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5.イリスの決意

イリス

————

 うあーーーーっ

 ムカつくムカつくムカつくムカつく……


 なんなの、あの婆さんは!?


 あの後、他の元同級生たちは、理不尽に打ちのめされた私のことを優しく慰めてくれた。


 ロザニアはいつもあのお(つぼね)女騎士と、(しゅうとめ)のような奥方に昔からはびこっている意味不明のしきたりや“女騎士とは”っていう刷り込みに悩まされていて、ダンスタイムの度に愚痴をこぼしてたらしい。


 いつもはあの婆さんとお局騎士はロザニアがお供しているお嬢様が出るような舞踏会には来ないから、今日は油断してしまってたらしい。


 きっと、皆と話ができるこの時間だけを唯一の楽しみに日々生きてきたんだろう……

 なんて哀れなロザニア!

 持ってる武芸の才能も頭脳も、これじゃあ勿体なさすぎる。


 それに、女騎士として名門貴族に雇われた友達は、邸宅内には必ずそういう考えの人間がいて、ほぼ同じような悩みを抱えていることも判明した。


 みんな悩みを所属元の騎士団の上層部に相談しても、まともに取り合ってもらえないという。

 それはウチの団長を見ていても分かるかも。


 女騎士は騎士団に所属しているといっても、ご主人様に直接お仕えしている身。

 例え団長だとしても“こうして頂けますか”なんて、雇い主に改善を要請するなんて偉そうな真似、どう考えても拒絶される。


 つまり女騎士は、ただただ我慢を募らせるのみで、問題を解消するための捌け口が全く用意されてないってこと!


 私自身も、まさか旦那様やあのシスコン男の「め○け」なんて屈辱的な言葉を浴びせられて、さすがに限界状態だ。


 しかも、騎士が貴族の真似ごと? って言ってたわね、あのババア。

 私は(れっき)とした貴族だっての。

 見た目で判断するなんて、どっちが貴族の品性を持ち合わせてないのよ。


 ふぅ、個人的な感情が若干入っちゃったけど、

 これはさっきのテドロ家のばあ様みたいな、直接攻撃してくる人達をやり込めば終了! って話じゃない。

 そんな事しても、同じような人間はそこら中にウヨウヨいるんだから。


 解決するには、女騎士に対する偏見や労働状況を変えていくしかない。

 もっと、上の方に訴えかけて、これまではびこってきた価値観は間違ってる、古い、カッコ悪いって、帝国民全体に意識づけていかないと。


 ……私が全部考えたみたいに言ってるけど、皆が言ってたことをまとめてみたんだけどね。



 そして今日、私は決意した。


 あのシスコン男の婚約者に成り果てた今、目標を見失って絶望の淵に叩きつけられてたけど、新しい目標……いや生きがいを見つけた。


 それは、女騎士の地位向上に貢献し活動すること!



「まったく、お前たちはまだそんな所にいるのか?」


 心の中で私が決意に燃えていたとき、声がした。


 見れば、旦那様の再々登場だ。横にいる奥様と腕を組んでいる。

 2人で踊ってきたんだ。

 お嬢様の婚約が決まった頃から、妙にこの2人仲良くなった気がするのよね。

 まあ、夫婦だから別にいいけど。


「他の連中にも婚約したと見せつけるために、一回くらいはちゃんと踊ってきなさい」


 くっ、嫌だけど、嫌だけど、これ以上逆らったらどんな無理難題、突きつけられるか分からない。


 あいつも私のことは嫌ってるらしいから、相当なしかめっ面してるはず……


 なんとか覚悟を決めて、アイツがいる方に向き直った。

 あれ、そうでもなくない? ちゃんと真面目な顔してるし。

 しかも、手の平差し出してきてる。


「こっちにも理由ができたから、我慢して付き合え」


 え……何言ってるの? 本当にキモいんだけど。


 でも頑張ってイリス。

 これから、いつ何時(なんどき)、コイツとこういうシチュエーションになるか分からない訳だから。


 手を伸ばそうとすると、ガタガタと手が震え出した。

 ヤツの手の上に持っていこうとするけど、手だけ金縛りにあったみたいに毎秒1mmくらいしか動かない。


 もっと早く動け、私の手。


「おら、早くしろよ」


 結局、アイツに掴まれて引っ張られた。


 ダメだ、この流れはもう勝手に動く体を止めることができない。


「いっ……て!」


 騎士団でも時々練習させられる護身術、手を引っ張られたら回し蹴りで相手の腰を(くじ)く技。

 それが発動してしまった。


「イリス! お前はまた……」


 団長がこっちに駆け寄ってきた時、周りの人たちが急にざわつき始めた。


「この野郎、また同じ所を……」


 私もさすがに床に四つん這いになって腰に手を当てて痛がってるアイツのそばにしゃがみ込んでたけど、そっちが気になって他の人たちが注目している方に視線をやった。



 そこには、この屋敷の超ハイスペックな公爵子息が、庭のあるガラス扉から長い足で颯爽と入ってきた所だった。


 その腕の中には、亜麻色の豊かでウェーブのかかった輝く長い髪を乱れさせ、ここにいる誰よりも豪華なドレスを身に纏った令嬢が抱え上げられていた。


 その髪の間から覗いている小さな顔は、まぶたを閉じている長いまつ毛も鼻も口も薔薇色の頬も、全てがこの世のものとは思えないくらい精巧で完璧だった。


 これがリアル眠れる美女と王子。本当にこういう人達って存在したんだ。


イリス

————

「やっぱりお嬢様は」


ラドルフ

————

「やっぱりエミリアは」


ラドルフ、イリス

————

「「めちゃくそ可愛い」」

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