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僕は世界一正直者です  作者: ふれい
第一章 『嘘吐き、誕生』
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3話 『ライズワールド』

「ーーは?」


 見覚えの無い風景に発した言葉である。


 辺りを見渡せば、道行く人々や、点在する様々な店舗。嗅覚に意識を向ければ、鼻をくすぐるのは人工的に生み出された心地良いとは言えない香り。


 幸耀は兵庫の田舎に住んでいたからこそ分かる。

 ーーここは誰がどう見ても都会だ。


 だが、暫くその風景を俯瞰した幸耀は、妙な感覚に眉をひそめた。


「ここ、東京か......? いや、にしては人通りが少ねえし......他にもなんか違和感あるな」


 そう、田舎ではないことは確かなのだが、少々通行人の数が少ない。視界に映る通行人はさっと数えて七人程度。そして、筆舌し難い違和感。


 ただし、現状見える景色に分かりやすくへんぴなものは見当たらず、人々の見た目は全員日本人であったため、怒涛の展開に頭の回転が追いついてはいないものの幸耀は一息置くことが出来た。


「となると......まず整理すべきはここに至るまでの経緯だ」


 顎に手を添えて思考を巡らす。

 幸耀は先程まで命の危機に晒されていたはずだ。 


 ーー遥かに年下の少女の手によって。


 記憶を辿ろう。


 下校中、通学路の森を歩いていたところ、全身赤に包まれた少女に声をかけられた。ーー声をかけられた、と表現するのを憚られるほど、小さな独り言ではあったが。


 そしてその少女の二言目が、


「殺す......かあ」


 他人から殺気を当てられるという事があれほどまでに恐怖に値するものだとは、微塵も想像もしていなかった。少女は自分より年下である、なんて関係ない。あれは身が凍えるような冷たい殺気であった。


 そして、そんな威圧に気圧された幸耀は、何を血迷ったか『異世界に俺はいる』などという、嘘にもならない発言をしてしまった。その直後、見知らぬ町へ。これらの流れを鑑みるに、何が起きたか答えを無理やり弾き出すとすれば、


「異世界に......本当に来てしまった?」


 唯一整合性の取れる結論であった。ーー異世界という概念が存在していれば、の話であるが。


「......いやいやいや、異世界って......ここどう見ても日本だし、何を言ってんだ俺は」


「いんや、異世界で間違ってないんだよねえ」


「......え?」


 突如背後から現れた人影は、幸耀の肩をポンと叩きこちらへ向き直った。

 その人影は、女性だった。

 彼女は喜びと哀れみとが混じり合った苦笑を浮かべながら、両手を広げて幸耀に歓迎の言葉を口にする。


「ーーようこそ、ライズワールドへ」


「......へ?」


 季節外れの冷たい風が幸耀の前髪を乱雑に揺らした。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 案内されたのは、真っ白で広大な建物であった。大理石を基盤に造られており、その有り様はまるでーー。


「神殿みたいだなあ」


「ん、神殿っていう感想はドンピシャよ。ここはピーズ神殿って呼ばれてるわ」


 廊下を歩きながら呟いた稚拙な感想に反応するのは、先程声をかけてきた顔立ちの整った美しい女性だ。

 胡桃沢 暁美(くるみざわあけみ)と名乗った彼女の後ろ姿は、腰まで伸ばした銀髪が艶めいており、まるで彼女自身がこの場所で祀られているかのような、透き通る美しさを身に纏っていた。黒のタンクトップに黒のハイウエストパンツ。露出が多く身軽な服装だが、銀色の髪が良いスパイスとなり彼女の麗しさを増幅させている。


 ざっくりとした自己紹介の後、すぐさまこの建物に案内された幸耀の思考は乱雑に散らかっている。次から次へと、本当に何が起きているのか分からない


 何故あの小さな少女は刃を向けたのか。

 ライズワールドーー異世界とは何なのか。

 そもそも、異世界などという概念が存在するのだろうか。

 自身の嘘によって異世界に転移したのであれば、どうやって他の人たちはこの世界に来れたのだろうか。

 ここにいる人たちは全員嘘の能力を使えるのか。


 これは全て夢なのであろうか。


 ーー訳が、分からない。


 道中、突然転移してしまったこの町の説明を求めたが、『とりあえずそれは後!』とストレートに断られてしまった。なので、ようやく話が広がりそうな『神殿』について掘り下げることにする。


