3 モブ令嬢、ウィルヘルム様と遭遇する
お読みくださりありがとうございます!
――眠い。
ウィルヘルム様との婚約というより、自分の明るい未来が全くもって見えないせいか全然眠れなかった。
授業中寝たら追いつけなくなるから眠るわけにもいかないんだけどって、気にする必要もないのかな?
口封じをされるなら、残るものなんて何もないわけだし。
弱気な考えしてどうするの、レイ!
まだそうと決まったわけじゃないのだから諦めちゃダメよ。
なんて、ウトウトしながら歩いていたのも悪かった。ぼんやりしていたせいで人にぶつかって転んだ。
「わっ――」
――いやぁぁぁぁぁぁ。ちょっと、なんで⁉︎
転んだ先にいらっしゃるのは、王子ご一行で一気に眠気が覚めて血の気が引いた。
学校内では皆平等の立場って言われているから、そう、これは不敬でもなんでもないただの事故で謝って去ればいいだけの話よね。
だとしても、だとしてもだ。
この前のこともあるのに普通に出来るかぁ!
なんというかかなり気まずい。
なんてタイミングの悪い。
今だけはお会いしたくないのですけど。
「大丈夫?」
ちょっとだけ笑いをこらえるように呆れたように声をかけてくださったのはウィルヘルム様で、私は差し出された手を借りて立ち上がった。
あんなことがなければ、一生の記念になるような出来事だと思えたのかもしれないけど、今は恐怖心しか湧かないわ。
正直、手を借りなければ立ち上がれないような精神状態なので、恐れ多いとか思ってる余裕はない。
「ありがとうございます。ウィルヘルム様」
ウィルヘルム様にお礼を伝えた後、私は王子たちに突然すっ転んで王子たちの邪魔をしたことを謝り倒すと、周囲の視線を気にする余裕もなく駆けるようにして教室に向かった。走っちゃダメ、絶対。
☆☆☆
「あの子がそう?」
「うん。レイ・アスクル男爵令嬢」
突然目の前に現れた少女に手を貸してやれと王子は目配せでウィルヘルムに指示を出していた。
一瞬のやりとりで王子の言う少女だと悟ったウィルヘルムは、早足で去っていくレイを目で追った。
「ふーん、彼女がねぇ」
「どーしたんだ?ローレンス、ウィル」
筋肉隆々のバレットは、2人が転んだ少女を見送っていることに疑問を覚えて尋ねてきた。
声はでかいし、脳筋ではあるが野生の勘は鋭いためバカには出来ない。
「ちょっと面白そうな子だなって思っただけ」
「率先して関わらないでくださいよ。品位が落ちますから」
「ふふ、分かってるよ。セルジオ」
眼鏡をかけた少年セルジオはレイが下級貴族だと分かっていて、あまり近づかないようにとウィルヘルムに釘を刺した。
セルジオも選民意識がそこまであるわけでもないが、秩序を守るには一定の線引きは必要だと考えているだけだ。
上位にいるものが末端をいちいち気にかけることはない。数が多いものを全て気にかけていては成り立たなくなってしまう。
ウィルヘルムは愉快そうに笑うと、大きく伸びをしてレイが去っていった方角をもう一度だけ見つめた。
レイにぶつかった生徒も青ざめてます。
王子たちには謝ったようですが、レイは逃げたので謝罪できず。
明日の朝8時頃更新します。