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僕は世界一正直者です  作者: ふれい
第二章 『業を背負って』
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23話 『世界一の正直者』

「んーん。芽衣......君は、あの二人のこと、どう思っているのかねえ?」


 新田が突然退出し、それを有紗が追いかける形となってしまったので、実質的に宴会場には仁と芽衣だけが取り残されている。


 仁は気分屋のポケットから煙草をくすねて、それを吹かしながら芽衣に尋ねた。


「そうですね......相性の良いコンビって感じでしょうか。正直、羨ましいですよ。そこのいびきかいて寝てる人、全然私の言うこと聞きませんし」


 芽衣は酒を嗜みながら、だらしない姿をした気分屋を流し目で見つめる。


「羨ましい......ねえ」


「......どうしたんですか?」


「いや。何でもないよ。新田くんは、もっと自信を持って良いと、そう思っただけだ」


 斜め下を意味もなく見つめながらそう溢す仁を見て、どこか安心する。

 普段、堅実に政府の頭として働く仁ばかり見てきたからだろうか。


 自信、などという言葉が仁の口から吐き出されたことを意外だと思う最中、それは当然の発言だと納得している自分もいた。


 ーー仁 新は、ライズワールドの中で最も人をよく視ている人間であるから。


「ーーふふっ、同感です」


 芽衣は久しぶりに笑顔を人に見せた。

 本当に、久しぶりに。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 その頃、ニュートラルビル屋上では。


「......ティッシュ要ります? 鼻水ダラダラっスよ、センパイ」


「......ありがと」


 十五歳と十七歳による大喧嘩が幕を閉じ、その後の両者の間には気まずい空気が流れていた。


 十五歳の少女に叩かれた左頬が、今になって痛み始める。


「......そうだよね、有紗はまだ、十五歳なんだ」


 じんじんと痛む頬を手で抑えながら、新田は呟いた。


「なんか言いました?」


「うん......有紗は凄いなって」


 十五歳にも関わらず、アストレアの子の専属護衛などという最も危険な仕事に立候補したこと。

 十五歳にも関わらず、自分の過去にケジメをつけられていること。


 新田より年下にも関わらず、正面からぶつかって意見を交わしてくれたこと。


「そうっスか? 言っときますけど......あたしもセンパイにある意味救われた身ですからね。何もなかったあたしに生きるモチベーションを与えたのはセンパイっスから。あたしは自分一人じゃ何も出来ない、ただの女の子っス......いや、自分で言ってて恥ずかしいっスね、これ」


「いや、有紗は十分......」


 一人で行動出来ている、と言葉を繋げようとした時、先の有紗の発言が新田に対する皮肉であったことを悟る。


 自分一人で何も出来ていないことなどない。

 自分なりに行動を起こせば、誰かのためにはなっているはずだから。


 その記憶が相手に無くても、新田は人々を救えているのだから。


「......うん、そうだね、恥ずかしい」


「なんスか? 第二ラウンド入ります? 今度は拳でどうっスか」


「違う違う。ーー自分で自分のことが、恥ずかしい」


 自身が馬鹿にされたと勘違いをする有紗のファイティングポーズに苦笑しながら、同時に新田は自分自身にも苦笑する。


 恥ずかしい。


 ーー自分なら何もかもを救えると驕っていた、自分自身に。

 驕ってなどいないと自己評価を見誤っていた、自分自身に。

 他人に嘘を吐く能力者にも関わらず、自分自身に嘘を吐き続けていたことに。恥ずかしさが募る。


 新田 春は、強い人間ではない。

 強敵を前にすれば怖気付くし、周りと比較して劣等感に苛まれることなんて度々ある。


 だが、目の前の少女が気付かせてくれた。二個年上の男を平手打ちしてまで、気付かせてくれたのだ。


 それが、自分なのだと。


「ーー本当に、ありがとう」


 心からの感謝。言おうとせずとも、自然と口が動いていた。


 そんな新田の様子を、キョトンとして見つめる有紗。

 しばらくすると、有紗はフェンスの上に両腕を組み、そこに顎を乗せ、夜景を眺めながら深い溜め息を吐いた。


「......センパイは、いっぱい嘘を吐いてきたと思います。もちろん、あたしにも嘘吐いたことあるんだと思います」


 でも、と有紗は言葉を続ける。


「センパイは、正直な人です。劣等感やら何やらを、包み隠さず言い切っちゃうとことか特に」


「......今度は本格的に恥ずかしいからやめて」


 先の感情のままに行った心境吐露大会。それを冷静になった今ほじくり返されると、痛々しい発言が脳裏によぎり、赤面してしまう。


「ニュートラルビル襲撃事件の後の何週間の間なんて、弱音聞かされまくりましたからね。ホントに困った人です」


 恥ずかしがる新田への気遣いか、有紗は背を向けた。手を後ろで組み、星空を見上げながら、


「ーー世界一の正直者なセンパイも、世界一の嘘吐きのセンパイも。どちらも自分自身が一番愛してあげてください」


 そう言った有紗の声色は、どこか大人びているように感じた。


 その直後、盛大にくしゃみをした彼女は、やっぱりいつも通りの明るい少女だったような気がするけれど。

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