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1 モブ令嬢、目撃する

よろしくお願いします。

最後までお読みいただければ嬉しいです。


それでは、『モブ令嬢は逃げ出したい』始まります!

 あぁ、どうしてこんなことに……。


 あの日あそこにいた私が悪いのか、それとも、あんな場所で逢引していた王子が悪いのか――それは分からないけれども、これだけは言えた。


 ――どう考えたって面倒なことになったと。


 二年生に進級したばかりの頃のことだ。

 まだ外は寒いというのにその風の冷たさが心地よくて、校内を散歩していた私は人の滅多に来ない学校のガーデンに向かい一息をついていた。


 すると、王子がフィール様(婚約者)ではない女性と仲睦まじい様子でやってきた。それもお二人であたりを警戒しながら。


「ここなら大丈夫そうだね」

「そうですね。人はいないようですから」


 見つかるわけにもいかないとこの場から立ち去ろうにも辺りはわりと開けていて逃げようもなく、仕方なく私はガーデンの中で身を縮め息を殺して、王子たちがこの場から去るのを待つことにした。というか、見つからないためにはそれしかなかった。


「それで、バレットが怒って暴れ始めて大変だったんだ。全員、連帯責任だと片付けまでさせられてしまった」

「まあ、そんなことが」

「ああ。セルジオもウィルもバレットに怒ってはいたけれどね」


 聞き耳を立てなくても聞こえてくる会話は他愛ないようだけど、時折笑い合うそのお姿は恋人同士にしか見えない。


 なんなんだ王子は。

 あんな形容しがたいほどに美しい婚約者のフィール様がいるのに別の女性と2人きりで仲睦まじくしているなんて、ヘドが出そうだ。

 今すぐにでも出ていって詰問したいくらいだけど、堪えるのよレイ。


 お二人がここを去るまで気配をなくしているつもりが、しゃがみこんでいた私は足に限界がきて体勢を変えようとしてその場ですっ転んだ。


 ―――っ。

 痛い。声を出さなかっただけ自分を褒めてやりたいんだけど、確実にバレた。

 どうか罪に問われませんように。


「誰だ⁉︎」


 王子が誰何の声を上げてこっちにやってくる。


 あわわ、どうしよう。

 猫の鳴き真似とかやってもどうしようもないよね。こうなったらとりあえず……。


 やってきた王子に私は、転んだままヘラッと笑っておくことにした。

 さすがフィール様とお似合いなだけあって王子のご尊顔も素敵だわ。姿絵よりも実物の方がずっと格好いいもの、ほかの方たちが騒ぐのもわかる気がするわ。


「…………立ち上がれるかい?」


 長い沈黙の後、とりあえず転んだままの私に気遣って王子は立ち上がるのに手を貸してくれる。


 手を取るのも恐れ多いけど、差し出された手を取らないのも不敬すぎる。

 ひとまず、厚意はしっかりと受け取って感謝だけはきっちりと。今できるのはそれだけね。


「ありがとうございます、王子」

「倒れていたなら手を貸すのは当たり前、それが女性ならなおのこと。怪我は?」

「あ、ありません。大丈夫です」


 恥ずかしさでだんだんと声が小さくなってしまったけど、今はこれで――。


 視線を向けるべきではないとわかっていてもつい王子の後ろからこちらを見ている女性に視線がいってしまう。


 本来は何も見ていないし聞いてもいないと、何も知らないふりをするべきなのだろうけど、そんな器用なことは私には出来ない。視線はがっつりと女性の方へ。


 婚約だから浮気とも違うと思うんだけど、ただ婚約者のいる相手と2人きりで仲睦まじくしているのは、うん、どう考えても良くないことのはずで……。


 知らぬ存ぜぬ私は何も見ていないと、そういう何食わぬ顔が出来ていれば良かったのだと思う。

 ポーカーフェイスもまともに出来ない、感情がすぐ面に出てしまう私は、きっといまこの瞬間も表情が顔に出ていたのだろう。


 わずかに思案をしていた王子が口を開いた。


「君、学生証を見せてもらえる?」

「学生証ですか」

「うん、そう」


 なんで学生証をと思いながら言われるがままに学生証を制服のポケットから取り出した私は王子に見せた。


 学生証を受け取った王子は名前の部分をなぞって私の名前を確認すると学生証を私に返して、今見たことは決して他言しないようにとくぎを刺して女性と去っていきました。


 王子の隣を歩く女性って確か――可愛いって騒がれてる一年生じゃなかったっけ?





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