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83話.わたし、お小言

「ね、もうちょっとだけ触れてもいい?」


鼓動が聞こえるほどの距離でぎゅっと抱きしめ合っていると、少し上から聞こえた声。ゆうくんの声だ。その声に顔を上げると、ゆうくんが、私を抱き閉めていた腕の片方、右手をといて、私の唇にそっと指をあてる。


ここに、と続けて言うゆうくん。恐る恐ると言ったような声音。不安そうに眉を寄せ、瞳が揺れている。


私ももう少しあなたに近づきたい。あなたに触れたい。


同意の意味を込めて小さく頷くと、ゆうくんは嬉しそうに、はにかんだ後、顔を近づける。そして、私より少し体温が低いらしいその唇が私に触れ、互いの温度が共有される。


「ありがとう。これからも一緒にいてほしい」


「こちらこそありがとう。もちろん、一緒にいようね」


誓いの言葉のようなゆうくんの言葉に私も言葉を返す。


それから、ぎゅとお互い抱きしめあっていると、ちょっと遠慮がちに障子が少しだけ開いた。ほんの数cmほど開けられたそれは、内側が見えないくらいで、私とゆうくんへの配慮が見える。


「えー、お二人さん、そろそろ入ってもいい?」


その隙間から、声だけこちらに聞こえてくる。みゆの声だ。その声に、少し慌ててお互いから離れると、居住まいを正して、「どうぞ」と言った。さすがにこのままの姿を見られるのは恥ずかしい。


その声に、障子が開き、みゆとコウさんが入ってくる。みゆは私たち2人の様子を見て、安堵したように表情を緩め、笑顔になる。


「その感じだと、何とか誤解、解けた?」


「うん……お陰様で」


私が頷くと、みゆはうんうんと頷いた後、ニコッと笑ってくれた。それから、私の方へ来て、ちょいちょいと私の手を引っ張る。


不思議に思いつつも立ち上がると、みゆは私を柱の影の方へ引っ張る。目をぱちくりとしているだろう私は、みゆに続いて歩く。


「え、なに?」


「あたし、推しとご飯食べる羽目になったんだけど。あんたとアオくんを出会わせたらすぐ帰ろうと思っていたのに」


みゆは端まで歩くとこちらに耳打ちするようにコソコソと話す。その言葉にわたしはきょとんとした。だって、大好きな人と食事をするなんて、それは、


「それは、良かったのでは……?」


「いいわけないじゃないの!」


即答で答えが返って来る。それも少し食い気味に返ってきたその言葉に目を幾度か瞬かせた。みゆの顔が本気すぎてちょっと怖い。ついでに、肩に置かれた右手がちょっと食い込んでいて痛い。


「え、どうして?」


「緊張のせいでなーんにも味しなかったよ!いい料理で美味しいはずだったのに!!せっかくの高級料理が〜!」


「あなた、コウくんが推しじゃないの?」


そう言うと、みゆは勢いよく首を横に振った。


「それとこれとは、べーつ!!別なの!」


「それは、なんかごめん」


「まあ、あんたたちが仲直り出来たのは良かったけど。あたしの高級料理を犠牲にしたあんたたちはこれから仲良くしていかないと許さないからね」


決めゼリフのように言うだけ言うと、元の場所へと戻っていく。私もその後に続いて歩いた。


「ありがとう、みゆ」

推しとご飯なんて緊張しすぎてむりですよねー苦笑

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