16 モブ令嬢、違和感に気づく
お読みくださりありがとうございます!
「送って行く」
疲れたしウィルヘルム様のお言葉に甘えさせてもらいましょう。
乗り合い馬車に乗るよりもゆっくり出来るし、一回くらいはいいですよね。それが目的で乗らせてもらっても。
なんとなーく、いつもよりも優しい気がするウィルヘルム様と一緒にウィルヘルム様の馬車に乗り込みます。
馬車の扉が閉められ、ウィルヘルム様はカーテンを閉めると私に向けて頭を下げてきました。
「すまなかった。今日はアスクル嬢に要らない負担をかけた」
「え、いや、ウィルヘルム様。あた、まをあげてください。そうされる理由なんて……」
突然のことに頭は軽いパニックを起こしていたけれど、なんとか言葉を捻り出す。
ちょっと噛んだのは仕方ない。むしろ声を出せた自分を褒めたい。
むしろ今日はウィルヘルム様に助けて頂いて感謝はあっても、謝られるようなことはないと思うけど。
すぐに心当たりを見つけられず首をかしげる私にウィルヘルム様は呆れた風な顔をして説明をしてくれます。
「バレットとセルジオから聞いた。状況からして俺の婚約者として相応しくないとかって絡まれてってところだと」
「……あ、はい、そうでした」
すっかり忘れてた。
ウィルヘルム様やその原因を作ったローレンス王子のこと内心このヤローとか思ってたんだけど、フィール様と美味しいお茶とお菓子を前にその前にあった怖かったこと丸ごと吹き飛んでた。
「でも、フィール様がいらしたので何事もなかったんですよ」
「怪我も?」
「はい」
ウィルヘルム様は何事もなかったということに胸を撫で下ろすと続けて言います。
「もっと目を光らせておけば良かったと痛感した」
「そうですよね。私が口を滑らせないとも限りませんから」
吊り上がった目をされたあんな大勢に詰め寄られたら怖いですし、逃げるためについポロッと喋ってしまってもおかしくはないですよね。信じてもらえるとは思わないけど。
「いや、そっちじゃない。アスクル嬢は喋らないって思ってるから。むしろ、余計な負担をかけたと思ってさ」
えーと、信用されてるってことでいいのかな?それとも、喋るなって念押しされただけ?
「いえ、そのようなことは……」
「嘘つかなくていいよ?アスクル嬢は分かりやすいから」
顔に出てたんだ。
もー、ちゃんと隠さなきゃ貴族としても大人としてもやっていくことなんてできやしないじゃない。
あー、顔が暑い。
でも、わかられてるならいいのかな、本心を言っても。
「そう、ですね。正直、なんでこんな目に遭わなきゃならないんだって思いました」
「本音をどうも。これからはそんなことが起こらないように善処する。今後とも秘密を漏らさないように頼むよ」
ウィルヘルム様の言葉に私はもちろんですと返します。
命の保証だけはされているとは言え、ローレンス王子の秘密ですし、今日のフィール様のご様子を見たらどこにも言えるわけないじゃないですか。
あんな、恋する乙女の……。
あ、違和感の正体が分かった!
フィール様やウィルヘルム様に抱えた違和感は、そういう。
「あの、ウィルヘルム様。質問をしても?」
「答えられる範囲でなら」
「私の知るフィール様とかなり違っていたんですけど、あれは……」
そう、割と凛としているのが世間的によく見るフィール様なんだけど、今日のフィール様はなんだかフワフワした感じでいつもと違う気がした。
「それも秘密で頼む。フィール様の素はあんな感じだ」
フィール様にしてもウィルヘルム様にしても顔を使い分けてるんだなぁ。
もしかして、フィール様たちのような高貴な方はみんなそうなのかな?
また呼ばれると思うからとウィルヘルム様は知っておいた方がいいと言います。
フィール様と口約束した手前、ウィルヘルム様も私とフィール様のお茶会の時間を作る必要もあるそうです。
身分不相応すぎるので出来れば遠慮したい、逃げ出したいですけどね。
「それにしても……」
ウィルヘルム様は言葉を出す前に堪えきれずに笑い出した。
笑うところなんてないはずなんだけどと、首を傾げればウィルヘルム様は笑いながら教えてくれた。
さっきの、フィール様のお誘いの返答時に私の視線が食べ物に向いていたことを思い出して笑っていたらしい。
多分、フィール様も気がついているという。
「は、花より団子なんです‼︎」
真っ赤な顔でなんとかそう言い返し私は家に着くまでの間、羞恥でウィルヘルム様の顔を見ることが出来なかった。
今更、レイは違和感に気づきました。
気づいたもののレイにとってはそこまで重要でもない様子。




