モブ令嬢の舞台裏4
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「なあ、あいつ見たことないか」
暇すぎて窓の近くでスクワットをしていたバレットがそう言って地上にいる少女の一人を指差した。
「誰のことです?」
バレットと同じく暇な時間を過ごすセルジオは読んでいた本から目を離すと、バレットの指差す先を見たが彼が指す人物が分からない。
「ほら一人だけこっち向いてるやつだよ。いるだろ、一人」
「そういわれましても、僕にはよく見えないので分かりません」
眼鏡を触り地上を見るがセルジオには一人だけこっち向いてる少女が判別できない。
複数の人物がいることくらいは眼鏡をかけた視力で判断はできたのだが、そもそもセルジオには性別すらも最上階じゃ区別すら出来ない。
これは単にバレットの視力が特別いいだけで、平均的な視力であってもせいぜいなんとなく制服で性別が判断出来るかといったところだろう。
「お、そうか。髪はこんくらいで……」
バレットが自分の首元に髪の長さを示したところでローレンスがウィルヘルムを連れて部屋にやって来た。
「――遅れてすまない」
「お待たせ。どうかしたの、バレット?」
首筋に手を当てたままのバレットのおかしな行動に怪訝な顔をしたウィルヘルムが尋ね、バレットは窓の外を指差すがそこには誰もいなかった。
「どこかで見た顔なんだけどな。思い出せねぇ」
悩むバレットをよそにローレンスたちは机を囲む。
城に集まるよりも楽だと、こうして学校で集まり話し合いをすることは多い。
バレットが思い出せないと悩むのはいつものことなので誰も相手にしない。
ローレンスが彼に求めるのは腕っ節の強さと、まれに行き詰まった話し合いの流れを変える突拍子のない発想だ。
一時間ほどで話し合いが終わり、その間も頭を抱えていたバレットが思い出したと大きな声を出してウィルヘルムを指差した。
「そーだ、お前の婚約者だ」
「アスクル嬢?」
「彼女がどうかしたのか」
そんな名前だったかとこぼしたバレットはまぁなんでもいいかと言い、先ほど自分が見た光景を伝える。
人の立ち位置についてはセルジオが補足を入れていた。
「目は光らせてたんだけど」
「早急に探した方がいいかも知れませんね」
ほとんど何もしなくてもいいという約束とでも言おうか。
レイにとって必要もないことに巻き込んでしまったとウィルヘルムはすぐさま部屋を飛び出ると、レイがいたという付近へと急いだ。
その場にレイがいないということはおそらく無事ではあるのだろうと思いながらも一抹の不安を抱えながら、ウィルヘルムはレイの手かがりを探して校内を歩き回る。
ほどなくして、レイがフィールに連れられていたという情報が入り、フィールがいる場所に向かった。
その道中ウィルヘルムはレイはきっと緊張しているだろうと想像ができ、クスリと笑いをこぼしていた。
ちょっとだけ追加。
「おいウィル、荷物忘れてるぞ‼︎」
「もう聞こえませんよ。荷物は片付けておくで帰りましょう」
セルジオは自分の荷物を片付けたあとで、ウィルヘルムの筆記用具などを片付けると二人分の荷物を持ってロッカーまで向かった。
「全く、何をしているんだか」
呆れるようにセルジオは呟くが、その顔は仕方ないとでもいうようだった。




