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27.公爵家の迷宮

イリス

ーーーー


皇族騎士団の馬に乗ってやってきたその場所に、思わず息が止まりそうになった。


赤茶色のレンガでできた、どこまでもどこまでも続いているような高い塀。


その一角に大きな石造りの門があって、3人くらいのガタイのいい男騎士が検閲のために待機していた。


これが、お嬢様の婚約パーティーが行われたヘイゼル公爵邸に次ぐ、第2の公爵邸、テドロ家の邸宅だ。


これまで明細集めに行ったどこのお屋敷よりも厳しい態度で、騎士たちは私が渡した皇族騎士団からの通行証をチェックするとやっと門の先へと通してくれた。


馬に乗ったままその奥へ進んでも、豊かな緑に覆われた敷地の景色はなかなか変わらなくて、しばらく行ってやっとこさ、またまた巨大なレンガ造りのお屋敷が姿を現した。


邸宅の前には丸い大きな噴水があって、そこで馬から降りながら、玄関扉につながる豪華な階段を登って行った。


「ではご案内いたします」


なんとか無事に邸宅の中へ入れてもらうと、奥ゆかしい感じの執事が先導してお屋敷の中を進んだ。


中はすごくシーンとしていて、シックで落ち着いた壁紙やアンティーク調の家具が置いてあって、私ですら気品高い雰囲気だというのが伝わってきた。


そんなふうにして、ちょっとキョロキョロと滅多に入る事はないだろう、大貴族のお屋敷の中の様子に目移りしていると、さっきまで前を歩いていたはずの執事が、あれ……? い、いないんだけど……


似たような静かな廊下の曲がり角が見えるたびに、左右を伺って執事がいないか目を配ってみるんだけど、ただ道に迷ってしまうだけで、全然見つけ出す事ができない!


まずい、まずすぎる……

外から見ただけでも、窓が山ほどあって、ともかく巨大な様子だったこの邸宅。


出口が見つからなかったら、ずっとこの迷路みたいな所で誰にも見つからずに一生を過ごすことになったりして?


うわー、身震いがしてきた……


ともかく、気を取り直して、まずは助けを呼ぼうと叫ぼうとしたとき。


「お嬢様ー!? もう会が始まってしまいますよ! お嬢様、どこですかー!!」


なんだか、でっかい声がどこからともなく響いてきた。


って、この声ってまさか……


私の前にある廊下の十字路から誰か出てきた。


赤くて長い髪に、赤いマントの騎士服をまとっている。


やっぱりだ。


「ロザニア、ロザニアーー!!」


その名を呼ぶとともに、やっと迷子から解放される喜びで彼女に駆け寄って抱きついていた。


「イリス? イリスなの!?」


急に抱きつかれたものだから、ロザニアはびっくりした様子で、目を大きくして私の方を見つめた。


「ほら、前に話した皇族騎士団のバイト。今日はテドロ家の担当の日だったんだけど、案内の人を見失って道に迷っちゃって……」


「もー、なんで見失うのよ! 相変わらずそそっかしいわね! ……という私もイリスの事は言えないんだけど、お嬢様が……マリアンヌ様が急にどっかに行っちゃって! 今日は帝国文化保存会の婦人会で出席しなくちゃいけないのに。大奥様とクロリラ先輩に怒られちゃうよ~」


という訳で、もう案内役だった執事の人探しはやめにして、ロザニアと一緒にテドロ家のご令嬢を探し出すことになった。


「この間の舞踏会の時も急にいなくなって、最近こういう事が多いんだよねぇ……今日の会もいつもはお嬢様は参加してないんだけど、大奥様が今後のために参加しなさいって命令で多分それで拗ねちゃってると思うんだよね……」