「ってことは、この場所は誰かの信仰のためにあるってことですか?」


「うーんとね、信仰ってのはちょっと違うかな。実際この建物には神様が宿っているとされているけど、目的は信仰じゃない」


「というと......」


「ーーほら、着いたよ」


 胡桃沢が顎で指した場所へ目を向けると、銀色の煌めく台座に、直径一メートルほどの巨大な水晶玉が置いてあった。

 台座だけではなく、辺りの壁にはダイヤモンドを加工した装飾品などが多く飾られており、まるで水晶玉を中心に銀河が広がっているかのような錯覚に陥りそうになる。

 吹き抜けになっている天井から差し込む太陽の光を反射し、煌びやかに輝くそれは、心を魅了される荘厳さを放っており、幸耀は思わず生唾を飲み込んだ。


「でっか......水晶玉ってレベルじゃねえぞこれ」


「そうだねえ、私も最初見た時はビックリしたよ」


「これは......というかこの場所は何をする所なんですか?」


「キミの特性を調べる。この世界特有のね」


「特性......?」


 普段人間に対して使われることの少ない単語に、幸耀は首を傾げる。


「そう、特性。この世界は不思議なことにね、個人個人に特性と呼ばれる特殊な能力が付与されているんだ。例えば、私の場合は......ほら」


「......!」


 胡桃沢の手元に、突然傘が現れた。黄色で、なんの変哲もないただの傘が、突然(・・)現れたのだ。


「っとまあ、こんな感じで、マジックみたいなこと出来るのよ。この世界の住人は、武具系・魔法系・道具系の三つに大きく分類される。私は道具系で、傘を取り出せる特性を授かったってカンジ」


 唐突なファンタジー。だが、幸耀は幸耀で大層な超能力を天から授かっているため、驚きもそこまでない。


 無いものを有るものにする。

 どこか嘘の能力に似つかわしい部分があるような気がするが、胡桃沢は無言で傘を出現させた。

 嘘の能力とはどうやら別物の異能力のようだ。


「武具、魔法、道具......武具と道具ってどうも似ているような気がしますけど」


「えっとね、武具ってのは戦いに特化した持ち物で、その武具自体にも固有の特性があるんだ。極端な例を出すと『必ず弾が当たる銃』とかさ」


「なんすかその人類滅亡してもおかしくない最強兵器」


 そんなものが現代社会に存在していたらーー想像しても見えるのは地獄だけだ。そしてこの瞬間、今いる場所がれっきとした異世界なのだと痛感する。


「武具系と同様に、魔法系、道具系にもそれぞれと固有の特性が存在するんだ。道具系だけちょっと特殊で、個性を持ってる人もいれば持ってない人もいるって感じでまちまちなんだけどね」


 黄色い傘を慣れた手つきで弄びながら胡桃沢はこちらへ明るい視線を向ける。


「......ま、とりまキミの特性を調べてみてよ! この世界の話とか、特性の細かな話とかはまた後でしてあげる」


「分かりました」


 急かす胡桃沢だが、幸耀も自分の特性が気になっているので素直に頷く。

 ゲームの世界ではよくある、個々特有の能力。いざ自分自身にそれが付与されると思うと、ワクワクが止まらない。

 

 ーーもう既に幸耀には特殊能力が付与されていることが気がかりではあるが。


「水晶玉の前で両手を広げて。ドアを両手で押し開ける感じ。そうすると水晶玉に結果が映るから。その映ったものによってキミの特性が判断できる」


 幸耀としては、魔法系がやはり気になる。武具やら道具やらは現世でも堪能できそうなものだが、魔法ともなると現世離れしすぎている。貴重な体験だ、ぜひ使用したい。


「ちなみに、それぞれ何が映るんですか?」


「武具系がA。魔法系がB。道具系がC」


「思った以上にシンプル!?」


 ロマンも何もない現実的な演出と知り、がっくりと肩を落としながら水晶玉に両手をかかげる。


 水晶玉の硬い表面が波のように揺れ始め、遂にはモザイクのように水晶玉自体を覆い隠し、徐々にその靄が晴れていって、アルファベットが顕現する。


「Bであれ......Bであれ......」


 目を瞑って神に祈る。この建物に神がいるとのことなので、その神にでも祈っておこう。


 しばらくすると、アルファベットが露わになったのか、胡桃沢の息を飲む声が聞こえた。恐る恐る目を開ける。


「......これは?」


 水晶玉に映るアルファベットに、困惑の声が漏れる。

 胡桃沢は出会った時と同じような苦笑を浮かべ、前髪を弄りながら答えた。


「......はずれくじ、引いちゃったわね」


 水晶玉に表示されたアルファベットは、何度見ても『X』であった。

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