20話 『バケモノじみた化物』
「......お前が犯人で間違いないな?」
神殿最奥部。
そこに現れた異形の存在。
周囲の惨劇や、彼方の氷魔法を無傷で抑えていることから判断するに、この異形が今回の騒ぎの元凶だろう。
「犯人? 何を言っているんだオマエ? ボクはただ娯楽を楽しんでいるだけだろウ」
頭のつもりで適当に取りつけたかのような蛇の部分がくねくねと動く。そこにある乱雑に付けられた七つの目は、全て彼方を見下ろしていた。
圧倒的存在感。
そして、圧倒的な恐怖。
彼方はこれまで何度か天使と相対してきたが、それらとは比にならない。
だが、逃げるわけにはいかない。
「その見た目で一人称ボクなんだねえ......まあいいや。ーーお前が邪悪であることは理解した」
敵意を明確に示し、魔法陣を展開する。彼方は二秒で半径三メートルの魔法陣を作り出した。
「その魔法陣の形成スピード......間違いなイ、オマエはボクの欲求を満たすに値する逸材ダ!」
興奮に身を震わせる怪物は、胴体に付いている巨大な口から六つのピストルを取り出し、それを六本の手にそれぞれ握らせる。
「武具系か......武魔間の平等によって変なことなんなきゃいいけど」
武魔間の平等というのは、武具系と魔法系が対峙した際に、武具が本来持つ力よりも膨大なパワーを孕むことを指す。例えば、炎魔法によって放たれた火炎玉を、武具である刀が一刀両断出来ることが確認されている。
武具系の力が強くなる、というよりは、武具が魔法に干渉出来るように何らかの力が働くというほうが正しいだろうか。
何故こんなものが存在しているのかは不明だが、いずれにせよ魔法系である彼方は、武具系相手にはより慎重になる必要がある。
「武魔間の平等......そうカ、ボクの創った遊び心はそんな呼ばれ方しているんだナ」
「何を訳の分からないことを」
ニィ、と口角が上がったことにより、化物の巨大な口が胴体からはみ出す。何もかもが浮世離れした存在である何かを尻目に、彼方は魔法を使用する。
ピストルを相手にするのであれば、まず先決すべきは弾の軌道の変化だ。化物と彼方の間に無数もの氷壁を作り、弾を急所から逸らす。そうして相手の武具特性を見極め、勝利への道筋を考える。それが彼方の戦略だった。
並の武具使いのピストル程度なら彼方の作った氷壁を一つも壊すことは出来ないだろう。だが相手は未知の存在。念には念を。彼方は十枚もの氷壁を並べた。
「さあ、撃ってみろ」
敵の出方を伺う。
ここでピストルを撃たないで、直接的な攻撃に切り替えてくる可能性だって存在する。
何せ、羽や人間の一部が千切れて散在していたのだ。それは、ピストルでは不可能な芸当。
普通、武具系は二つ以上の種類の武具を特性として使用することは出来ない。
だが、当たり前の話ではあるが、道具系などで産み出された武器を使うことは可能だ。武具特性は勿論付与されないが。
異形の特性がピストルだと仮定して、他にも凶器を隠し持っていることを頭に入れた上で、彼方は待機を選んだのだ。
そんな彼方の様子を、じっと黙って見つめる異形。
しばらくすると、口元を歪めながらピストルを一つだけこちらへ向けた。
「じゃア、遠慮なク」
その刹那、銃弾は彼方の右腕を掠めた。
「熱ッ......!」
「あレ? おかしいナ? 弾の軌道が逸れることを加味して右腕に撃ったのニ、そのまま飛んでいきやがっタ。......ア、そうダ。武魔合成術使えるんだったナ、ボク」
弾が直線に飛んでいった、と目の前の怪物は零した。通常のピストルでは壁一枚も破壊できないほど頑丈な氷壁を、弾が逸れることなく全て破壊したとでも言うのか。
「なんつーバケモンだ......」
負傷した右腕を抑えながら呟く。焼けるような痛みだ。この時、仁 彼方は、産まれて初めて外傷を負った。
ーー全力で殺しにいかなければ、間違いなく殺される。産まれて初めての経験が、彼方の本能に警鐘を鳴らしていた。
敵を『殺意を持って接するべき相手』だと認識した彼方の目を見て、化物は身震いを起こす。
「イイ......イイ......! イイ顔つきになったナ......! さァ、来イ! オマエの全力を、このボクが受け止めようウ!」
「ハァアアアアアアアアアアア!!」
ーーピーズ神殿最奥部の天井が吹き抜けになったのは、この戦いが原因とされている。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「仁家の人でも強敵って判断出来るほどヤバいんスね、ピーズって......」
黙って話を聞いていた有紗が、語られる歴史の衝撃に思わず本音を溢す。
「そうだねえ。ひいお爺さんと私の間に明確な実力差がある訳でもないから......今、私が戦って勝てる保証はないねえ」
「でも、彼方さんによってピーズは封印されたんですよね? 書物にそう書いてあった気がします」
新田が過去に読破した書物の記述が正しいのであれば、彼方はピーズに勝利したということになる。
「いや、実はあれは人々を安心させるためのデマなんだよねえ。ピーズは封印なんてされていない」
「......え!?」
衝撃だった。
ピーズを封印したというその一件は、仁家の信用を底上げする一つの大きな要因だったとされる。
それがデマであると、仁家の末裔である新の口から告げられたのだ。
「......どういうことっスか?」
「二人の戦いは......和解という形で決着したんだ」
二人の問いに答えた仁は、どこか物憂げな瞳を天井に向けていた。




