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僕は世界一正直者です  作者: ふれい
第二章 『業を背負って』
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35話 『焦燥と憤怒』

「芽衣さんが......誘拐された......!?」


 語られた気分屋の記憶は、思わず反芻してしまうほど、衝撃的な内容であった。


 気分屋によって、事務室に集められたのは、総勢五名。

 新田、仁、胡桃沢、有紗、そしてジャスパーだ。


 普段、仁が仕事に活用しているデスクではなく、紅色のソファに腰掛けての会談である。


「ありゃりゃ......そりゃあ、マズイね。どうするのよ」


 事態の重大さを理解した胡桃沢もまた、額に手を当てて焦りを口にする。


 語られた内容はざっくりしていたものだったが、事件の概要を掴むには充分であった。


 芽衣の失踪と、ピーズの手下の存在。

 

 ーーその他に、何か気分屋は話すことがあるような素振りを見せたような気がするが、気の所為だろうか。


「オレは、ピーズの手下を片っ端から殺すつもりだ」


 前方に置かれた焦茶色のテーブルの両肘を乗せ、そう宣言した気分屋。

 彼の瞳や声色に平常の楽観さは欠片もなく、まるで、気分屋という人間そのものが何者かに操られていると錯覚するような、明確な黒い感情が彼の中には存在していた。


 実際、気分屋は操られているのかもしれない。


 ーーピーズの手下と、閑谷 芽衣に。


「ちょちょ! 気分屋さん、焦る気持ちは分かるっスけど、それはあまりにも短絡的すぎやしまーー」


「それは焦燥心を理解出来ているとは言えないだろ、小野寺 有紗」


「ーーーーッ」


 気分屋の早計な考えを止めにかかった有紗に、その言葉を遮った気分屋が鋭い双眸を向ける。


 事務室に一気にひりつく空気が流れ、相対する気分屋と有紗の間の時間は止まってしまったかのようだ。

 気分屋は苛立ちを、有紗は怖気を秘めて。


「そんな言い方はないでしょ、気分屋。変に言葉尻掴んで高圧的になるなんて、らしくない」


「らしくない? なんだよ、らしくないって。そもそも、オレは気分で動く人間だ。ーーオレなんて、元々どこにだって存在しねえんだよ」


「............そっか」


 その自虐にどんな意図が込められたのかは分からない。だが、そこに言及した所で何も状況は好機に向かわない。


 今、大事なのは、事件の渦中にいる気分屋以外が冷静さを失わないことだ。


「んーん。まず、喧嘩はやめようね。何も良いことないから。そして、気分屋。君の目的を達成するために、何か目処は立っているのかな?」


 新田の考えを見透かしたかのように、仁が迷走しつつある話題を矯正する。

 悉く、能く出来た人だと感じさせられる。


「......ピーズ自身は無関係っつってたから、ピーズ神殿に行っても意味はない。それしか、情報はない」


「んー? ていうかさ、普通に新田くんの嘘で芽衣ちゃん連れ戻せばいいんじゃないの?」


 怒りを抑え込み、冷静に自身の現状を提示した気分屋。そんな彼の発言を聞き、胡桃沢が耳を掻きながら問うた。


「いや、意味ねえよ。芽衣はここにいるって嘘ついたけど、別に何も起きなかった」


「え? 気分屋は九州くらいまでの転移は不可能なんでしょ? ならまだ分かんないじゃん。新田くんならワンチャン連れ戻せるかもでしょ」


「チッ。良いよ、好きにしろ」


「はい、新田くん。お願いね」


 気分屋との口論の末、譲歩によって彼の許しを得た胡桃沢は、ウインク混じりに新田に仕事を投げ渡した。


「芽衣さんは、ここにいる」


 静寂。

 ただひたすらに、静寂。


「ーー発動しない、と。気分屋。嘘が発動しない原因は何か掴めているのかねえ?


 五秒ほどの静寂を切り開いたのは仁だ。

 周りに赤の少女がいるわけでもないのに、嘘が機能しないというのは明らかに異常事態である。


 この場にいる全員の視線が気分屋に集まり、その視線に応えるように彼は大きく息を吐いた。


「......芽衣を攫ったのがピーズだって思ったから、この前一人でピーズ神殿に行ったんだ」


「............え?」


「オレは焦ってて。それで、ピーズに戦いを挑んだが......負けた。アイツは、嘘を無効化出来ていたんだ」


「ーーーー!!」


「だから、恐らくピーズは嘘が機能しない理由を知っている」


 気分屋の証言に、新田は瞠目する。

 何せ、元々新田は仁との話し合いの末、ピーズに嘘の解明を頼ろうとしていたところだったのだ。


 新田の読みは当たっていた。

 やはり、ピーズは嘘の対処法を熟知している。


「じゃあ、ピーズに会いに行くっスか?」


「......いや、アイツが素直に質問に答えるとは思えない。だから、先に手下を殺したい。そういう結論だ」


 実際にピーズと相対したという気分屋が言うのだから、そうなのだろう。

 早まった考えかと思っていたが、存外に気分屋は理論を組み立てた上でピーズの手下の殺害を検討していたのだ。


 理論は間違っていないはず。

 それはそう。

 それはそうなのだが、何か一つ懸念が抜けているような気がしてーー。


「ーーちょっと待って」


 話が纏りつつある中、口を挟んだのは今まで閉口を貫いていたジャスパーだ。

 彼は燃えるような赤髪を片手でかき上げながら、言った。


「芽衣って人が死んだ可能性は、考えないの」


「ーーーーッッ!!」


 瞬間、怒りの形相でトランプを引き抜いた気分屋は、光魔法でジャスパーを跡形もなく吹き飛ばしていた。

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