10 モブ令嬢、警戒する
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「レイ。レイと友達になって今日が一番いい日かも」
ウィルヘルム様がお昼ご飯を一緒にと私のところまで来た直後、ミディが惚けた顔でそう言った。
遠巻きにしか見ることの出来ないウィルヘルム様が目の前にいるわけで、ウィルヘルム様のファンと言うミディはウィルヘルム様に見惚れている。
私たちがウィルヘルム様やローレンス様と同じクラスになることはほぼないし、こんな至近距離で見ることはないから仕方はないのかもしれないわね。
固まったまま動かないミディを見てウィルヘルム様が私に尋ねられ、私はミディを正気に戻しながら答える。
「ふふ、いつもこうなの?」
「あ、いえ、今日はたまたま――」
あんたのせいだよ!
分かってて言ってる感じのウィルヘルム様はにこやかに笑っている。
ミディの話だと『優しくて素敵な紳士』らしいけど私の印象は詐欺師だ。
ウィルヘルム様はちらりとミディを見てから私に問いかける。
「もしかして彼女と約束してた?それなら別の日にするけど」
「あ、今日は――」
「いえ、空いてます!友達と約束しててレイは一人になるところだったんです。ウィルヘルム様が来てくださって助かりました。レイ一人は心配で」
私の台詞に被せるようにミディが元気良く食い気味に言った。
ミディがウィルヘルム様の婚約者になった私を心配していたのは確かで、友達とのお昼を断ろうとしてたくらいだ。
庶民と等しい家の私じゃ、どんなやっかみがあるか分からないからミディはなるべく一人で歩かせたくないらしい。
「そう、なら良かった」
「レイをよろしくお願いします」
「もちろん」
ミディはウィルヘルム様の言葉にホッと胸をなでおろすと待ち合わせしている友人のところへ向かった。
いつもは食堂で食事をしているウィルヘルム様は私に合わせると言うので断ったけど、ウィルヘルム様には何か狙いがあるようで押し切られてしまった。
一度、食堂に寄ってウィルヘルム様の昼食を用意して、私が昼食を食べようとしていた予定地にウィルヘルム様と向かった。
「へぇ、こんな場所があるんだ」
ウィルヘルム様を連れて向かったのは校舎から少し離れた場所にある滅多に人の通らない場所で、ここなら人に会話を聞かれることもないはず。
言葉通りに連れて来てしまったけど変な場所に案内していることは確かで、謝ろうと口を開いた時ウィルヘルム様が喋り始めた。
「ここなら何話しても問題なさそうだ。人が来てもすぐに分かる場所みたいだし」
「そう、ですか」
密会には良さそうな場所だと言うことですね。そんなつもりはなかったんだけど、まぁいいか。
いくつか古いベンチがあるのでそれぞれベンチに座ってお弁当を広げる。
こんな風に食事をするのはウィルヘルム様的にはどうなんだろうと様子を伺えばウィルヘルム様は手慣れた様子でお弁当を広げていた。
「どうしたの?」
「あ、いえ、申し訳ないなと……」
いくらウィルヘルム様に押し切られたといえ、いい場所ではないような。
「気にする必要はないよ。バレットのやつに付き合うとこんなもんだから」
「バレット様に……」
バレット様は学生の身ながら騎士団の一員となった方で、ローレンス様ウィルヘルム様のご友人だ。
ミディ曰く脳筋らしいけど。
「そ、騎士たるものどこにでも適応しなければならないってさ。巻き込まれるわけ」
ウィルヘルム様を巻き込んでるあたり脳筋って間違いでもないのかな?
お弁当を食べ始めて好物を食べた直後、ウィルヘルム様から質問が飛んでくる。
「ところでアスクル嬢、人気のない場所を多く知っているみたいだけど?」
「――それは」
ウィルヘルム様の言葉が妙に尋問めいて聞こえて、背筋が凍った。
殺されるのではと不安になるレイを大笑いするウィルの姿があったとかなかったとか。
バレットの場合は雨でも決行なのでセルジオあたりが必死で止めます。
バカは風邪をひかないもバレットには褒め言葉だったり。後半しか聞いてないので。




