7話.わたし、不思議に思う
仕事を終えると、会社の外へ出る。すっかり太陽が顔を地平線に沈め終えているが、こんどはその代わりとばかりに色とりどりのネオンが街を照らしている。
そんな道を通り、電車に乗って帰宅をすると自分の部屋にあかりがついているのが見えた。今まで一人暮らしだったから帰宅した時に明かりがついているなんて新鮮だ。実家に住んでいた時以来である。
そのまま玄関のドアを開けると、キッチンの方からだろうかいい匂いが漂ってきていた。その匂いにつられてリビングダイニングのドアを開けると、
「あ……おかえり!」
キッチンの方からひょっこりと顔を出したのは、亜麻色の髪。結希さんである。
私が料理をする時に使っている__ただし朝のように時間がないときはしないけれど__猫柄がプリントされたエプロンを身につけ、少し照れたように笑っていた。
「た、ただいまです」
おかえり、なんて言われたのが久しぶりでドギマギしてしまう。今更ながらに思うが、私、えらいもの拾ってきたんじゃなかろうか……?
「ごめん、エプロン勝手にかりちゃった……それと、具材や調味料も……」
申し訳なさそうに眉を下げる彼にブンブンと首を振る。
「そっか、よかった!あ、今、夕食出来たよ?」
ゆ、夕食!? 使ってくださったってこと!?と目を白黒させて固まっていると、結希さんは、申し訳なさげに眉を下げ、「あ、もう食べてきた?」と尋ねる。
「い、いえ!作って下さったことに驚いていただけです」
「家にいさせてもらうんだもん、これくらいはさせて。手洗いうがいしている間に盛っておくね」
「ありがとうございます!わかりました!」
「あ、あとね、朝、言い損ねたんだけれど、陽葵さんは僕の家主なわけだから、敬語じゃなくていいよ?家主さんの方が敬語ってなんか変な感じだもん」
「あ……えっと……ありがとう?」
私がお礼を言うと、結希さんは吹き出すように笑った。
「なんでお礼なの」
「な、なんとなく?」
「なんとなくって……!君、面白い人だね!」
クスクスと笑う結希さんにどこか恥ずかしくなって、「て、手洗いうがい、いってきます!!」って大きな声で言って洗面台へと急いだのだった。
恥ずかしいやらなんやらで林檎のように__よく小説でそのような表現を見るが本当になるとは思っていなかった__真っ赤になった顔を冷ますべく、手洗いうがいのついでに水で冷やし、なんとか熱を下げてからリビングへと戻る。
椅子に座ると、結希さんが私の前とその向かい側に夕食の皿を置く。夕食はカレーだった。ホカホカとしたご飯に野菜がたくさん入ったカレーはとても美味しそうだ。
「わ、結希さんってお料理、上手なんだね!」
「まあ、それなりには、かな? 一人暮らししていたし。君の口に合うかはわからないけど……」
そう言って少し不安そうな顔をする結希さん。少し首をかたむけて上目遣いめにこちらを見ている。イケメンによるイケメンのための美顔攻撃である。顔がいい人に見つめるられることなんて慣れていないから少し、いやだいぶドギマギする。
そんなに見られては少し食べづらいが、目の前の人が瞳にて早く食べろと催促してくる、ように見えないこともないので、私はとりあえず少し視線を逸らすと__このまま見ていると私の瞳がどうにかなってしまうので。イケメンって顔だけで罪だと思うんだ__スプーンで一口すくって口に入れる。
「……っ!!」
「どうかな?」
口に入れた瞬間香るカレー独特のピリッとしたスパイス。でも、ただ辛いだけじゃなくてどこが深みのある甘さもあるような気がする。
「美味しい!とっても!!」
家にあったもので作ったって感じだったけれど……私の家にこんなスパイスとかなかったよ?なんて思いながら結希さんを見ると、照れたように笑って、
「そっか!よかった!隠し味いっぱい入れたから~」
隠し味!! そんな高度な技を!!
「凄い!お料理上手なのね!」
「と言ってもそんなに料理のレパートリー、ないんだけどねぇー」
「いや、多分、私よりはあると思います!」
「なんの自信なの、それ」
「あー、うーん……料理できない自信?」
「なにそれ!やっぱり君は面白いよ」
「それ、褒めてる?」
「うん、褒め言葉だよ」
「ならいいけど~」
「いいんだ……」
言葉を発すると、ポンポンと会話が続く。まだ出会って一日だって言うのに変な感じだ。そして、それを、楽しく感じている私がいる。
結希さんって、なんか不思議な力を持っているのだろうか。
次回の投稿は【9月13日8時】です!!
よろしくお願いします(*´ω`*)