モブ令嬢の舞台裏6
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あのパーティーの騒ぎを収束させたのはウィルヘルムから頼まれたセルジオではなく、リードだった。
そんな彼から会って話したいと連絡がくれば行くしかないと、ウィルヘルムはリードの家に足を運ぶ。
「あなたは、アスクル嬢の……」
使用人に案内された部屋の先、いたのは若くして当主を継いだリードではなく、レイの兄フリッツだった。
ソファの上にあぐらをかいて堂々と座っている。
「お、あのウィルヘルム様でも豆鉄砲食らったみたいな顔するのな」
フリッツがいることへの驚いているウィルヘルムに、フリッツはイタズラが成功した子供のようにニッと笑った後で、兄の顔をする。
「この前はありがとな。妹の夢を叶えてくれて、うちみたいのはお披露目会くらいしか機会がないからな」
「感謝なんて……こちらが謝るべきの――」
そんな記念日、レイにとっての晴れの日が台無しになったと事実を思い出せばウィルヘルムも平静を装うのが難しかった。
フリッツと目を合わせられず、目を伏せた。
「それとは別物だろ。あいつ、落ち着いたら叶うはずのない夢が叶ったってすげぇ喜んでたし」
ウィルヘルムを言葉を遮ってポンとフリッツが言った。気にするなと言うことらしい。
「まぁまずはリードを呼ばないと」
隣の部屋に続く扉をフリッツは叩くと、扉を開けて頭だけを隣の部屋に突っ込んだ。
その間にウィルヘルムは小さく息を吐く。
フリッツとリードが友人だと情報は得ていたが、予想もしていない時に現れると心臓に悪い。
「早くしろって。ウィルヘルム様を待たせる気か?」
「お前が連絡を怠ったからこうなっているんだろうが」
急かすフリッツにリードが声を荒げて何やら騒がしい。
聞き耳を立てずとも聞こえてくる応酬が終わるのをウィルヘルムは待つが、なかなか終わりそうにない。
待つ間にお茶が運ばれてくるが、使用人はもうしばらくお待ちくださいとだけウィルヘルムに声をかけて去っていった。
2人のやりとりに関しては放置するつもりらしい。
「――あと、お前はその乱れた格好を直せ。だらしのない」
リードの呆れたような声が聞こえてくる。
フリッツは上着の肩部分を肘あたりまで下げて、髪もリードの小言に頭をかいたまま乱したままでリードの言うことも頷ける。
「姑かよ。いや、母様か?」
「誰がだ!妹を見習え、フリッツ。然るべきところでは然るべき振る舞いをだな」
「底辺貴族に学を求めるなよ。ところで、ウィルヘルム様待たせてるけどいいのか」
「全く、お前はぁ」
ついでにお茶も運ばれているとフリッツはリードに報告して、先ほどまで座っていたソファの上に戻った。
リードのいる部屋に向かってちろっと舌を出して笑ったフリッツは、絶対に確信犯だろう。
「お見苦しいところを見せて申し訳ない」
現れたリードは一瞬だけフリッツに冷ややかな視線を向けたあと、ウィルヘルムに向かって謝罪をしてから対面のソファに座った。
「いえ、侯爵の意外な一面を発見出来ました」
世間には年の割に落ち着いていると言われるリードも、今この場では印象がガラリと変わる。
口うるさい母親、または小言の多いメイド長とでも言おうか。そんな感じを受けるが、おそらく面倒見はいいのだろう。
「先日のパーティーでは騒ぎを収束してくださったのは侯爵だとお聞きしました。ありがとうございます」
「感謝されるようなことはしていない。それにあまりいい方法とは言えない」
お披露目会に行けなかったレイの初参加のパーティーだと知っていたリードはそれを利用した。
レイがしがない男爵家の令嬢ということは知れ渡っているので、あの泣き顔と合わせれば同情を誘うことだろう。
「本題に入ってもいいか?」
「いいだろう。ウィルヘルム殿もいいか」
「はい。謝罪と感謝は伝えられましたから」
