4 モブ令嬢、心の中で絶叫する

お読みくださりありがとうございます!

 王子たちの前で人にぶつかって転んで、ウィルヘルム様が手を差し出してくれたけど何も言われなくて良かった。


 婚約したと知られたらものすごい騒ぎになるもの。なんで、こんななんの取り柄もない男爵家の令嬢がウィルヘルム様と婚約しているんだって。


 それにしても休日を挟んでまた恐ろしいことをやってしまった。

 偶然起きたハプニングとはいえ、二度もあればいい印象は持たれないよね。


 目をつけられたらどうしよう――って、もうつけられてるんだった。


 ま、あんなこと誰かに言ったって信じてくれるかと言えば怪しいけど。

 仲のいい友達くらいは信じてくれるだろうけど、大抵はきっと私が嘘つき扱いされるだけね。


 あぁ、それにしても周囲の視線が痛い。

 登校時に起きたあの事件はあっという間に学校中に広まっていて、目撃者たちがほらあの子だよって友人に教えていて、ますます視線が突き刺さる。


 影が薄いって評判なのに、どうしてこんなに覚えてる方がいらっしゃるのかしら?


 と、まあこんな具合に地味で目立たないはずの私は学校で話題になってしまった。

 もっとも、みんなすぐに忘れてしまうだろうから少しの間だけ我慢すればいいのよね。きっとそう。


 そう思っていた。昼休みを迎えるまでは――。


 図書室裏の小さな花壇前なら誰もいないと昼休みはそこで過ごすことに決めた私は、授業が終わるとすぐさまお弁当箱を持って教室を出ようとした。


「なんで詰まってるの?」


 教室の出入り口は完全に人で塞がって、どうにも通り抜けられそうもない。

 なんか令嬢たちは騒いでるっぽいし、誰か来たのかもしれない。


 それよりも、頑張ってここを抜けないと――。


 人混みをなんとか抜けようと気合を入れた瞬間に、クラスメイトが私の方に振り向いて人混みが割れる。


 その先にいたのは涼やかに笑うウィルヘルム様で……。

 私の頭の中で警鐘が高らかに鳴り響いて、出来もしないけれど全力で逃げろと言っているように聞こえた。


「レイ・アクスル嬢」


 まっすぐにこちらに向かって来たウィルヘルム様は私の手を取って微笑まれる。

 今はもうその微笑みも恐ろしいものにしか感じないですし、何か裏があるようにしか見えないのですよ。


「さっきはすぐに逃げられてしまったからね」

「わ、わたしのような卑小なにん――」


 手を取られてしまうと気軽には逃げられない。そうじゃなくても逃げるのは無礼すぎるけど。

 蛇に睨まれたカエル状態な私は片足を半歩引いて、なんとか声を出したけどウィルヘルム様に遮られてしまう。


「アスクル男爵から聞いていない?君と僕は婚約したのだけど」

「なっ……」


 ――んでよりにもよってこんなタイミングでぇ‼︎


 周囲からは突き刺さるような視線に加えて、朝とは比較にならないほどの声が上がる。

 なんであんな誰も知らないような男爵令嬢がウィルヘルム様と婚約を?と疑うように。


 そうですよね。私だって自分が傍観者(観客)なら思ったはずだし、出会う(気にされる)機会さえないはずなのだから疑問になるのはもっともだと思う。


 呆然とする私の前で笑みを深めたウィルヘルム様は私の手を取ったまま続けた。


「最近のことだから知らないのも無理はないかもしれないね。一目惚れをしてずっと君を探していたんだ」


 納得するなクラスメイト共、疑え!


「そう、でしたか。どこで見かけられたのでしょうか」

「それはまだ秘密」


 チッ、かわされたか。まぁ、こんな公の場で言えるわけもないだろうけど。


 周りの令嬢はウィルヘルム様の微笑みにうっとりしているけど、今の私には悪魔の微笑みにしか見えない。


 私の顔を見るとクスリと笑みをこぼしたウィルヘルム様は急なことで驚かせてしまったねと言うと、握ったままの私の手の甲にキスを落として明日の放課後迎えに来ると残し去っていった。


 見張りか口封じか――。

 今はウィルヘルム様が素敵だとか思えない。ただあの落ち着きが恐ろしい。


 昼休みが終わる頃には噂として学校中に知れ渡っていて、私はいやに突き刺さる視線すら気にする余裕もなくその日を過ごした。


 あの場にいた自分が悪いと思いながら、こうなる原因を作った王子ローレンス様を心の中で恨みながら……。


ちょっと口が悪いレイ。庶民に近いのでそんなこともあります。

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