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10.同盟

ラドルフ

————


 俺の頭の中に1ページ1ページがイメージとして記憶されている、貴族家マニュアルのアイツの項目を読み上げていると、絶叫にも近い金切声が聞こえた。


 そんなに騒がなくてもいいじゃないか。

 全部、本当の事なんだから。


 それにしても、なかなか言うタイミングが難しいな。


 次に招待されている仕事上の付き合いのある舞踏会は1週間後。

 ダンスを口実に近づいていくる家門を追い払う(みの)として、コイツが重宝すると気づいて以来、考えていたこと。


『フィアンセ以外とは踊らない』というからには、

 周りを牽制するために、会場で1度は見せておかないと説得力がないだろう。


 それだってのに、ちょっとでも体が触れると暴力を振るってくるからな。


 だが不思議なのは、背中の手当てをしている時に腹に包帯を巻かれるが、その時は肌に手が触れたりしても動じないらしい。


 頭の中、どんな構造になってるんだ?



 タイミングが取れないまま、気付けば手持ち無沙汰に食べていたサンドが載っていた皿は空っぽになり、アイツが食べていたケーキセットも残り1つか2つくらいになっていた。



ラドルフ

————

「あー、頼みがあるんだが」


イリス

————

「お願いがあります」


ラドルフ

————

 なんだ? 向こうも同時に喋ったのか?


「言いたいことがあるなら、お先にどうぞ」


 ヤツは苦しそうに俯いていたが、さらに苦虫を噛み潰したみたいな顔をしてこちらを見た。

 チッ、俺だってレディファーストって言葉くらい知ってんだ。早く言え。


「私を……舞踏会に連れて行ってください!」


 さも言葉にするのが恥ずかしいと言わんばかりの顔で叫びやがった。



イリス

————

 ああ! もう終に言ってしまった。

 なんかディズレイに告白した時以来の告白みたいになっちゃってるし……

 断られたらお先真っ暗だし。


「形だけでいいなら、願ってもやまないな」


 ん? なんだか微妙な言い方に聞こえるけど、私はどうやら喜んでいいのかしら。


「その代わり、こっちの要望も聞き入れろよ」


 ヤツは腕組みをして、つまらなそうな顔で私から目線を逸らせていたかと思うと、こちらを見て私を指さしながら言った。


「この間みたいな恥をかくのはゴメンだからな、本番に備えて特訓だ!」


「特訓?? なんの?」


「2人で動き回るアレだよ」


 ああ……アレですか。

 まずい。どうしよう……

 けど、これは避けては通れない道なのかも……



 お会計で割り勘にしようとしたら、自分が勝手に頼んだからって、全部ヤツが払っていった。


 まあ、形だけとはいえ婚約してるんだから当然といったら当然だけど……

 カフェ・シガロのチョコドリンクとケーキ盛り合わせがいっぺんに食べられる日が来るなんて思いもよらなかった。


 もう2度とこんな日こないんだろうな。


 店から出て私が乗り合い馬車の停留所に行こうとすると、なんだかんだで金持ちのボンボンのコイツは、そんな馬車に乗った事がないからと、貸切馬車を探し始めた。


「今日はごちそうさまでした。私はこっちがいいから、帰りは別々にしましょう」


 貸切馬車で同じ空間に2人きりなんて嫌だし。

 私は乗り合い馬車の方に歩き出した。



ラドルフ

————

 おいおい、もう夕暮れじゃねえか。

 いくら騎士女でも、あのスカート姿でどんな輩が乗ってるか分からないもんに乗るっていうのか?


 しかも、あれは決まった所にしか留まらないから、降りた場所から屋敷まで歩くんだろ?


 俺と2人きりよりはマシってことか。


 いや、だとしても屋敷に着く頃は真っ暗だし、いくら何でも見て見ぬ振りはまずいな。


「おい、待て……」


 その手首を掴もうとして、すぐさま躊躇した。

 また3回目の怪我を負う気かよ。


 アイツはこちらを振り返って冷めた目を向けてきた。

 クソっ、こっちの気も知らないで……


「あー、色々経験しておくのも勉強のうちだからな。俺もこっちを使う」



イリス

————

 何よ、コイツ。本当にキモい。

 さっきのストーカーじみた発言から、キモいどころか変態っていうのが確定しちゃったからね。


 だけど、これから腕を組んでエスコートも受けて、ダンスも当たり前になる相手なんだから……女騎士の皆のためにも我慢しなくちゃ。


 そんな事を考えていると、なんか見たことある馬車が向こうの方からやってきた。


 ヤツもそれに気づいて、御者に向かって手を伸ばして親指を立てると、その馬車は私たちの目の前で止まった。


「お坊ちゃまとイリスじゃないですか。旦那様ー、どうされますかー?」


 顔馴染みの御者が馬車の扉をちょっと開いて気さくに呼びかけると、旦那様が出てきた。


 その中には、奥様とエミリアお嬢様もいる。

 クッソー、やっぱりグルになってたんだ! お嬢様まで道連れにして……


「おお、お前たち! いや、こうでもしないと私達に遠慮して、2人で出掛ける事もできないと思ってな」


「父上、そういうのはいいですから。今度から我々は舞踏会にも出席する事になりましたから。色々ご心配お掛けしました」


 ヤツはすました顔で旦那様にちょっと一礼した。


 まあ、またこんなお節介焼かれても迷惑なだけだし、私も合わせておくか。

 私もちょっと一礼してみた。


「お前達、やっぱり気が合うみたいね。もうちょっと街で遊んで行ったらいいんじゃない?」


 奥様、また余計なご心配を……

 私とヤツは言うまでもなく、その馬車に同乗させていただいた。

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