モブ令嬢の舞台裏1
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「レイ・アスクル男爵令嬢と婚約をしてもらいたい」
学校帰りに急な呼び出しをくらったウィルヘルムは友人の頼み事にしかめっ面をした。
なんの前置きもなくこんなことを言われて、二つ返事で了承するなどできようもない。
「唐突だな、ロー。理由は?」
しかし、いきなりの話に驚くこともなくウィルヘルムは話の続きを促した。
「秘密を知られてしまってね。漏らさないように監視をしてもらいたい」
「ローレンス王子の秘密とは?」
ウィルヘルムは何を知られたのかと興味深げにローレンスに尋ねるが、ローレンスは頰を染めて大したことではないと言う。
大したことではないなら監視をする必要もないと思うのだが、ウィルヘルムは口には出さず面倒そうにローレンスの話を了承した。
付き合いの長い友人の隠し事には当たりは付いているし、アスクル男爵令嬢から聞けばいいのだ。
おそらく、そのご令嬢も監視役が話を知らないわけがないと快く教えてくれることだろう。
「ウィル、頼んだ」
「はいはい、わかりましたっと」
聞き入れてもらえたことにホッとした様子のローレンスは侍女の運んできたお茶を飲み、ウィルヘルムは同じようにカップに口をつけて呆れた顔をしていた。
王子からの命であることを隠して婚姻の打診をするとなると理由を考えなければならない。
理由なんていちいち言わなくても格上の家からの話を男爵家が断ることもないだろうが、やはり余計な詮索をされないためにも適した理由が必要だろう。
やはり簡単なのは一目惚れしたというものか。
ある程度地位のある人間が気に入った相手を家に招き入れるという話は古今東西どこでも聞くものだ。
あとは実際に会ってから詰めればいいとウィルヘルムはカップを空にすると立ち上がった。
幸いにも明日は休みだ。
急ぎやらなければならないことが出来た今ここに長居は無用とさっさと帰ることにする。
それにしてもとウィルヘルムは思う。
ローレンスもさることながら、アスクル男爵令嬢はそんな場所で何していたのだろうか。
おそらくローレンスは学園内でも人が滅多に行かない場所にいたはずだ。
そのような場所にいたというご令嬢にはどうにも抱かなくてもいい不信感も持ってしまう。自分の役割としては受け入れなければならないのだが。
まずはローレンスのお願い通りに婚約を結ぶことが最優先だとウィルヘルムはため息をついた。
面倒な相手じゃないことを祈りながら。
ウィルヘルムはローレンスの言う秘密に目星はついています。