タンと机に手を置いたフリッツは先ほどまでのおちゃらけた雰囲気を消して、静かにウィルヘルムに問いかけた。
「まどろっこしいことはなしだ。妹は一体何に巻き込まれてる?」
「なんのことでしょう」
おそらくフリッツたちは、ウィルヘルムの役目に気がついているのだろうと推測は出来るが、ウィルヘルムも王子から命令を話すわけにもいかないので知らないふりをする。
「タダで話すわけねぇのは当たり前だな。だからカードは用意した」
「僕に王子を裏切れと?」
ウィルヘルムが静かに返す。
「んー、対価によってはな。気に入ってくれること請け合いってな」
不敬とも取れる発言をフリッツは随分と簡単に言ってくれる。
しかし、フリッツの真意が分からない以上ウィルヘルムは何も言わずにフリッツの言葉を待った。
「学校の革命者って知ってるか」
「僕が入学する前の話なのでしっかりと知っているわけではありませんが」
数年前、学校の腐敗した部分が明るみにされ一年ほどで学校を変えてみせた人物がいて、正体不明のその人のことを指している。
その事件がきっかけで、後ろめたいことをしていた貴族なんかもけっこう摘発されたと聞いたことがある。
噂では王家のとある組織だとか、当時の生徒だとか言われているが謎のままだ。
「それ、俺な。証明についてはリードに任せた!」
「投げるな!お前のせいで王家に誓うという常套句が言いにくいだろうが」
リードは諦めたようにため息を吐くと、隣の部屋から紙の束を運んでくる。
「証拠と呼ぶには心許ないものですが、聡明な貴方になら分かるのではないでしょうか」
ウィルヘルムが手に取ってみると、中身は指示書や計画書と呼ぶべきものだった。
フリッツがリード宛に出したもののようだが、ここ数年リードの活躍目覚ましく若くして爵位が継げたのはこう言うカラクリか。
そして、自分の持つ情報と照らし合わせたウィルヘルムが出した答えは……。
「彼女は王子の秘密を見てしまい、僕は見張りの命を受けました」
「そーかよ。ま、やばいことに巻き込まれてなくて安心した」
かなりやばいことであるとウィルヘルムは思うのだがフリッツはそう思ってないらしい。ついでいうとリードもだ。
どさっとソファに倒れ込むフリッツを注意するリードに、フリッツは言い返す。
「うるせぇ‼︎無事だと分かってて心配するのが悪いかこの野郎」
「あの子なら心配して当然だと思うが、私が言いたいのは客人の前でだらしない姿を見せるなということだ」
しぶしぶ起き上がったフリッツは頭をガシガシとかいてウィルヘルムへとじっと視線を向ける。
「ま、能力があるやつで助かったってやつだな」
「そうだな」
フリッツはお茶を一気飲みすると勢いよく立ち上がった。
「ウィルヘルム・セドリック。レイとの関係が続く間まででいい、力を貸してくれ」
やたらトラブルに会うレイが、大きなトラブルに会わないようにしたいのだとフリッツはウィルヘルムに頭を下げる。
ウィルヘルムもそれはなんとなく感じるところもあったので協力を惜しむつもりはない。何度か危険そうなのは排除したりもした。
おそらくレイとの関係もそれによるところが大きいのだろうという推測もある。
「僕の力が少しでも手助けになるのなら」
それにウィルヘルムはレイの言う胡散臭い笑みを浮かべて返した。
帰り際、ウィルヘルムは部屋を出る直前に振り返るとフリッツに向けて言葉を残す。
「彼女を手放すつもりはないですから、フリッツさん」
「――ちょ」
引き止める間も無く去って行ったウィルヘルムの言葉にフリッツは唖然とし、そばにいる友人がおかしそうに笑いながらフリッツに言う。
「お前が必要なくなるわけじゃないだろう、フリッツ」
「意趣返しかよ、あの野郎」
リードの言葉にフリッツは返事を返さず、寂しさと喜びの感情を抱えて複雑そうに天を仰いだ。
なんとなく似てる兄妹なのかなぁ?




