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15.狩猟祭が終わったら

ラドルフ

ーーーー

 シュバッ


 本日28本目の矢が弧を描いて遠くの的の中央に当っていった。


「ふむ。この調子なら問題なさそうだな」


 物心つく頃から毎朝のルーティンと化しているこの弓矢の修練に父上が同席するのも久しぶりのことだった。


 3年に一度開かれる狩猟祭まで数ヶ月。


 18~20歳になる貴族の息子は強制参加という3日間に渡る古くから(かたく)なに続いているこの恒例行事への参加は、文官一族であっても例外ではなかった。


「頭だけで体が動けんと思われるようでは我が家門の名折れだ。ラドルフ、このまま順調に準備を怠るなよ」


 シュバッ


 父上からの念を押すような忠告とともに、もう一本矢を放ってやった。


 うちの家門は帝国に入って以来、その精神の下にみな弓矢は名人並に扱えるのが習わしだからな。


 もちろん、例に漏れず父上の腕前も相当なものだが。


「そうだな、この行事が終わればだいぶ落ち着くだろうし、婚姻の時期はその頃にするか」


 パタッ


 また矢をつがえようとした時、想定外の話にその矢を落としていた。


「はっ……婚姻ですか?」


 思わず矢を拾いながら、父上の方を見てしまう。


「まったく、なんのために婚約したと思ってるんだ? マルヴェナの話では、当初からお前たちも満更でもなかったようだし、いつしても問題ないだろう」


 うっ……あのアザの手当を見られて母上から変な誤解をされて以来、全くその話題には触れられてこなかったから油断していた。


 結婚か……その二文字を思い浮かべてはみたものの、今の状況とその状況になったとして、何か変わるものがあるだろうか?


 どうせ仕事のためにイヤイヤながらも出席する舞踏会は今後もほぼ永遠に続くことだろう。


 その場を利用してウチの家門に取り入ろうと近づいてくる連中を少しでも消去するため、あの女を盾代わりにしている訳だけが、その言い分が”フィアンセとしか踊らない”から”結婚相手としか踊らない”になるだけだろ?


「ええ、分かりました。その心づもりでいるようにしておきますよ」


 結婚なんざ、誰としても同じだし。


 父上が射場を後にしていく気配を感じながら今度は落とさずに矢を的の中央に放った。




イリス

――――


 不安を抱えながらも、皇城へ提出する書類への書き込みを続けてみるものの……ダメだ、やっぱり書いてても、いつの間にか何書いてるか分かんなくなっちゃってる。


 〇〇字以内とかって制限も結構あって、中に収まった! と思って読み直すと30行くらい、切れ目のない一文になっちゃってて、やっぱり意味不明な内容になっちゃってるし……


「うああ!!」


 私は思わず叫んで部屋を飛び出し、トレーニングルームへ駆け込んだ。


 バーベル持ち上げたり、懸垂したり、サンドバッグに蹴り入れたり、シャドウボクシングしたりともかく一旦頭の中をからっぽにしようと、体を動かしまくった。


 はぁはぁ息切れしながら、もともと客間だったから備え付けのソファに仰向けで寝転んでいると、一冊の本がトレーニング器具の横のベンチに置いてあるのに気づいた。


 手に取ってみると、この前アイツがニヤつきながら作成してた冊子みたいだった。

 エミリアお嬢様に渡すっぽかったから、多分お嬢様が忘れていったのかも。


 難しそうなタイトルだけど、なんとなくパラパラ~とページをめくってみたら……


 え、なんかパッと見ですっごく見やすい。


 文字がビッシリ詰まってる訳じゃなくて、余白が結構入ってるから自然と文字に目がいってしまう。


 んで、読み始めると頭の中にスッと書いてある内容が滑り込んできて、文字を見るのが苦手なこの私がいつの間にか没頭してしまってた。


 これがヤツの能力なの……? 

 私には持ってなくて、今、私が必要としているもの。


 どうしよう、これはもうヤツに頼るしか道がないってこと?

 そんなのヤツに屈したみたいで、悔しいし!


 いや待って、発想を変えて……

 アイツの能力を買うってことにすれば?


 何か私ができる事と引き換えに。


 ただちょっと懸念されるのは、アイツが窓口担当の偉い地位にいるらしいから、癒着してるような気になるって事よね……



 その事ばかりを考えていた中、また舞踏会がやってきた。


 ダンスタイムの時に、そろそろ女騎士としての不満や労働状況の改善を求める訴えを皇城に出す事を話したら、皆すっごく喜んでくれてた。

 期待を裏切らないように頑張らなくちゃ。


「お美しいレディ、一曲お相手いただけますか?」


 今後のために意気込んでいると、後ろから急に声を掛けられた。


 へっ? と思って振り返ってみると、見たことない紳士が自身のお腹と背中に腕を回して私に向かってお辞儀をしてこっちを見ていた。


 まただ……


 信じられないことだけど、こうして友達と話しているダンスタイムになると、声を掛けてくる男性というのがチョクチョク出現するようになっていた。


 これもそれも、超豪華なこのドレスと、びっちりバッチリの濃ゆ目メイクによる相手の錯覚に決まってるけど。


「あ、あのすみません……私、相手がいるので、ダメなんです……」


   手を差し出して、両方の口角を上げて微笑みながらこっちをじっと見てくる若い男性から目をそらせながら、やっとのことで声を絞り出した。


 一応、見せかけのパートナーではあるけど、私以外とは踊らないっていうヤツの条件に合わせとかないと、後でどんな文句を言われるか分からない。


「相手? 一体どこにいるというのです、あなたのような美女を1人置いて平気でいられる男なんて。私だったらこの時間全てをあなたに捧げても、まだ足りないくらいなのに」


 そう言いながら、その男性は離れようとしてる私の手を掴もうとした。


 その時。


 その掴もうとしている手を遮るみたいに背の高い体が割り込んできた。  

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