82話.雨猫、答え合わせ
僕の話を、した。過去の話を。
僕は無価値な人間だと思っていた、君に出会うまで。でも、君と一緒にいて、普通みたいに過ごせて、自分も普通なんだなって思えた。
君を傷つけたくないから中々言えなかったって思ったけれど、きっと僕は逃げただけ。弱い人間だから。
傷つけてごめん。
この想いに、この愛に嘘はないから。
信じて欲しい。
「私の話、聞いてくれる?」
そう言って話された、陽葵の話。
あきさんから聞かされた話。
それを聞いて、自分は要らないんだって思ったこと、感じたこと。もう僕から離れた方がいいと思ったこと。
それから、メッセージの話。
「自分はもう要らないって思ったから、これ以上ゆうくんのそばにいちゃダメだって思った。離れなきゃって思ったの」
でも、説得をされて、ちゃんと話を聞くまではそのメッセージを送らないつもりだったらしい。なのに、いつの間にか送っていたらしく、あんなことになった、と言っていた。
自分はこんなにも心優しい子を傷つけたのか。
自分より相手を思いやれるこんな子を。
陽葵はこちらを見ず、目を伏せたまま自らのことを語った。声や身体も少し震えているようにみえる。それから、つーっと陽葵の涙が零れるのが見えた。頬を伝うその雫に胸が苦しくなる。
「陽葵……」
「……ゆうくん、そっちに行ってもいい?」
陽葵が顔を上げながら言った。その目は真っ赤だった。とめどなく溢れる涙が目尻から頬へと落ちていく。
「うん……」
僕が頷くと、陽葵は立ち上がり、それから僕の方へと飛び込む。久しぶりに触れたその体温。あたたかくて居心地のよい体温。
陽葵は僕の服をぎゅっと握ったまま言う。
「本当は、別れたいなんて思ったこと、1度もない!ゆうくんとずっと一緒がいいって思ってる」
「僕も……僕もだよ」
心から僕の気持ち、伝えるから。
心ごと全部伝えるから。
君が大好きだってもう1回伝えてもいいかな。
「僕は陽葵が好きなんだ。君がいないと苦しいくらいに、君が好き」
僕は陽葵の背に自らの腕を回し、ぎゅっと強く抱き締めた。陽葵が自らの腕の中にいることを再確認して、心があたたかい。
ああ、やっぱり、離したくない。
君がいなきゃ、僕はダメだ。
好きで、大好きで。
「好きだよ、陽葵」
「私も、好きだよ、ゆうくん」
安堵と愛おしさが込み上げてきて、僕の目から気持ちとともに涙が溢れ出した。
「ごめん……ごめん……」
「私の方こそごめん」
2人で謝り合う。その2人ともが涙で顔がぐしゃぐしゃだ。ぼやけて前が見えない。
「弱い僕でごめん。君への心は、気持ちは誰にも負けない」
「私だって負けないもん」
その後、僕達はいっぱい泣いて、それからちょっとだけ笑った。
でも、このままじゃダメだ。ちゃんと決着をつけなきゃ。
僕と陽葵の未来のために。
「僕、この休みにイギリスに行ってくる。行って、ちゃんとお父様と話してくる」