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僕は世界一正直者です  作者: ふれい
第二章 『業を背負って』
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16話 『最強の男』

 有紗が疲労により気絶。その同刻。

 舞台は飯田市。平和と思われたこの街に散る火花は、充分にこの場所が危険区域であることを示していた。


「道具系であるはずの貴方がどうして剣を使っているのかしら?」


「さあな......その辺はオレの気分だからよ」


 奇襲を仕掛けてきたのは緑の髪が特徴的な天使だった。彼女が浮かべる妖しい笑みからは、異常に長い舌が垣間見える。


 気分屋が咄嗟に出した剣と相手の天使が持つ剣が鋭い金切音を鳴らす。互いの剣が重なり合ったところで数秒の膠着。そして、埒があかないと判断した両者は後方へ飛び退いた。


 普段はかけない眼鏡を中指で上げながら芽衣が呟く。


「その天使、カメレオンの性質を持っていますね」


「......勘のいいお嬢さんもいるのね。そっちから片付けた方が賢いかしら?」


「勘じゃないです。推察です」


 縦に細長い瞳孔を芽衣に向けた天使は、苛立ちに舌なめずりをする。


 そんな二人の様子を横目に、気分屋は合点がいったとばかりに拳で掌を鳴らす。


「カメレオン......混合天使(キメラ)か。なるほどな、どおりで直前まで感知出来なかったし......飯田市も平和に()()()わけだ」


 松本市に次ぐ惨状だという報告を受けて飯田市に降り立ったのが気分屋と芽衣だ。しかし、火の手など一切見られず、多少の焼け跡はあるものの、松本市ほどの被害があるようには到底見えなかった。


 本来の景色と違った姿を見せる。それが目の前のカメレオンとの混合天使(キメラ)の能力だろう。

 ちなみにこれは魔法系の特性の一つで、『特殊型』と呼ばれる。特殊型は、自身や他者の五感に作用する特別な魔法である。


「奇襲なら最強と名高い貴方も殺せると思ったのだけれど......失敗だったようね。専属護衛のお嬢さんの感知能力を舐めくさっていたわ」


「閑谷 芽衣。以後お見知りおきを」


 抹茶色のスカートを摘んで丁寧な素振りで礼をする芽衣。そんな様式美に則った美しい振る舞いを尻目に、気分屋は自らの道具系の特性である五十三枚のトランプを取り出し、それらをそそくさとシャッフルする。


「芽衣。()()()()いる?」


「そうですね......ざっと八名ってとこでしょうか。集落にも、山にも点在してますね。囲まれてます」


「......閑谷 芽衣。貴方、やはり只者じゃないわね」


 不満げに芽衣を睨みつける天使は、戦略を見破られたことによる悔しさからか、翼がピクピクと痙攣している。

 そんな敵の様子を、気分屋は気にもとめず、


「そんじゃ......ハートかクラブがやりやすいな」


 と、頭を掻きながら呟いている。


「......派手にやるのは良いですけど、私は巻き込まないでくださいよ」


 嘆息する芽衣と、至って平常の面立ちを崩さない気分屋。

 敵対しているにも関わらず、余裕の表情を続ける彼らの様子に、遂に怒りの沸点に到達した混合天使は顔を真っ赤にして叫んだ。


「見破られたのなら仕方がない......お前たち、一斉に飛びかかれ!!」


 混合天使による号令が発せられると、八方から各々の武具を手にした天使が一斉に姿を表した。カメレオンの能力で彼らもまた背景に同化し、奇襲のタイミングを伺っていたのだ。


「道具系のオレが何故剣を使っているか、だったな。答えは簡単」


 五十三枚の中からハートの四を引き抜いた気分屋は、そのトランプを見つめながら言った。


 口を嬉しそうに歪めながら。

 

「ーーオレが、気分屋だからだ」


 瞬間、襲いかかる八名とカメレオンの混合天使に、嵐のような落雷が降り注ぐ。光魔法だ。


 落雷は一発で敵を焦がし、焦げたそれを塵へと帰すために何度も轟音が鳴り響く。

 この場所が、長野県で最も被害が大きいと思わせるほどの大災害。

 その大災害を引き起こした当人は依然ケロッとしており、彼の専属護衛は耳を両手で抑えている。

 

 十五秒ほど。

 その間幾度も轟く爆音が鳴り止めば、もうそこには真っ黒な何かが九つ転がっているだけだった。


 肉と草木が焦げた匂いが辺りに充満し、それらの不快感にしかめ面をしながら芽衣が気分屋に詰め寄る。


「オーバーキルすぎます。耳痛いです。光魔法引いちゃったのは分かりますけど、雷である必要あったんですか」


「しゃーないだろ。気分なんだから」


 耳を塞ぎながら不満を垂れる芽衣に、気分屋は言い訳とも呼び難い言葉を並べる。


「久々にハート引けてテンション上がっちまったんだよ。許してくれ。それと......助かった、ありがとう」


 気分屋から述べられた感謝の言葉に、眼鏡を外した芽衣は目を丸くする。


「......感謝ですか? 珍しいこともあるもんですね。もしかして、気分ってやつです?」


 実際、芽衣がいなければ気分屋は敵の気配に気付かず命を落としていた可能性だってあった。気分どうこうの話ではない。感謝の気持ちは、本物だった。


「ああ、気分だ」


 気分屋はそれを素直に認める気分ではなかったようだけれど。

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