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僕は世界一正直者です  作者: ふれい
第三章 『虚空の果てに』
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38話 「芽衣奪還計画 〜はじめの一歩〜』

「と、そういう訳で。ちゃっちゃとピーズの手下を呼び出しちゃいましょう」


 パン、と両手を叩き、一同の視線を集めたのは、麗しい銀髪を腰まで伸ばした女性ーー胡桃沢だ。


 気分屋の憤慨から一時間ほど経った後、事務室には先刻の面子が再度揃っていた。


 気分屋の顔色が優れないのだけが唯一気がかりではあるが、かける言葉が見つからない。

 何が彼の逆鱗に触れて、何が彼の救いになるのか。


 ーー恐らく、それは閑谷 芽衣の存在なのだろう。


 ちなみに、気分屋が再度部屋に入室した際に、有紗とジャスパーには各々謝罪を述べていた。

 なんと言っていたかは聞き取れなかったが、穏便に済んだようで何よりである。


 微笑を浮かべたジャスパーの表情が、いつもとは少し違って見えたのは新田の思い違いなのだろう。


「そうは言うっスけど胡桃沢さん......何て嘘吐くんスか? ピーズの手下って言うからには、とんでもない化け物とか、言語通じない奴とかザラにいると思うんスけど」


「ピーズの手下がここにいる、って言って、当たりクジ引くまでやればいいんじゃない?」


「センパイの話聞いてました? 赤の他人の呼び出しはめっちゃエネルギー喰うから呼べても一日に一回っきりなんスよ」


 知人でない者の転移は尋常でないエネルギーを消費する。それは事実だ。

 

 ーー仮にもこの能力は『嘘』である。

 自分に信用を置いている人間と、そうでない人間。

 騙しやすいのはどちらか。

 そういう話なのだろう。


 長野県一斉放火事件においては嘘で人々の救助をしていたのだが、それに関しては対象が日本人であるため、ヘルメス軍やピーズの手下に比べてエネルギーの消費は少ないというだけである。


 赤の他人とはいえ、対象者が新田ーーアストレアの子の存在を認知し、尚且つ敵意を持っていないのならば、エネルギーの消費は抑えられるのだ。


 ただ、それでも知人と比較すれば大量のエネルギーではあるので、ニルヴァとの戦闘では死の直前まで追い込まれてしまっていた。


 ちなみに、これは転移の嘘に限った話ではなく、敵意を持つ相手や見知らぬ相手に対する嘘は全般的にエネルギーの消費量が多い。

 そのため、新田は基本的には魔法を駆使して戦うことを強いられているのだ。


「......オレは一度、ピーズの手下とあい見えている。名前は、ペディルと名乗っていた」


「ええ、いきなり新情報......」


「悪いな。仁さんにしか、このことは話してなかった」


 頭を掻きながら、バツの悪そうな顔でそうこぼしたのは気分屋だ。

 ピーズと戦闘した時に遭遇したのだろうか。

 気にはなるが、話の焦点はそこではない。


「その、ペディルってヤツは話通じそう?」


「通じるには通じると思うが......日本語がちょいとままならない感じだから不安要素ではある。ただ、バケモンみたいな奴が来るよりは全然マシだと思うぜ」


「んーん。気分屋くんによると、彼女ーーペディルは、気分屋を殺さないように命じられてるような素振りを見せていたらしい。危険ではないから......呼び出すのは、彼女で良いと思うねえ」


 気分屋と仁の見解を聞き、他四名は互いに頷き合う。

 この場所にいるのはライズワールドの中でも実力派を集めた六名だ。

 これで、ピーズの手下一人に壊滅させられたら、そもそもの話、人間たちに未来はない。


 仮に戦闘の意思を見せられたとしたら、数の暴力でも構わないから必ず勝たなければならない。

 

 そして、話し合いは極力、穏便に済ませなければならない。

 なぜならーー。


「......ペディルは、強い。だから、ペディルってヤツを殺したら恐らくピーズの逆鱗に触れる」


 ーーピーズの存在があるからだ。


 気分屋が言う通り、ピーズは強い者を育てて自分で殺すことを生きがいとしている。

 これは新田の考えだが、ピーズが手下を従えている理由は、恐らくそこにある。


 仮に、何者かを殲滅するために手下を従えているのであれば、ピーズの在り方と矛盾が起きる。

 更に、ピーズは手下に、気分屋を殺さないように命令しているという。


 つまり、ピーズは手下と称して、食物を育てているのだ。

 そんな実った果実をを潰す行為は、間違いなくピーズの怒りを買う。


「オーケー。ブンヤ。ペディルは魔法系?」


 腰に両手を置いて首を傾げる彼ならではのポーズでそう疑問を投げかけたのは、ジャスパーだ。

 先程殺されかけたにも関わらず、何も気にしていないような素振りを見せる彼からは、本気で気分屋の事を悪く思っていないことが目に見えて分かる。


「残念ながら、分からん。だが、動きがめっちゃ早かった。多分武具系なんじゃねえかな」


「かなし」


 肩を落として呟くジャスパー。

 恐らく、彼は魔法のみを打ち消す能力なのだろう。


 ちなみに専属護衛なのに新田がジャスパーの能力を詳細に知らないのは、ジャスパーが自身の能力のことを喋るのを躊躇うからだ。


 どうして言いたがらないのかは分からないが、彼が反抗心を見せるのは珍しいため、詮索はしないことにしている。

 

