表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は世界一正直者です  作者: ふれい
第二章 『業を背負って』
29/44

28話 『可視化』

「ねえ、見て有紗」


「ん? なんスかジャスパー」


「なんか新田が綺麗な女の人のことずっと見つめてる」


「え゛」


 図書室の窓からニュートラルビル付属の庭を見下ろすジャスパー。

 外を眺める横顔も整っており、晴天の青空と春風が、より一層その姿を美貌へと際立たせる。


 室内でヌンチャクを振り回していた有紗は、そんなジャスパーからの報告に大層不満げに応じたという。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「なんかよからぬ勘違いをされてる気がする」


「同感です。その為にも早くエネルギーの可視化を習得してください」


「そうは言っても......うーん難しい」


 美しい芝生の上で、背丈が同じくらいの男女が見つめ合っている。

 片方はモノクルを、もう片方は普段は身につけない眼鏡を着用している。


 モノクルをかけた方の男が、ロマンチックとは程遠い、鬼の形相で女の眼鏡を見つめていることが、両者の関係がそういうモノではないことをかろうじて示している。


「これ、私にもかなり負担ありますので」


「うわあプレッシャーすごい」


 エネルギーというのは、術者が意図的にその出力数を操ることが可能である。ニルヴァが最後に特大の火炎玉を生成しようとしていたのも、一つの魔法に込めるエネルギー量を増幅させることによって為せる技だ。


 エネルギーの可視化というのは、術者が魔法を使用する際に消費したエネルギーを数値化することを指す。


 気分屋から言い渡された特訓の内容はこうだ。


 芽衣の眼鏡から溢れ出るエネルギーを、数字にして発音する。

 そして芽衣の中での数値と、新田の中での数値の誤差がプラスマイナス一になるまで、そしてそれが安定するまで発音を繰り返す。


 芽衣は魔法系だ。特性は特殊型である。


 特殊型というのは、五感や人体の構造に対して何らかの変化を与える魔法のことだ。


 飯田市に現れたカメレオンとの混合天使(キメラ)も特殊型で、彼女は相手の視覚に影響を及ぼす魔法であった。


 ただ、芽衣は特殊型の中でも特殊で、彼女は『自身の五感のうち、どれか一つを選んで強化することが出来る』という魔法だ。


 自身ではなく道具にエネルギーを付与した方が負担が少ないらしいので、視覚を強化したい場合は眼鏡にエネルギーを流しこむことで視力を上げているが、他は基本的に自分の体にエネルギーを流し込むイメージのようだ。


 ちなみに芽衣は視力が悪い。普段、裸眼で過ごしているのは、単純に似合わないからだと本人が言っている。


 眼鏡を補強する事で最低限の視力を確保し、その上で魔法で視力を上げているだけで、その眼鏡自体に特別な力が備わっているわけではないのだ。


「......十三」


「二十二です」


「......六十七」


「五十七です」


「全然ダメだ......難しすぎる」


 目をしばしばさせながらガックリと肩を落とす。誤差は十程度。だが、十の壁が厚い。

 

 ちなみに、道具にエネルギーを込めてるとはいえ、そのエネルギーは視覚的に見えるものではない。

 オーラのようなものが浮き出るとかではなく、ただただ眼鏡から伝わるエネルギーを、感覚的に察知しているだけだ。


 目を凝らしているのは、何かオーラのようなものが見えて欲しいという期待からの行動である。

 つまり、特に意味はない。


「いえ、かなりセンスはいいですよ。まだ五分しか経っていないのにほとんどプラスマイナス十以内に収まっています。気分屋さんは一時間くらいずっとプラマイ四十くらいでしたから」


「それ多分気分屋がセンスないだけだと思う......」


「いや、そうでもないですよ? 仁さんですら新田さんより誤差は激しかったと聞きます。新田さんはエネルギーの総量しかり、かなり魔法系としては優秀な部類に入りますよ」


「そう......なんだ」


 芽衣が褒め上手なのか、それとも本音なのかは分からないが、悪い気はしない。

 新田には長所があるのだという。

 だとすれば、あとはそこを伸ばすだけだ。


 戦争の開始時期を予測出来るのは、新田しかいないのだから。


「......続き、よろしくお願いします」


「......ええ、頑張りましょう」


 そうして、ひたすらに男女が見つめ合う異様な光景は、日が落ちるまで続いたという。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 芽衣に新田の特訓を放り投げた気分屋は、ピーズ神殿へと足を踏み入れていた。


