75話.わたし、明と暗
雲の間から少しだけ太陽の光が漏れてきていて、雨が去ったことを知らせている。でも、まだ少しだけ雨の匂いが残る、雨上がりの空。
そのうち雲が消えて、夕暮れが見えるだろう。日の入りは7時だったからまだ明るい。
それを背景に、倉本がヒラヒラと手を振って歩き出す。その後ろ姿はちょっといつもよりかっこよく見えた。
「倉本って優しいんだなぁ……」
私のいい人センサーもまだまだってことかなぁーなんて、自分のセンサーに疑いを持つ。不器用な優しさってああいうのを言うのかもしれない。
「よし、頑張ろ」
そう、自らに声をかけて、立ち上がる。すっかりびしょ濡れだったけれど、心はあたたかくて全然気にならない。このあたたかさは間違いなく、倉本がくれたものだ。
「ありがとう、倉本」
そう呟いてから、立ち上がり歩き出す。早く家に帰ろう。帰ったら、さっきのメッセージを消して、それから、「話そう」って連絡しよう。
君とちゃんと分かり合うために。
君と私がこれからのことを語り合うために。
道を1度立ち止まって、思いっきり息を吐き、それから思いっきり息を吸う。胸いっぱいに息を吸うと、雨の残り香がする。それもどこか心地よく感じられる。
「帰ろう」
そう呟いて、駅へと走り出す。なぜか、とても走りたい気分だった。
★
電車に乗り、家に帰る。電気を付け、手早くお風呂を済ませると、髪の毛を乾かすのもそこそこに、タオルを肩にかけたまま部屋を歩く。そのままリビングのソファに座ると、スマホを取り出した。
なんと送ればいいのだろうか。メッセージを何度も送ってくれているから、謝るところから、だよね。
それから、君としっかり話したいって言う。何も知らないのはもう嫌だ。君の口からちゃんと真実を聞いて、2人で判断したいから。
私は彼のトークルームを開き、メッセージを送ろうとした。でも、 そのトークルームをみて、サッと血の気が引くのが自分で分かる。
目が何度も画面を行ったり来たりする。でも、何度画面を見ても、変わらない。嘘であってほしいのに、嘘でも幻想でもない。
なんで………?
なんで…………?
送っていなかったはずのメッセージが送信されているの………?
先程送信しなかった、勇気の出なかった、そして、送らなくてよかったって思ったメッセージが彼のトークルームに緑色で表示されていた。慌ててメッセージの横を見るも、既読もついてしまっていた。
「……どうして……?」
自分の手からスマホがそのまま滑り落ちる。ガンっと床にぶつかった音がした。でも、それさえ気にならない。
思考回路が止まってしまう。
どうすればいいのだろう。
意に沿わない私のメッセージはこの雨空を越え、大好きな人の元に届いてしまったみたいだ。
第3章はこれにて終了です。少しだけ番外編を書いて、4章へと移りたいなぁと思っています。どうぞお付き合い下さい。
このポンコツ2人がどうなるか乞うご期待……!本当2人とも、ポンコツで怖がりでヘタレですよね。お互い似た者同士なのでしょうけど……。モダモダしててまどろっこしい!苦笑
ですが、そんな2人のお話を、どうぞ、4章もよろしくお願いします。
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