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7.彼の職場

ラドルフ

————

「エスニョーラの令嬢の話聞いたか? 婚約会に出た知り合いが言ってたんだが、ものすごい美しさであの次期公爵が終始抱きかかえて誰も寄せ付けないようにしていたらしい」


「そんな世俗離れした美女なら婚約してたとしても、一度誘ってみたいもんだ。でも相手があの色男だろ? 勝負する前から負けが見えてるじゃねーか。時間の無駄だな」


「おいっ、後ろ……」


 ここは皇城にある市民向けの窓口が集まった建物内の一角。


 普段は市民と直接やり取りすることはないため、ここには常駐していないが、自分の担当する部署の窓口もあるため、今日は書類のやり取りに訪れていた。


 そんな時にたまたま耳に入ってきたのは、我が妹エミリアの噂話。


 あのパーティーでは隣の騎士女のおかしな動きのせいで、挨拶した時の姿が全く記憶がない。

 それなのに、あの男が“お綺麗な方ですね” “よくお似合い”などと口が腐るような社交辞令を発していたのだけは、なぜか耳に残っている。


 アイツに回し蹴りされた後、あの男に抱きかかえられていたエミリアの姿はまぁ確かに、この世のものとは思えない光景だったがな。


 やはり、何もしなければこいつらみたいな男の餌食になっていた事を思うと、公爵家と婚約させた父上の判断は賢明だったようだ。あの男に頼らざるを得ないのは悔しいが。


 俺がちょっと後ろを通っただけで、噂話をしていた奴らは口を動かすのを()めた。



「だーかーら、話だけでもさせてって言ってるでしょ!」


 急に窓口からでかい女の声が聞こえてきた。

 どうやら変なのが来ているらしい。


「ですから、騎士職については各家門で取りまとめていることですから、我々が介入することはできないのです」


「だから、家門の中だけでやっててもどうしようも無いから、ここに相談に来てるんでしょ。 あんたじゃ(らち)が明かないから、もっと上の人を出してよ!」


 おいおいおい……

 あれはアイツじゃないか?


 騎士もどき女じゃないか。

 なんちゅう恥ずかしい真似してるんだ。


 俺は知らねー、関係ねー。

 さっさとこんな所、ずらかるぞ。


 さっと踵を返して、職員の出入り口の方から出ようとすると、


「あ、ラドルフさん! ちょうどいい所に! この女がいくら言ってもしつこくて、何とか上からの言葉として追い返して頂けないでしょうか……」


 く……ここは貴族からの暮らしの悩みや苦情を取り上げる相談窓口。

 内容によって各担当部署に取り次ぐ訳だが、俺は今ここの所属部門の上層部に入っていた。

 この場で無視する訳にはいかない。


 渋々、窓口の方へ向かった。


 あの女は、“なんでコイツがここに?”と見るからに顔に書いてあるような、あからさまな表情をこちらに向けてきた。


「どのようなご用件でしょうか?」


 俺は至って平静を装い、全くの他人のふりをして対応を進めた。


 すると、グイッと首のあたりから引っ張られた。


「上の(かた)? 女騎士の差別と偏見についてご相談願えますか」


 はぁ? 女騎士の差別、偏見?

 何考えてやがるんだ、コイツ。


 しかも、どうやら首元のタイを掴んで引っ張ってるようだ。

 相変わらず野蛮な女だ。


「おい、お前! ラドルフさんに対して何てことするんだ!」


 俺を呼んだ男が慌てている。


 これは話を聞くまでもなく、正当な理由でコイツを追い返せる。


「このような振る舞いをされてはお話を伺うことは出来ません。警備の騎士を連れて参りますので、どうぞお引き取りください」


 ふん、暴力で解決しようとする野蛮なヤツなど出る幕じゃない。

 さっさと帰れ。


「ここで坊ちゃまが今までお嬢様にしてきたことを大声でバラしてもいいんですか?」


 耳元でコイツは囁いてきた。


「タダでさえ世間の注目を浴びてる大事な妹君が、さらに注目の的になるでしょうね。 エスニョーラの家門もどんな目で見られる事か……」


 コイツ……

 この間は、そばに寄るだけでビク付いてたクセに。

 しかも、手当てする時はしおらしくしてるクセに、今日はやけに強気だな。


 このまま行くと、一波乱起こりそうだ。


「空いている部屋はあるか? この方をお通しする」


 窓口で最初に対応していた男は、キョトンとした顔を向けていた。


 それはそうだろう。まともに相手するとは思っていなかっただろうから。

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