 理由は特にない。そういう気分だったから。

 何故かこの場所に惹かれたから、とでも言っておこう。なんとなく目に入ったラーメン屋に立ち寄る、そんな気分だ。


 だが、気分屋は今、とてつもない後悔の念に駆られている。


「お前、つよー?」


「なんだコイツ......」


 ピーズ神殿最奥部から二十メートルほど手前。

 そこに立っていたのは、小さな少女だった。


 橙色のツインテールに、特徴的な二本の長いツノ。

 背丈は気分屋の腰より少し高いくらいで、少女は一生懸命に気分屋の顔を見上げている。

 小動物のような、愛くるしい感情を抱かせる、そんな容姿をしていた。


「ピーズ様の言うてた、つよーなやつ?」


「ピーズっつったか今? ああそっか、ここピーズ神殿って名前だったなそういや」


「つよーなやつでしゅか?」


「あー、この前宴会場で仁さんが話してた昔話聞いときゃよかった。やっぱ酒なんて飲むもんじゃねえな」


「......つよーなやつか聞いてるでしゅけど」


「ピーズと面識があるっぽいな。お前、ナニモンだ? 答えないなら、殺すのも選択肢にーー」


「ーー答えてくれないなら、実際に確かめるしかないでしゅね」


 空気が一変した。

 今まで辺りを包んでいた朗らかな雰囲気は、途端に肌を突き刺すような緊迫感に移り変わる。

 そして。


「速ッ......!?」


 一瞬にして小柄な身体が視界から消え去り、直後、顎に衝撃が走る。


「グハッ......」


 顎にもらったアッパーは、小さな幼い少女によって繰り出されたとは到底信じ難いほどに重く、力強いものであった。


「ふいうち? みたいなことしますた。これじゃ、実力はわからなーでしゅね、はんせい」


「......見た目も相まって最高の不意打ちだったな。改めて聞く。てめえ、ナニモンだ?」


 重さこそあったが、外傷はない。

 痛みも何故かなく、衝撃とのギャップに尋常な違和感を感じる。


「だから! ペディルが先に聞いてーでしゅよ! 答えてくれなーからこうなるんでしゅ」


 ぷりぷりと腰に手を当てて憤慨する様からは、やはり保育園児のような幼さが垣間見える。

 実際、精神年齢は幼いのかもしれない。

 ただ、戦闘能力が異常に高いのは明らかだった。


「ああ、悪かったな。俺は気分屋。ピーズってやつには褒められたことあるから......多分強いぜ」


 そう相手に告げた瞬間、彼女の表情が一変。

 それは、太陽のような笑顔だった。

 

 辺りに漂っていた緊迫感などはまるで存在していなかったかのように離散し、またもや朗らかな空気が神殿内に流れ込む。


「やぱ、そうでしゅた! うれしなり! 今すぐにでも殺したいでしゅけど、殺したらピーズ様に殺されるから出来なーでしゅ」


「殺すって言葉の周辺だけ日本語しっかりしてる辺り、多分こいつやべえな。逃げるわ」


 ピーズという言葉だけでも危険な香りがするのに、相対する者に高い戦闘能力を見せつけられたのなら、ここは撤退が最も賢い選択だ。


「あ、待つでしゅ!」


「オレはニュートラルビルの事務室にいる」


 瞬間、気分屋の姿は神殿から消え去った。

 無論、小柄な少女の記憶も改変されるため、彼女は何故この場所に立っているかも思い出せない。


「ほへー? ......まあいいや、寝るでしゅ」


 しばらく棒立ちした後、彼女はそそくさとその場に寝転がり、三秒後には可愛らしい寝息を立てていた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 一方、仁の仕事場である事務室に転移した気分屋は。


「かくかくしかじか」


「嘘使ったんだねえ。それで、何の用かな?」


「質問なんすけど、ピーズに手下っています?」


「......確認したことはないねえ。ピーズは孤高の神という印象もあったし」


「それが......」


 気分屋から幼い少女についての報告を聞かされた仁の顔色は、とても良いものとは言えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