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僕は世界一正直者です  作者: ふれい
第二章 『業を背負って』
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13話 『希望の光と 絶望の業火』

 新田がそこに着いたとき、最初に感じたのは激しい不快感と哀れみだった。

 あちこちに点在する火の手。火によって家は柱から崩れ落ち、子供の泣き叫ぶ声が聞こえる。


 彼らもライズワールドにさえ来なければ、今頃は平穏な生活を送れていただろうに。


「泣き叫ぶ子とその周辺に居る人たちは僕の側にいる」


 三名の大人子供が転移してきた。恐らく家族だろう。泣いていたはずの子供の涙は消え、彼らは困惑しながらも火の手のない安全な方へ走っていった。新田に対する感謝はない。当たり前だ。彼らの記憶は、新田の側にいるという世界線へ繋がるよう記憶の改変が行われている。


「感謝されない人助け......ちょっと萎えるね」


「あのー。そんなこと言わないでもらえます? センパイもあたしたちに守られてるし、センパイも皆を守る。それが当然だと思うんスけど」


「分かってるよ。今のは冗談。そんな怒らないで、有紗」


「あ、そういうことなら許すっス!」


 ムスッと頬を膨らませ、珍しく新田に抗議する有紗を、優しめになだめる。気分屋を除く全員に嘘の能力による記憶の改変が行われるので、有紗も新田が人助けをしたことは気付かない。ただ、新田が嘘の能力を所持していることは知っているので、新田の発言から察する部分があったのだろう。

 ーー気分屋を除く全員と言ったが、ヘルメス軍には赤の少女のような嘘を無効化するタイプもいる。そのような敵勢が今後増える可能性も視野に入れなくてはならない。


 冗談と言ったのは嘘ではない。当然、新田は、皆に守られている自覚がある。あの日だって、仁と彼にーー。


「大砲飛んできたっス。任せていいっスか」


 感慨に浸っていると、すぐさま新田をピンポイントで狙ったかのような狙撃が襲いかかる。幸い大砲は弾速が遅い。発砲を確認してからでも充分に間に合う。


「大砲は向きを反転して発砲者に向かった」


 遠い何処かで爆発音。耳を立ててその音を聞いた有紗は、急いで本部ーーニュートラルビルへ連絡を通す。


「えーと、本部から見て八時の方向っスね。多分あのでっかい山からっス。センパ......新田さんの嘘で撃退しましたけど、残党がいる可能性は全然あるんで、胡桃沢さん辺りでも派遣して貰えば」


 有紗は人より耳が優れている側面も持つ。

 特に魔法やら特殊能力やらが備わっているわけではなく、生まれつきのものらしいが、その長所は新田との相性が非常に良い。


 有紗が耳で感知し、新田が魔法や嘘で撃退する、というコンビネーションを組む事が出来るのだ。

 

 有紗の特性は近距離を得意とする武具系なので、仮に新田に接近する者がいても、有紗にカバーしてもらう所存だ。


「うーん、とりあえず水魔法使える人ありったけ呼ぶしかなさそうっスけどね......」


 止まらない火の手を尻目に有紗がつぶやく。


「そうだね......この規模にもなると、嘘で全部無かったことにするのは難しそう」


 ーー彼らが本部からの命令を受けて降り立ったのは、長野県松本市だった。正確に言えば、松本市であったはずの場所、ではあるが。

 ライズワールドの地形は日本列島と同じだ。従って、その土地を治める者がいなくとも、元々位置していた土地名で呼んだ方が都合がいい。


 基本的に田舎の戦乱はアストレアの子にとって危険なので、彼らが派遣されることはない。福島以北、長野以西にはほぼ人が住んでいないので、東京を中心にその範囲に実力者を点在させて、必要に応じて援軍を呼びつつ、これまでの騒ぎは鎮圧してきた。


 しかし今回はアストレアの子である新田が派遣されている。聞けば気分屋も長野県の何処かへ派遣されているらしい。それは単純に、騒ぎの大きさによるものだった。長野全体に一斉に大量放火が行われ、長野周辺の警護を勤めていた者だけでは手が回らなくなってしまったのだ。


 報告によると、放火の犯人とは別に、多くの天使が長野県に襲来しているらしい。


「とはいえ......仁さんも思い切ったものだね。二年前の事件の現場にいた仁さんは、もっと僕らの扱いに慎重になるかと思っていたけど」


「センパイは二年前の話すると自分で勝手に落ち込むからやめてほしいっス」


「それこそ二年前の話だよ。もう落ち込まないし......寧ろ今は自分の糧に出来てるよ」


「......なら良いっスけど。というかあたしが強いからセンパイの現場復帰も許されたんじゃないスかね!」


 薄い胸を張って鼻を鳴らす有紗にーー心底感謝する。今も彼女は、会話の流れが暗くなってしまったのを察して、すぐさま明るい振る舞いをしたのだろう。


「ま......今のは話暗くしたの有紗からだったけど」


「なんスか?」


「なんでもない」


 二年前。崩壊寸前まで追い詰められた新田のメンタルを支えたのが彼女、小野寺 有紗であった。

 有紗も当初は暗い性格であった新田との距離感に苦戦していた。初対面で極度の緊張により彼女の呂律が回っていなかったことは、今ではとんだ笑い話だ。


 しかし、徐々に距離を詰めてくる有紗に、新田はまさに一筋の光明を見出せたような気がした。

 ここまで他人想いの人が、神の悪戯によって不幸な目に遭うなんて、到底許せることではない。

 それはライズワールドに来てしまったどの人にも言えることだった。新田が接した経験がないだけで、清純な心を持ち、平穏な生活を夢見る人が大半を占めているだろう。


 無論、新田の根底にある気持ちは、怒りだ。

 だが、その感情を向けるのは幸耀を殺した赤の少女だけではない。


 このような惨状を生み出した嘘の神、ヘルメスを殺すために、新田はその怒りを利用する。


 ヘルメスを殺し、人々の心に平穏が訪れるまで。


「だから僕は......戦わなきゃいけないんだ」


「......なんか今のセリフ臭いっス。それ流すためにも水魔法欲しいっスね」


「......辛辣だなあ」


 苦笑いで有紗の嫌味に応じながら、幸耀なら今のいじりにどのように反応していただろうかと案じてしまう自分がそこにはいた。

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