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77話.あたし、震える

太陽の光がキラキラ輝いているが、体はどことなく重い。理由は明白、昨日の食べ過ぎである。


陽葵に置いていかれて、頼んだもの全部食べた翌日である今日、あたし、新堂みゆきは快晴の空とは真逆の重々しい目覚めを迎えていた。


昨日食べ終わった直後に比べれば幾分かマシだろうが、苦しい。


今日が休みでよかった。


そもそも、ひまの急用ってなんだったのか。それは、あたしの胃を犠牲にしてまで行かなきゃならない用だったのか!


勝手に1人で憤慨しつつ起き上がる。


ちなみにあたしには残すという選択肢はなかったので、全て完食した。残したらお店にも作ってくれた生産者さんにも悪いから。


頼んだものはできるだけ全て食べ切る。これはあたしの信条である。


お腹が気持ち悪い。きっと胃もたれだ。そして、ただいまの時刻お昼すぎ。よく寝たものだ。


「今日は特に予定もないし、推しを見るかな」


休日で特に予定もないため、身体を休めつつ、推しを鑑賞することにする。もうすぐ行われるColorsのライブに向けて、気持ちを盛り上げるべく過去のライブDVDをノンストップで流し続けようと思う。


ペンラとうちわを準備しなければ。愛しのコウくんにファンサを貰う予行練習だ!


まだチケット、当たってもいないが……。まぁ、こういうのは気持ちが大事だ。絶対いい席当てて、コウくんにファンサを貰うのだ。気合いだ、あたし!


「………と、その前にトイレ……」


やっぱり、お腹が気持ち悪い。苦しい。食べ過ぎは身体に毒だね。



トイレを済ませ、家にかろうじてあった市販の胃腸薬を飲めば、少しだけお腹の調子はマシになった。お腹は全く空かないけれど。


よし、これで心置き無く推し活できるぞ。なんて気分を浮上させながらテレビの前にやって来てDVDを取り出す。


『Colors Live!~夢を描こう~』

『Colors Live !~絆を描こう~』


そう書かれた2つのDVDケースを見比べる。どちらから再生するべきか……。どちらも再生するつもりではあるが、やっぱり無難に古い方から?いや、新しい方からみて過去に戻るのもいいよなぁ。


ちなみに、夢を描こうの方がファーストライブ、絆を描こう方がセカンドライブである。


悩ましいところだ。古い方からみて、ああこんなに成長したんだ!って楽しむのもいいし、新しい方からみてあ、幼い!可愛い!って言うのもいいよな。……あたし、Colorsのみんなとそんなに歳、変わらないけれども。


でも、あるじゃん?なんかファン歴長すぎると、親戚のおばちゃんみたいに成長を楽しんじゃう感じ。あれよ。


「よし、ファーストライブからにしよう!」


悩んだ末、DVDケースを開けたその瞬間、ソファの方に置いてあったスマホが着信の声を上げた。それも、メッセージではなく電話のようで、音が鳴り響いている。


「なによ、いい時に……」


空気の読めない着信音に若干腹を立てながら、DVDを一旦床に置き、スマホが置いてあるソファへと身体を向ける。立ち上がるのが酷く面倒で、座った間ままめいっぱい手を伸ばす。少し距離があったが、なんとかソファの座面に置いてあったスマホをゲットする事ができた。


「あたしの至福の時間を邪魔する奴は誰よ」


スマホを持ち上げ画面を見て、驚愕した。


「え、なにこれ、夢かな?」


だって、そこには自らの推し様の名前が書かれていた。大好きな人の名前に一瞬で思考が停止する。


ただ、思うことがあるなら、空気が読めないなんて言ってごめんなさい。本当に、本当に申し訳ありませんでした。


確かにこの前仕事した時、仕事関係の連絡をすることがあるかもしれないからってことで一応連絡先は交換した。でも、使うことなんてないと思っていたし、なんならあたしはファンなわけで、仕事が終わったら消そうとさえ思っている。


その連絡先から着信!?どうするべき!?


電話だからとりあえず出ないといけないよね?そうだよね?


あれ、電話ってどうやって出るんだっけ?


なんてワタワタしていたら、画面が切り替わり、「もしもし」と声が聞こえた。恐る恐ると言ったように呟かれたそれは、どこかコウくんの色気さえ感じる気がする。


「も、もしもし、新堂みゆきでございます……」


「こんにちは、コウです。職権乱用してごめんね。今、時間あるかな?」


え、声がいい。というか、あたしのスマホなら推しの声がするだと!?スマホを持つ手が震える。出ている声もきっと震えている。


「は、はい、大丈夫です」


「急にごめんね。実は、アオと陽葵ちゃんの事なんだけれど……」


「ひまのこと……あ……」


そう言われて、ひまのことが頭に浮かぶ。そして、ハッとする。ひまの様子、確かにおかしい、なんて思っていたら、思っていたのと同じ問いが向こうからかけられる。


「陽葵ちゃん、最近様子がおかしかったりしないかな?実は、今日の仕事、アオと一緒だったんだけれど、なんというか死んだ魚の目をしていて……。ここ最近覇気がないな、とは思っていたんだけれど、今日は特に。仕事の時はキリッとしていて支障はきたしていないけれど、さすがに心配で。誰に聞くのが1番いいかと考えたらみゆきさんが思い浮かんだんだ。ごめんね」


たしかに、ひまと仲が良くて事情を知っていそう、かつひまとアオくんの関係を知っているのはあたしだけだから、相談相手としてはあたしが最適だろう。あたししか適任がいないのは分かっているが、コウくんがあたしを頼ってくれたってちょっと、いやだいぶ嬉しい。


それに、ひまの様子は確かに気になっていた。まぁ、聞こうとしたら急用で帰られちゃって結局話せてないのだけれど。心配だから、また折をみて話そうと思っていた。だからこのコウくんからの電話は渡りに船かもしれない。


「ひま、最近何かに悩んでいるようでした。アオくんとのことかなと思っていて、昨日、話を聞くつもりでした。急用で帰られてしまいましたけれど」


「そうなんだね、ありがとう。俺も陽葵ちゃんとのことじゃないかなってちょっと思っていたから確信が持ててよかった。この後時間がある時にアオから話を聞いてみるよ」


「あたしもひまと話をします」


「また、職権乱用で申し訳ないんだけれど、なにか分かったら連絡くれないかな……?」


「わかりました」


その後いくつか会話をして、電話は終わった。


とりあえず向こう側の事情をきける術ができたのはありがたい。ひまのことはだいぶ心配していたから、2人からそれぞれ話を聞いて、探ってみるしかない。


というか!あたし、推しと電話しちゃったよ!?内容が内容だけれど。喜んでいいのかどうか微妙すぎる。でも、いい声だったなぁ……。思い出したように手が、体が震える。


え、推しと電話とか、無理すぎるだろう。嬉しいんだか悲しいんだか苦しいんだか感情がよくわからない!!

4章スタートします。最初はみゆきさんから……。

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