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8.ダメ出しの応酬

イリス

————

 通された応接室で真向かいに座ったアイツに、私は用意してた資料を渡した。


 この間、友達から聞いた女騎士の悩みと実情、それに私が受けた精神的苦痛について。


 あんまり皇城に足を踏み入れたことなんてなかったから、私にとっては一大発起のこの“女騎士の地位向上”計画をここまできて実行に踏み出すのは、なかなかの勇気だった。


 それなのに、門前払いさせられそうになり、想定外な事態に焦ってたし、頭もカッカなってた。


 そこに来て本当なら一瞬たりとも顔を合わせたくないアイツのお出まし……

 まさか、私が相談しようとしていた窓口の担当になるなんて、想定外も想定外。


 そういえば、旦那様もアイツも皇城でどんな仕事をしているのかも知らなかった。本当に同じ屋敷に5年もいたのに、シスコンのキモい男という以外、何も知らない。


 あ、でも上半身は意外と引き締まった体してるっていうのは、こないだ初めて知ったけど……



 カッカしてたから勢いあまって、騎士団長にバレたらまた無理難題を突きつけられそうな態度をヤツにしてしまったけど、一応、話し合いの場は設けられた訳だし、良しとしないと。



 正面から見据えていると、アイツは渋々ながら、私が持ってきた数枚の綴じられた紙に目を通した。


「てんで、駄目だな」


 ヤツは資料を前にあるテーブルにパサッと放り投げた。


「駄目って何が?」


「ただお前の恨みつらみを書き殴っただけで、こっちにどうして欲しいのか全く伝わってこない。大体こういう要望書には決まった書式があるっていうのに、全くなってない」


 くっ……だって学生時代は騎士の鍛錬がメインで、座学なんて基礎教養だけだったもん。皇城に提出する資料の書き方なんて知らないし。


 もっと上にあげてもらいたいのに、こんな所でつまづいてるなんて。ホントに自分が嫌になる。


「何より根拠が薄すぎる。何人に聞いて回ったんだか知らないが、訴えを裏付ける証言が少ない上に、まとまりのない文章で全く説得力に欠ける」


 うっ、あの場にはけっこうな数の女騎士がいたけど、実際に具体的な話を聞いたのは、2、3人くらい。

 他の子達は、すっごい相槌打ってたけど、話までは聞いてない……


 それに私にはまとまった文章を書く文才がないことは私自身がよく分かってる。


「だいたい、なんだってこんな回りくどい要領の悪いことをするんだ? エミリアにでも頼んで、皇女に直訴すればいいだろ」


 は? 何こいつ、なんでそんなセコい考えが浮かぶ訳?

 しかも、婚約者の分際で自分が代わりにやるとは言わないんだ。本当に男の風上にも置けない最低ヤロウめ。


「それじゃあ意味ないでしょ! 正規のやり方で通さなかったら、真に権利を掴んだということにはならないんだから」



ラドルフ

————

 なんだってコイツはこんなに融通が利かないというか、頑固なんだ。


 これじゃあ、うちの家門に入って社交をさせても上手く立ち回れないだろうな。

 婚約を考え直すか、前のエミリアみたいに人目に晒さないようにするか。


「無駄な足掻きだろうが、好きなようにすればいいだろ」


 もう、本人がダメだと気づかない限り、これ以上この女騎士うんぬんの話はしても無駄そうだな。


「それじゃあ、私が受けた辱めのことはどう考えてる訳? エスニョーラを格下げるような事を言われても何とも思わないの?」


 コイツが俺や父上の妾だ、どうだと訳の分からない事を言ってたテドロ公爵家の婆さんの例のアレか。


 さっきの子どもの作文みたいな訴えにも、しつこいくらいに罵詈雑言が書き連ねてあった。


 あれは流石に俺も胸クソ悪くはあったが……


「ふん、あんな物言い気にしなければいいだろ? 現にうちの家族はお前がそうでない事は分かっているんだから」


 アイツは俺を軽蔑したような目で睨みつけると、


「この意気地無し!!」


 そう一言放って部屋を出て行った。


 一応そういうことにしておいたが、あれだけの大貴族になると変に目をつけられると厄介だ。


 まあ、俺だったらやり込める自信があるが、アイツごときが首を突っ込めばそれこそ、うちの家門の危機再来にもなりかねないだろう。


 早めに芽は摘んでおかないと、と思ったが、なんかますます火に油を注いだ感がハンパない。



 その日の夜、いつも背中のアザの手当てに寝室に来るヤツは来なかった。

 まあ痛みもほとんどしなくなってたし、別に構わないが。



 そんな事があった後のある日、父上、母上、エミリアの4人で帝都のティールームへお茶に行くことになった。


 エミリアと外出なんて初めてのことだ。


 というより、仕事やらマニュアル本の管理で忙しく俺自身が外出自体めったにしないんだが。


 馬車でその店の前まで行ったが、俺以外の3人は席を立つ気配が感じられない。なんだ、これは?


「すまないなラドルフ、私たちは少し寄るところがあって、先に店で待っててもらえるか?」


 ものすごく嫌な予感がするが、俺もついて行くなんて子どものように駄々をこねるのも大人げない。


 怪しげな空気をヒシヒシと感じながら、通された席で待っていると、しばらくして現れたのは……


 やっぱり騙してたな。エミリアまで利用して。


 俺と同じように何も知らされてないような顔した、あの女がこちらに案内されてやってきた。

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