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80話.わたし、気後れする

次の日夜7時。黒い絵の具を一面に塗ったように暗い夜空に、ネオンと街灯が世界を照らす。もうすっかり陽が落ちている。


そんな夜、私はある場所に向かって歩いていた。昨日、みゆから連絡が来た場所だ。メッセージには『ここに来ること』という文字とお店のURLが貼られていたのだ。


あまり出かけるような気分じゃなかったのだけれど、昨日のことがある手前、みゆの誘いを断りづらい。


行ったことのない店だが、ここであっているのだろうか。結構何だろう……格式高そうなのだけれど大丈夫だろうか。


高級和食屋さんといった風貌のその店は門構えがしっかりしていて、古い御屋敷の入り口みたいだ。そこから石畳のような通路が少しあって、その先に白い暖簾が掛けられた扉は横に引くタイプの引き戸。扉の横には風流そうな植物と大きめの石、いや岩のようなものが置かれている。


その岩はどうやら店の名前が彫られているようで『割烹 しづき』の文字。


何この先一生縁が無さそうなお店。入るの気後れするんですけれど。


そう思いながらも、みゆに『着いたよ』と連絡を送る。すると、その引き戸をからりと開けて、店の中からみゆが出てきた。


「みゆ……ここは……?」


落ち込んでいるのも忘れて呆気に取られたまま聞くと、「ビックリするよね。ここ、知り合いのお店……ま、あたしの知り合いじゃないけれど……」とか何とか言う。それから、戸惑っている私の手を取り、「入るよ」とグイグイ中へ引っ張って行った。


店に入るとまず目に入るのは柔らかなオレンジ色の照明に照らされたカウンター席。お客さんが座り、板前さんが談笑しながら料理を作っている。だが、みゆはそのカウンター席を素通りし、その先の扉が並んでいる所へと私を連れていった。どうやらそこは個室になっているらしい。


こんな高級そうなところ、入って大丈夫なのかなと思いながらもみゆに手を引かれ、連れていかれたのは1番奥の個室の前。障子がきっちりと閉められたその部屋の前に立つと、ゆっくりとその障子を開けた。


「………っ!?」


私は中を見て驚く。開けたその先には、会いたかったけれど、会いたくなかったその人がいた。向こうも驚いたのか、目を見開いている。


少しの沈黙。その沈黙を破ったのは相手の方。


「陽葵……」


小さく呟かれた自らの名前に、心臓がキュッと苦しくなる。


「ゆうくん」


驚いた顔で動けず立ったままであった私の背をポンとみゆが押す。「さぁ、入って!」と言いつつ背中を押され、たたらを踏むように座敷の中へと入る。


中にはゆうくんの他に、Colorsのメンバーであるコウさんもいた。畳の部屋の中央に、掘りごたつ式のテーブルがあり、そこにゆうくんとコウさんが並んで座っている。コウさんは私を見ると、申し訳なさそうに眉を寄せる。


「急に呼び出して、それに、事情も説明しなくてごめんね。こうでもしないと2人は会ってくれなさそうだったから」


帰りたくなったが、みゆの有無も言わさぬ圧と、肩をしっかり掴まれていたことにより、逃げられない。あれよあれよという間に、ゆうくんとコウさんの向かい側、みゆの隣に座らされた、


流れるのは気まずい雰囲気。ゆうくんと目が合うのが怖くて、下を向く。


「今日、2人に集まってもらったのはね、話し合ってもらうため。それから、お互いの誤解を解くためだよ」


私たちの様子を見かねたのか、みゆが口を開く。


「あたし思うんだよね。2人とも考えすぎって。空回りしているようにしか見えないのよ」


その言葉に視線を上げてみゆの方を見る。どうやら私の前に座っているゆうくんもみゆの方を見ているようだった。


「聞きたいこと言いたいことがあるなら直接ぶつけ合えばいいじゃない。何を怖がってるわけ?あんたらお互いを好きで信頼してるんじゃないの?」


直接ぶつける……本当にいいんだろうか、そんなことをして。


そう思っていると、今度はコウさんが優しい声音で話す。


「同じ人間じゃない限り、話さないと分からないよ。何を思っているか、何を考えているかそんなの本人にしかわからない。だから、言葉で伝え合うじゃないかな?」


「そういうわけで、あたしとコウ……さんは外に出ているから2人で話し合いなさい!話し合いが終わるまで出てきちゃだめだから!」


みゆはそう言うと、コウさんと共に部屋を出ていった。そして、去り際に、コウさんに「時間は気にしなくて大丈夫だよ。知り合いのお店だし、許可はとってある」と言われた。


これで正真正銘2人っきり。もう逃げられないらしい。覚悟を決めろということだ。


「あの、ゆうくん……」

「ねぇ、陽葵……」


覚悟を決めて話しかけたが、それは向こうも同じだったようで、お互い同時に声を上げる。


「……あ、先にどうぞ」


ゆうくんが少し気まずそうに目を逸らしながらそう言う。


「じゃあ……私から……。いくつか聞きたいことがあるの」

ついに対面ですね。こういう時はお互いが納得するまで話し合うのが大事ですね。

そして、きっと2人を待っている間みゆとコウくんは割烹料理を食べています。


ちなみに、このお店『割烹 しづき』って言うんですけれど、このしづき(紫月)という名前、どこかで見たことありませんか?


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