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17 モブ令嬢、バレット様に出会う

お読みくださりありがとうございます!

 胡散臭い笑み、いや、周りを虜にする笑みを浮かべてウィルヘルム様が放課後やって来た。


「アスクル嬢、時間があるなら少し話さない?」


 放課後すぐは帰らないだろうと知った上で来たらしい。

 確かにすぐは馬車も混むから、しばらく学校で時間を潰してから帰るのが習慣ではあるけれど。


「昨日のこともあるし、一人になんてさせられないから」

「昨日のことってなにかあったんですか?」


 いかにも心配だというふうな表情でウィルヘルム様が言って、婚約者が迎えに来たわよとはしゃいでいたミディがその言葉に戸惑うようにしてウィルヘルム様に尋ねた。


 ミディはそうなるかも知れないと思って私をなるべく一人にさせずにいてくれてて、余計な心配をかけたくなくて昨日のことは言えてなかった。


「ごめん、ミディ!」


 ウィルヘルム様が説明する前に私は両手を顔の前で合わせてミディに謝ると、昨日のことを簡潔に口にした。


 ウィルヘルム様に相応しくないから身を引けと言われて、フィール様のおかげで助かったこと。

 フィール様とお茶を飲んだことはひとまず必要ないので言わなかったけど。たぶんミディがうるさくなるし。


「もう、なんで言わないのよ‼︎」

「何事もなかったからいいかなって。ほら、ミディは心配してくれてたしこれ以上は――」


  知ったらミディは私が一人にならないようにそばにいてくれるだろうけど、それはミディを巻き込みかねないし、ミディの自由もなくなっちゃうからさすがにね。


「そんなことないわよ!とにかくっ無事で良かった……」


 かぶせ気味に言うミディがどれだけ心配してくれてるのかよく分かった。

 だからこそ、ウィルヘルム様たちのことで巻き込みたくないんだよね。


「ここからは僕が引き継ぐよ。任せてもらえるかな?」

「もちろんです。ウィルヘルム様、レイをよろしくお願いします」


 この前みたいな惚けた顔はなく真剣な表情でウィルヘルム様にミディが頼む。

 そんなミディに見送られながら私はウィルヘルム様と一緒に教室を出た。


 廊下を歩きながらウィルヘルム様が話しかけて来た。


「いい友達だね」

「はい。大事な友達です」


 ミディとは幼馴染で、ちょっとミーハーなところがあるけど面倒見がいい頼りになる友達なんだよね。


 自慢の友達だと大きく頷いたところで、ウィルヘルム様を呼ぶ大きな声が聞こえてきた。


「おい、ウィル!手伝ってくれ」

「バレット?」


 呼んでいたのはウィルヘルム様の友達であるバレット様で、渡り廊下の先でウィルヘルム様を手招きしていて、私はウィルヘルム様と一緒にバレット様のところまで向かいました。


「ウィル、これを運ぶの手伝ってくれ」

婚約者(彼女)といるときに頼むのは無粋だと思うけど?」


 バレット様のそばには両手で抱えなければならないほどの大きな箱が五箱と取っ手のついた小さい蓋つきのカゴが一つ。


 ウィルヘルム様は面倒臭そうにバレット様に返しますが、バレット様は気にした様子はありません。


「そうか?お、どっかで見たと思ったらこないだの奴か」

「この前みたいなことがあったら頼むよ、バレット」

「おう、任せとけ!」


 そういえば、バレット様が見てたから昨日のことをウィルヘルム様も知ってたんだっけ。

 それなら一応、恩人になるのかな?


 胸をドンと叩いたバレット様はウィルヘルム様を呼んだ理由を忘れたわけでなく、荷物を運ぶの手伝って欲しいとまたウィルヘルム様に頼んでいるバレット様と目が合いました。


「ウィルを借りてもいいか?」

「え、あ、はい。もちろんです」


 もちろん断らずにウィルヘルム様をバレット様に差し出します。

 私みたいな底辺の弱小貴族が断れるわけないですから。


「いいってよ」

「言われちゃしょうがないか。どこまで持っていけばいい?」

「ここの第二倉庫だ」


 バレット様はそう言って三つの箱を軽々と持ち上げ、ため息を吐いたウィルヘルム様が残りを持ちます。

 カゴの中はガラス瓶が入っているとのことなので落とす危険を考え私が運ぶことになりました。


 荷物を運んだお礼と先生から学食の軽食チケットを頂き、バレット様に押し切られる形で今から行くことになり人の少ない食堂に移動します。


 食堂のメニューはどれも美味しそうで、滅多に利用しないからこそ悩む。

 食事系にするかスイーツ系にするか。

 なるべく早く決めないと、ウィルヘルム様とバレット様に迷惑をかけることになるな。


 かなり真剣に悩んで候補を絞っていると隣から声が降ってくる。


「良かったら半分ずつにする?」

「へ?それは、嬉しい提案ですけど……」


 顔を上げればニコニコしているウィルヘルム様がいて、どうやら悩み続けている私を見て楽しんでいたらしい。


 もしや、バレット様も――。

 バレット様は真剣に悩んでるや。同類だな。


 結局、バレット様も含めて各自が選んだものをそれぞれ三等分してもらって食べることに。

 私とバレット様は庶民の味、ウィルヘルム様はおしゃれそうなものを頼みました。


 丁寧な動作で食べるウィルヘルム様と違い、バレット様は豪快で話し方や動き一つとっても庶民に近く緊張はしません。


「へー、そんな味も出てんのか。食ってみてーな」

「毎年、春先に出してるみたいなので、来年も出ると思いますよ」


 と言うより、バレット様はほとんど庶民に近い暮らしをしているようで話が合います。まぁ、ほとんどが食べ物の話なんですけどね。


「2人がそんなに絶賛するなら、今度買いに行ってみようかな」

「す、すみません。ウィルヘルム様」


 つい話が弾んでウィルヘルム様を放置してしまっていたことに気がついた私は立ち上がって謝罪をする。


 バレット様は気にするなと豪快に笑っているけれど、そういうわけにもいかないもの。

 ウィルヘルム様は謝罪は必要ないと私を座らせると私の行動をおかしそうに笑って言います。


「むしろ、アスクル嬢の好みが分かって思わぬ幸運かな」

「お、そんなら庶民の味をもっと教えてやろう」


 それからしばらく、私とバレット様はウィルヘルム様が知らないであろう庶民の味を、ウィルヘルム様に教えるのでした。


バレットもレイと同じく本気で悩み中。


コロコロと表情の変わるレイに対し、バレットは1番美味そうなものを探していました。

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