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お前が闘うのは不モゥ~だど言われ闘牛場を追放された俺、実は『荒ぶる突撃』のスキルを持つ最強の闘牛でした。闘牛場が閑古鳥が鳴いてるから帰ってこいって? モゥ~遅い!

作者: 井村吉定

段落とかいろいろ修正しました。

笑ってもらえると嬉しいです。

「ウーシ、明日からお前はこの闘牛場に来るな」


 闘牛場の主であるレバニーから唐突に告げられた、衝撃的な言葉に頭がおかしくなりそうだった。

 仕事の関係上、頻繁に頭突きをしているが決してそれが原因ではない。


「なんでだよ! 俺はこの闘牛場の創業の時からやって来たじゃないか!」


 そう、俺はこの闘牛場ができて間もない頃から、並みいる猛者たちと闘ってきた。

 長年やってきた俺に対してあまりな仕打ちだ。


「お前最近、一度も試合に勝ってないだろ」


 確かに、俺はここ最近試合に勝つことができずにいた。

 スランプに陥っている言えばそれまでだが、それでも試合で手を抜いた事など一度もなかった。

 そんな俺を見て、応援してくれる観客も少なくなかったはずだ。


「不モゥ~なんだよ。お前が闘うのは」


「そんな……」


 結局俺は闘牛場を追い出されてしまった。

 周りにいた牛達も俺を庇ってくれるようなことはなかった。


 俺は無職になってしまった。

 例え天地がひっくり返ってもその事実は変わらない。

 とにかく仕事を探さなければならない。

 貯金はいくらかはあるものの、それほど長くは保たない。


「モゥ~!」


 当てもなくもなく道を歩いていたところ、悲鳴が聞こえた。

 俺は悲鳴が聞こえた方へ向かって走る。

 声からして悲鳴をあげたのは女の子だ。


 最近、雌牛が人間によって拐われる事件が多発している。

 悲鳴の主は人間に襲われているのかもしれない。


 そこには人間達に囲まれた雌牛の姿があった。彼女は恐怖のあまり震えて動けないようだ。


「へへ、いい乳してんなぁ~」


「こいつは上物だな! きっといいチーズが作れるぜ!」


 人間達が彼女に近づいていく。

 動けない彼女はとうとう後ろ足からへたりこんでしまった。


「止めて! 乱暴しないで!」


 このままではまずい。彼女が人間達に連れ去られてしまう。

 俺は四本の足に力を込めて、人間達に向かって突撃した。

 俺は闘牛、敵に向かって突撃するのが仕事だ。誰かを守ろうとするのは領分じゃない。

 だが、目の前で困っている女の子を見て何もしないのは男が廃るというものだ。


「おっと! あぶねー」


 俺の突撃はあっさりと避けられてしまう。

 闘牛場で闘っていた時、相手は俺と同じくらいかそれ以上の大きさだった。

 相手も俺に向かってきたので、角を当てるのはそれほど難しくなかった。

 たが、人間は違う。牛より小さい上に、こちらには向かってこない。


「なんだこいつ、いきなり襲ってきやがって!」


「こいつもしかしてこの雌牛に惚れてんのか? ヒュー、かっこいいねぇ。惚れた女を守るってか」


 今度は人間達が俺に近づいてくる。

 今の内に彼女に逃げて欲しいのだか、足がすくんで動けないようだ。

 隙をついて人間達に向かって何度か突撃したが、それもかわされてしまう。


「こいつもなかなかの身体してやがる。きっと肉にしたら旨いぞ」


「そうだ、雌牛の乳で作ったチーズを使って、チーズハンバーグにしてやろうぜ」


「お、いいねぇ~」


 いやらしい笑みを浮かべた人間達が近づいてくる。

 もう一度突撃を仕掛けるか?

