○番外編1.ぎゅってして 、デザートより甘くして 2
「その……あの……ぎゅ……ぎゅってして!!」
言い終わるが早いか、目の前の人から腕が伸びてきて、力いっぱい抱きしめられた。思ったより声が大きくなってしまったし、とても早口だったけれど、ちゃんと聞こえていたようだ。
「よくできまーした!」
「絶対からかってる!」
そう言うと、ゆうくんはクスクスと笑いながら
「………」
私も手を動かし、ゆうくんの背中へと腕を回す。ぎゅっと抱きしめるとトクントクンと心臓の音がこちらに響いてくる。少し早めのその音が心地よい。優しいその音が私を包み込んでくれているみたいで、さっきまでの不機嫌なんて一瞬にして消えうせた。
ぐりぐりとその胸に顔を押し付けると、クスッと笑い声が聞こえた。声の主はもちろん目の前の男で。顔を押し付けているから、相手の顔は見えないけれど、すぐ近くで聞こえたその音からいつもの優しい笑顔でこちらを見ているのかな、なんて思う。
「今日、甘えんぼさんだね?可愛い……」
「だって、本当に寂しかったんだもん」
耳元で聞こえた声に返答する。顔が見えない分、心の底からの本音がポロリともれる。言ってしまってから少し恥ずかしくて、さらに顔をぐりぐりと押し付けるが、ゆうくんからの反応がない。
不思議に思って少しゆうくんから離れ、顔を上げると、ゆうくんは耳まで真っ赤にしていた。
「え、あ……」
「なんで顔、真っ赤なの」
「え、なんかいきなり、言われると照れる」
私の問いかけに、さっと視線をそらして、右手で自らの目元を隠す。左手は私の後ろに回ったままなので、器用なことをやってのけるな、と思った。
「さっきはノリノリで言わせたのに?」
「それとこれとは違うって言うか……うん、普通に照れた」
「ガチ照れじゃん」
「悪いか!……不意打ちに可愛いことしないでくれる?……いや不意打ちじゃなくても可愛いけれど」
ムムっと少し眉を中央に寄せてそう言うと、そのままガバリと右手もこちらに回して思いっきり抱きしめられる。
「……そんな可愛い可愛い言わないで、照れるから」
「そういう所が可愛いんだって。ね、会えなかった分もっとよく顔を見せて……」
さっきの照れは少し落ち着いたらしく、私の顔に手を添えてこちらの顔を覗き込む。
「う……か、顔がいい」
「なにそれ!ってか、顔真っ赤だよ。可愛いなぁ」
今度はこちらが赤面する。
「あ、あのね!その、実は!き、昨日ね、デザートを作ったの!それをね!た、食べてくれる?」
「え、ほんと!?やったー!食べるー」
話をどうにか変えたくてそう話題に出すと、ゆうくんはぱあっと笑顔を浮かべて頷いた。ゆうくんが来るからとおもって、昨日デザートを作っておいたのだ。
夜も遅いし、夕食も仕事関係者と食べてくると連絡があったから、おなかいっぱいで食べてくれるか不安だったけれど、頷いてくれてちょっと安心。
「じゃ、じゃあ!冷蔵庫にあるから、ちょっと待っててね!?」
そう言うと、ゆうくんの腕の中から何とか抜け出る。それから、そそくさと冷蔵庫のあるキッチンへと逃げ込んだ。対面式のキッチンだから完全にゆうくんから見えなくなるのは無理だが、物理的に距離があるから何とか大丈夫だ。
キッチンの台の上に手を置き、はーっと大きく息を吐く。本当に、緊張で心臓が爆発するかと思った。あのままいたら危険だった。不足からの過剰供給は心臓に悪い。
「ゆうくんは用法用量をきちんと守って服用しないとね」
「なにそれ、僕、薬かなにか?」