プロローグ
そもそも……この家に来た時からおかしいとは思ってた。
うちは片田舎の男爵家で、兄さんと姉さん、私、弟と妹の5人兄弟。
お金はないのに子どもばっかりいるから、私は少しでも家計を楽にするため早くに騎士学校に入学した。
15歳で卒業すると同時に、遠縁に当たる帝都に住んでる大貴族・エスニョーラ家の騎士団長のツテを使って、入団させてもらった。
ほぼ男社会の騎士団での憂鬱な日々が始まると思っていた矢先、配属されたのは10歳になったばかりのエミリアお嬢様の女騎士だった。
めちゃくちゃラッキーだと思った。
だけど、女騎士といえば社交界で自分の地位がどれほど高いのか自慢するような高飛車な貴族女性が持つもの。
社交界から遠ざけてるお嬢様にわざわざ女騎士をつかせる?
しかも、外出できる奥様には女騎士をつかせない。
当時、違和感を持ったのは覚えてる。
だけど、か弱いお嬢様をお屋敷でお守りするだけという、こんなもったいないくらいの好条件。
細かい事は深く考えずに、これまでこの環境に甘んじてきた。
だけど、やっぱりおかしい……と思ったのは、
あの従順なお嬢様が屋敷を抜け出し、そのお咎めを受けて騎士団の懲罰房に入れられてからだった。
絶対クビにされると思って、今後のことを考えていたのに、今度は奥様の女騎士になれといって出されたのだ。
こんなミスを犯した人間を普通、またそばに置く?
しかも、今まで奥様は女騎士なんか持ったことなかったのに、変じゃない?
そんな疑問が頭の中を掠めていったけど、やっぱりその時の私は深く考えずに、
失業しなくてセーフ!!!
ってはしゃいでた。
あれから3週間。
私は、あの時になんとしても逃げ出していれば良かったと心底後悔している。
なんで、ことごとくお嬢様のお世話をしていたメイドが、一定の時期になると辞めていってしまうのか、もっと勘を働かせておくべきだった。