 いや、だめだ。

 人間達に俺の突撃は当たらない。

 いくらやったところでこちらが消耗するだけだ。

 何より人間の方が数が多い。

 仮に突撃を当てられたところで、一人しか倒せない。

 いろいろ考えてみたものの、状況を変える手立ては思い浮かばない。


「へへへ、観念しなぁ」


 そうこうしているうちに俺は人間達に囲まれてしまった。

 突撃を繰り返していたことで、体力も限界にきていた。


 くそ! 駄目なのか……。


 ここのところ全力を出しても試合には勝つことができなかった。

 そして今もそうだ。

 全力を出しているのに人間達に手も足も出ない。

 俺が闘うのは本当に不モォ~なのかも知れない。

 半ば諦めかけていたその時だった。

  

――荒ぶれ


 どこからともなく声が聞こえてきた。


――荒ぶれ


 誰の声かはわからない。

 だが、その声は俺の本能を刺激した。


 そうだ、俺は忘れていたんだ。

 闘牛の本質というものを。

 試合に勝つとか、誰かを助けるとか、そんなことは考えなくていい。

 ただ怒りに身を任せて敵に突撃すればよいのだ。

 さっきまで感じていた疲労感がまるで嘘だったかのように消えさり、全身に力が漲ってくる。


 くらうがいい人間よ。

 俺の『荒ぶる突撃』を。


――モォオオオオオオオオ!


 雄叫びをあげ人間達に突撃する。

 かわされることなど考えない。


 ドンッ!


 俺の角に柔らかい何かが突き刺さる。

 それは人間の身体だった。

 突き刺さった瞬間に首を大きく縦に振る。

 角に感じていた感触がフッとなくなった。


「ひぃぃぃい!」


「ヤバい! 逃げるぞ!」


 人間達が一目散に逃げ始めた。

 だが、誰一人として逃がすつもりはない。


 何故なら、荒ぶる牛との闘いに逃げることなど許されないからだ。


 俺の突撃を受けた人間達は天高く飛んでいった。

 奴らは二度と雌牛を拐ったりすることはないだろう。


「あの……助けていただきありがとうこざいました」


「気にするな。牛として当然のことしたまでさ」


 さきほどまで襲われていた女の子は、人間達がいなくなったのを見て立ち上がれるようになっていた。

 立ち上がれなかったら、角を貸そうと思っていたが心配は不要だったようだ。


「そう言えば、なんで君はこんなところに?」


 ここは闘牛場がある町だ。

 それに応じて荒くれた牛も多くいる。

 そして何より治安が悪く、牛同士の喧嘩も頻繁に起こっている。

 こんな町にいる雌牛というのは、他の町に馴染めず行き場を失くした者ばかりだ。

 だから人間達はここにいる雌牛達を拐った。

 多少いなくなっても誰も気にしないからだ。


「私、ここに強い牛を探しに来たんです」


「というと?」


「実は私の父は闘牛場を経営していて、つい最近看板選手が引退後してしまったんです。それで、代わりになる牛がいないかとこの町にやってきたんです」


「なるほど、強い牛がいたら引き抜こうと」


「そういうことです。私、あなたを見てピンと来ました。もし良かったら父の闘牛場で選手をやってみませんか?」


 闘牛場を追放された俺にとってまさに渡りに舟だった。

 ここで断る理由は何もない。


「いいよ。むしろこっちからお願いしたいくらいだ」


「ありがとうごさいます! 私、ベーコって言います。これから宜しくお願いします」


「ああ、俺はウーシ。よろしく」

 

 こうして俺はベーコの父が経営する闘牛場の選手になった。

 闘牛の本質を思い出した俺は試合で勝ち続け、あっという間に闘牛場の看板選手になることができた。


 看板選手になってから暫くして、俺の活躍を聞き付けたレバニーが訪ねてきた。

 俺がいなくなった後、元いた闘牛場は閑古鳥が鳴いているらしい。


「たのむウーシ! 戻ってきてくれ!」


 戻る気はさらさらない。

 だから俺はこう返してやった。

 

「モゥ~遅い!」


最後まで読んで頂きありがとうざいました。

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