ふーむ、マリアンヌ様はまだ12歳。多感なお年頃なのかも。

ロザニアもあの婆さんとお局騎士に、護衛対象のご令嬢との板挟みにまであっちゃって大変だなぁ。


そうして、この邸宅を知り尽くしてるはずのロザニアから離れないようにしながら練り歩いていると、床にピンク色の紐状のものが落ちているのを発見した。


「これは……お嬢様の髪にしてあったリボンだ! こんな所、何もないのに……」


そのリボンを拾い上げて不安そうに見ているロザニアの横に、何か不自然な感じのものがあるのに気づいた。


「ねぇ……なんかここ、壁に隙間があるけど」


下は白い木板でその他は緑色をしている壁にタテに妙な隙間ができていて、それをフッと押してみた。


すると、ただの壁のはずの一部が内側に開いたのだ!


「もしかして……隠し扉?」


壁を押した状態で固まっていた私のそばに来て、ロザニアも薄暗いその中を覗き込んだ。


「好奇心の強いお嬢様ならこの中へ入っていった可能性はある。行こう!」


綺麗に整っていたお屋敷の中とは違って、その中は小さな石が積み重なったトンネルのようになっていた。


途中で螺旋階段があって、私達は地下へと降りて行った。


「こんな所があったなんて……このお屋敷っていうのは、帝国が誕生する前からあって、帝都の土地を収めてた君主の居城だったんだよね。だからたまに、発見されてない隠し部屋や隠し通路があったりするの」


歩きながらロザニアがそう説明してくれた。


「そうだったんだ……だけどここ、一体どこに向かってるの? 先が全然見えないけど……」


「そうだね、もうお屋敷の敷地は出ちゃってると思う。この方角だと、街の方じゃないかな?」


じゃあ、何か避難が必要だった際の抜け道として作られたのかな?

元お城だったんなら君主を守るためにそれくらいの事はしそうかも。


すると、まだ道は続いてたんだけど、脇にトンネルの壁沿いにアーチ状の入口のようなものが見えてきた。


「なんだろう、部屋になってるみたい。マリアンヌ様、いらっしゃいますか? お嬢様!」


やっぱりご令嬢の事が心配なロザニアは私よりも先にその部屋へと小走りに入って行った。


私も追ってみると、そこは結構広い空間になっていて、まるで自然のままになっているような、ゴツゴツとした岩が転がっていたり、床にはツタのようなものが所々に密集していた。


今まで歩いてきたトンネルは人工的に作られた感じがしたけど、もとは洞窟だったのかもしれない。


「グスッ……グスッ……」


すると、この洞窟みたいな部屋の中から泣いているような声が響いてきた。


「お嬢様! そこにいるんですか!?」


ロザニアは少し奥の方にある平べったくて大きな石の後ろの方へ向かって行った。


「ロザニア……? うわーーん!!」


石の影からは、長い金髪で細かいウェーブのかかったピンク色のドレスを着た女の子がひょっこりと姿を現した。


泣きじゃくりながらロザニアに抱きついてるその子の頭の左上には、さっき床に落ちてたのと同じピンク色のリボンがついていた。


「お嬢様、心配したじゃありませんか! こんなところにお一人で迷い込んで怖かったでしょう……」


「だってお祖母様みたいなのがお茶しながら何人もいる婦人会になんか行きたくなかったの! 隠れるつもりが、どっちから来たか分からなくなって動けなくなっちゃったの……怖かったよ~!!」


なるほど……確かにそんな集まり逃げ出したくなるのも分かる気がするけど、なんとか見つかって一安心!


足がすくんで動けなくなってしまったお嬢様を抱きかかえながら、ロザニアがこっちに来るのと一緒に私も踵を返して部屋の出口へ向かおうとした。


すると、コツっと足元に何かがぶつかった。


そしてそちらの方に視線を向けると、なんだろう。


半分ツタに覆われているけど、綺麗に四角く切り出された石が地面に埋まっている。


まさかこれって……墓標? しゃがみ込んでよく見てみると……


“イリス”


その文字が目に入ってきた瞬間、ブワッと背筋に悪寒が駆け抜けた。


どういうこと……? なんで私の名前がここに……?


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