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僕は世界一正直者です  作者: ふれい
第一章 『嘘吐き、誕生』
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5話 『世界の存在理由』

「なんかすみません。こんな俺みたいな一市民に」


「いえいえ! 幸耀様は我々が責任を持って守るべきお方です! 一市民だなんてとんでもない!」


 幸耀は今、黒いランボルギーニに乗ってどこかへ向かっている。搭乗者は五名。

 幸耀と、運転手と、三名のボディガードである。

 何故か今、幸耀は物凄く丁重に扱われている。


「俺そもそもが高校生だからそんな下手(したて)に出られたことなくて対応に困るし、両隣に黒ずくめの頼もしいお兄さん達いるし、マジでソワソワするんだけど......」


「そんなこと仰られないでください! 幸耀様は選ばれしお方なんです! 我々が総力を挙げて御守りするほどの!」


 ハキハキと喋る運転手に、遂に幸耀は口を閉ざしてしまった。ーー何を言っても、自分が上げられて終わる。それを悟ったからだ。


 ーー水晶玉に浮かんだ『X』の文字。A、B、C、どれにも当てはまらないこの世界にとっての例外。謎が謎を呼び、いよいよ幸耀の頭はパンク寸前である。

 そして何よりも、


「人の頭を凶器で殴ってしまった......」


 正当防衛とはいえ、十八年間純白に生きてきた幸耀にとって、先程の体験はかなりショックなものであった。唐突に銃を撃ち込まれ、命からがら助かって、銃を防げるほどの強度がある傘で生身の人間を殴打する。


「俺はなんてことを......」


「気に病むことなんて一つもございませんよ。幸耀様の命が狙われるのは当然のことですし、ご自身の身体を守るために敵を傷つける。何もおかしいことはございません」 


「俺の命が狙われるのが当然ってとこだけ明らかにおかしいんですけどね」


 ーー結局、何故幸耀の命が狙われていたのかはまだ知らされていない。あの後も三人ほどの敵襲に遭い、胡桃沢はその対応に追われていたために様々な質問は後回しとなっていた。


 そうして何とか無傷で神殿から脱出した幸耀は、胡桃沢が手配したと思われるランボルギーニに乗っている、というのが現状である。


「仕方がないことなのです。このライズワールドの存在理由は幸耀様含む三人の神様の子なのですから」


「なんですか神様の子って」


 あまりにも突飛なワード。

 自分が、神様の子? そんな訳はない。

 何故なら、幸耀の両親は日本にいた父親と母親だからだーー。


「ぁ?」


 ーー母親。


「そうですね......まず前提として、知っておくべき神様がお二方いらっしゃります。現世ーーつまり私たちが()()()()()()の秩序を守っていたのがアストレア様。ライズワールドーーこの世界ですね。この世界を創造したのがヘルメス様です」


「いやいやいや! ちょっと待ってください。元々いた世界って言いました? 今」


 聞き逃せないフレーズであった。数々のライトノベルを読破していた幸耀は、勝手に『異世界の住人によって成されている場所へ転移した』ものだと思っていたからだ。その世界にいる者は全員異世界の者で、売ってる物や建物も異世界独自のもので。


「ええ、ここの人たちは全員、元々日本に住んでいた人たちばかりです。外国人の方などもいらっしゃいますが、戸籍が日本にある方しかいません」


 冷静に考えれば納得ではあった。胡桃沢は明らかに名前が日本人であるし、道行く人たちも日本人ばかりであった。運転手も日本語を話しており、疑うことは特になさそうだ。


 だが、一つだけ疑問点がある。


「え、じゃあ運転手さんはどのように転移されてきたのですか?」


「私は埼玉の警備会社で働いてた者なんですが......休日に寝転んで携帯を弄っていたら、いつの間にかこの世界に来てましたよ。本当に、何の前兆もなく」


 前兆もない、というのは幸耀とは相違なる点であった。幸耀は少女に殺されかけ、咄嗟に『異世界にいる』と発言したところライズワールドに転移したのだ。たまたま転移のタイミングと妄言が被った、という可能性も捨て切れてはいないが。


 とにかく、運転手の証言によって一つだけ分かったことがある。それは、嘘の能力の所持が転移の条件では無いことだ。


「答えれる範囲で良いんですけど......運転手さんの......その、特性とやらは?」


「Cですね。道具系です。使える道具は今乗ってるランボルギーニ」


「ランボルギーニ自由に出せるの最強すぎません?」


 羨ましい。無限にランボルギーニを作り出してそれを売れば一生遊んで暮らせるではないか。

 だが、運転手の曇った表情は、そんな簡単な話ではないと幸耀の思惑を否定するかのようだった。


「......そもそもこの世界には、貨幣価値など存在しないのです。道具系ーー指定された道具をいくらでも自由に取り出せる能力がある以上、物の流通は道具系の人たちに任せ、それらの商品を人々は無料で受け取る。そんな社会の方が全てが丸く収まります。この世界は現世の日本のような競争社会ではなく、助け合いの社会です。そういう、ものなのです」


 助け合いの社会。それが本当なのだとすれば、この世界の存在理由は。そして幸耀は何故命を狙われているのか。更に謎が深まる。

 幸耀は溜まりに溜まった疑問を運転手にぶつけようとする。その時、


「......幸耀様。着きました。詳しいお話はあちらでして頂きますよう」


 目的地への到着を知らされ、運転手はこれ以上話すことはないと言いたげにエンジンを切った。

 聞きたいことだらけであるのに話を打ち切られる。むず痒い気分になったが、目的地とされた建物の衝撃に、脳内に浮かんでいた数々の疑問は離散した。


「これって......国会議事堂?」


「ええ、正確には国会議事堂ではありませんが......姿形はほぼ同じですね。ライズワールドにおける政府の中心です」


 現世でも見覚えのある、全く同じ姿形をした建物が、禍々しい雰囲気を醸し出しながら佇んでいた。


「これじゃ異世界ってよりか......パラレルワールドって感じじゃねえか」


 溜息混じりに呟いた言霊は、木枯らしによって掻き消された。

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