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31.マニア2人の相談会

ラドルフ

ーーーーー


帝都の街中のひっそりとした路地裏の建物にそれはあった。


『Lの小部屋~あなたのお悩みご相談ください』


深い緑色の扉の横に書かれた小さな表札を尻目に、金色の取っ手を回してその中へ足を踏み入れた。


「よくお越し下さいました。本日はどのようなお悩みで?」


『Lの小部屋』に入ると、頭の上から足の先まで薄い紫色のベールを被った人物が待ち構えていた。

ベールは中が透けて見えそうで見えず、ソファに向かい合って座っていても、その顔をうかがい知ることはできない。


「それが、毎夜、ある女性が夢に出てきて……」


言葉に詰まりそうだが、今こんな事を打ち明けられるのは、ここくらいしかない……現状打破のためだ。恥を捨てろ、ラドルフ。


「だ、抱いてしまうんです。でも、現実の彼女はとてつもなく冷たくて。俺が何かしてしまったことは確かなんです。しかし、いくら調べても、これから先どうすればいいか分からず......」


「調べたとは、どのように?」


「例えば、小説“どうしてあの人なんかと”のような、似たような関係や場面が出てくるロマンス小説を読み漁り……」


「もしかして、あのロマンスノベル界の巨匠、レニー・ウォーエンの大傑作のことかい?」


「もちろんだ。以前は大して気にもしていなかった相手を思い詰めるようになるも、避けられ続ける生き地獄、そして2人の関係の再生を描き切ったあれだ。だが、あれは相手側も好意を抱いていたとなっているが、俺の相手が同じだとは到底思えない......」


「うーん。それならシャルロット・アザンテの“目覚めの時”は?」


ベールの奥から、わずかに熱を帯びた声。


「序盤は嫌われ確定なのに、相手の何気ない行動でそれが誤解だったと気づく……あれこそ王道中の王道だよ」


「分かっている。だが俺の場合、距離が縮まったと思っても、結局冷たく戻る。似ていても、決定的に違う」


「そっかぁ。それなら203年に出版された孤島が舞台の……」


何の糸口も見えないままロマンスノベル談義を続けること5時間……


「もうさぁ、いくら考えても君の彼女は理解不能だから、グダグダ言ってないで自分からぶつかって行くしかないんじゃないの? こうしてる間に他の男に取られてもオカシくないって」


もはや姿勢を崩して足を投げ出しながら相談相手はお手上げという具合に、開き直ったようにそう言った。


.....分かっているさ。結局、1番真っ当な道はそうするしかないってことくらい。


だけど......


「そんなことしたって、拒絶される先しか見えない......」


言われた通り早いところ動かなければ、あの姿では他の男に奪われるのも時間の問題。だったら.......


「婚礼と一緒にそのまま本当に手に入れてしまえば、いいじゃないか。一体何が悪いっていうんだ....」


面と向かって告白して、傷つくのが怖い。

ただ、それだけなんだ。


「君ねぇ、自分で何を言ってるか分かってるの?」


呆れたようなもの言いで目の前の相手がぼやくように呟いた。


「自分でも、酷いことを言ってるのは分かってる。だけど......」


向こうから深いため息が漏れた。


「そんなことをしたら、相手の気持ちを殺すようなものでしょ? 君は本当にそれでいいの?」


そう言われて、エミリアの婚約会の日、腕を組まされたイリスの死んだような虚ろな瞳の無表情が浮かんできた。


触れるか触れないかの距離感を保ちながら腕を組んで歩いた、人々の笑い声や話し声がひしめく賑やかな大広間の中。


硬直し、逃れられない運命からそれでも拒もうとしているようだった。


もし無理やり組み敷いたりなんかしたら、彼女はその無表情のまま冷たい涙を流し続けるだろう。


そんなことになったら......結局、俺はこの一生を後悔する。


「……やっと、やるべきことがハッキリした。礼を言う」



のろのろと立ち上がり、謝礼を払おうとすると、


「いいよ、いいよ。これは完全なるボランティア。たまにはこうして普段とは違う人と話して、刺激をもらわないと人生面白くないからね」


この話し方に声、どこかで聞いたことがあるような気がした。


俺の知り合いといったら皇城くらいにしかいないし、そこにいるような人間がこんな場末に部屋を借りる訳がないし、アホらしいな。


謝礼はそのまま残して、小部屋を後にした。



外に出ると、夕刻の時間になっていたが強い風が吹きつけていた。


待たせていた馬車にたなびく髪を抑えながら乗り込もうとした時、裏通りの角の古びた煉瓦塀の一部に奇妙な切れ目があるのがなぜか目についた。


半ば朽ちた木の扉が、風に軋んでいる。

その中央ら辺には、2匹の小さな蛇が絡むようにした紋章らしきものが微かに記されてるように見えた。


そんなものはどうでもいい。

次にやるべき事、それに集中するしか方法はないのだから。


覚悟を決めて馬車へ乗り込み、屋敷への帰路へついた。

同じ場面のL視点の話を『皇女様の女騎士 番外編集』の作品集に追加しました。

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【本編完結】皇女様の女騎士に志願したところ彼女を想って死ぬはずだった公爵子息に溺愛されました
目次はこちらから


『皇女様の女騎士 番外編集』
本筋に関係ない短編など
目次はこちらから


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