 ーー仲間割れだけは、したくないから。


「ならまあ、あたしと胡桃沢さんと気分屋さんで前線張る感じになりそうっスね」


「そうねえ。ま、戦闘にならないとは思うんだけど。最悪気分屋の嘘で動き止めればいいしね」


「......それもそっスね!」


「んーん。なら、庭で嘘を使おうねえ。私の大切な部屋が汚れるのは嫌だし」


 チラッと気分屋を横目で見ながらそう言った仁は、意地悪そうに微笑んでいた。

 その行為が先ほどの気分屋の暴挙に対する意趣返しであることは、誰の目にも明らかである。


「......すません」


「......仁さんって結構ブッこむんですね」


「んーん。気分屋くんの珍しい姿が見れたからねえ。ちょっと、揶揄いたくなっただけさ」


「......チッ」


 あれだけの暴挙を犯しておきながら、仁に悪態を突く気分屋。

 本来ならば、申し訳なさそうな態度を示すのが理。

 それでも平常と等しい態度でいるのは、信頼の証に他ならない。


 そんな二人のやりとりを見て微笑んだ新田は、一人でに頷き、胡桃沢と同じように両手を叩いて言った。


「力を合わせて、がんばるぞー!」


「......え? お、おー!」


 新田の腑抜けた掛け声は、気を引き締めるどころかそれとは逆効果になってしまったようだけれど。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「......なんか恥ずい」


「センパイ、元気出してください。結構大事なコト、今からしようとしてるんスから」


「そ、そうだよね、ウン」


 ニュートラルビル付属の庭に移動した一行。

 移動中に先程の腑抜けた掛け声を振り返り、恥ずかしさに赤面していたところに気の利いた有紗のフォローが入った。


「えっと、さっき言った通りの並び順で」


 先程の有紗の提案通り、前衛に有紗・胡桃沢・気分屋の三人。後衛に新田・仁・ジャスパーの布陣を組む。


 降っていた雨はいつの間にか止んではいたのだが、雨雲は未だに上空に浮かんでいる。

 薄暗い情景が、新田の緊張感をより増幅させる。


「だいじょうぶ。俺、ついてる」


 そんな新田の心境を察したのか、ジャスパーがポンと肩を叩きながら囁いてくれた。

 つくづく、心強い専属護衛である。


「......ジャスパーは今回何も出来ないでしょ」


 そして、その気遣いに感謝しつつも、苦笑しながら軽口を叩く。

 ジャスパーはその言葉に硬い表情を崩して微笑んだ。


 珍しい笑顔に、一気に緊張が解けていくのを感じる。

 そして、緊張で狭くなっていた視野が広がり、ようやくこの場にいる全員が新田のことを見つめていることに気がついた。


「よし......いくよ。嘘吐くから記憶がゴッチャになるかもだけど、皆、混乱しないでね」


 今回は先程と違って空回りしない掛け声。

 全員が新田の宣言に顎を引く。


 新田は、大きく息を吸い込んで、言った。


「ペディルは、ここにいる」


 気分屋によると、ペディルというピーズの手下は、橙色のツインテールと、頭に生えた大きな二本のツノが特徴の小さな少女だという。

 述べられた情報を元にペディルの姿を想像しながら、嘘を吐いた。瞬きをすれば、眼前にはイメージ通りの小柄な少女が立っているはずだ。


「ーーほう。そういう選択を取ったのだな。貴様ら人間は」


「............は?」


 聞き覚えのない声と、その声を聞いて腑抜けた声をあげる気分屋。

 

 聞き覚えのない声は、ペディルのものだろう。

 女性にしては低く、威圧的な印象を受ける声色。

 口調も硬く、ピーズの手下にしては丁寧な口調だなと、そんな感慨が浮かんだ。


 だが、気分屋の腑抜けた声は何なのだろう。

 気分屋はペディルと会話をしたことがあるはずだ。

 何を困惑するようなことがある。


「ちょ、っと待て......」


「どうしたの? 気分屋」


「ーーお前は、誰だ?」


「へ?」


 その気分屋の言葉の真意が汲み取れず、次は新田が腑抜けた声をあげてしまった。

 

 だが、即座に理解する。

 気分屋の困惑の意味を。


「ーー名はペディル。ピーズ様の配下にして、貴様らの真の護衛者だ」


 ーー目の前には、紫色の髪をなびかせる小柄な女が立っていたのだから。

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