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71話.狐、似たもの同士

結月は大きな瞳を伏せたまま肩を震わせる。俯いたその輪郭から涙がポツリポツリ、落ちていく。身体から涙が干からびてしまいそうなほど。


そのまま、結月は少しずつ何があったかを語った。


「………あのね、私ね……その人に婚約者が……いることを知らなくて……」


「おう」


は?っと思ったが、聞くと言った以上、余計な口を挟まないために頷くだけに留まり、話を促す。


婚約者がいるって、それって浮気者じゃね?とか結月、騙されたのか?とか色々疑問は浮かぶが、声には出さない。


「私、知らなくてね。でも、知り合いの人に聞いたの。あの二人が婚約者同士だって。それでね、今日、2人が仲良さそうにご飯食べているのを見たの」


聞いた、見た。

それって……。


と疑問に思いつつも、耳を傾ける。


「ああ」


グイッと涙を拭って、ニコッと笑って見せた結月。


「だからね、別れないと!ゆうくんが、いっぱい幸せになれるように」


そうあるべきだ、それが正解なのだというように、サラッと言う。さっきの涙が嘘みたいに。吹っ切りたい、吹っ切ってみせるというように。


なんで何ともないような口調で言うんだよ。何ともないような口調で言いながら、自分で傷ついているのがわかる。


「大丈夫か……?」


「私は大丈夫。悲しいし、辛いけど、仕方の無いことだから」


強がって相手の幸せを願う結月が痛々しく見えた。


言わせたのは俺だけど、もう、それ以上自分を傷つけて欲しくないと思った。


思わずその震える肩を引き寄せ、抱きしめた。腕を結月の背へとゆっくりと回す。


初めて抱きしめたその身体は、華奢で、力を込めたら折れてしまいそうなほどだった。


「……えっ…」


急に抱きしめられて、驚く結月は動きを止める。


俺にしとけよ。

そう言えればよかったのに。


俺だったらお前を悲しませたりしない。

そう言えればよかったのに。


「ごめん、悲しいこと、言わせて」


とても言えなかった、お前のその顔を見たら。その恋人が大好きだって、声から顔から全部から伝わるから。


その顔をさせられるのが俺じゃないのはなんでかな。

お前を守ってやれるのが俺じゃないのはなんでかな。


このままさらってしまえればどんなに、なんて。


「……っ……う……」


結月から押し殺したような嗚咽が聞こえた。抱きしめたその手で、宥めるようにポンポンと肩を優しくたたく。


お前を好きでごめん。


ちょっとばかし、お前とあいつが上手くいかなきゃいいのになって思っちまって、醜い思いを持っててごめんな。


こんなん、勝ち目ねぇだろ。


俺は、お前に幸せになって欲しい。多分このまま優しい言葉をかけて、あいつから結月をかっさらってもきっと結月は幸せになれない。


ずっとずっと引きずる。だから、俺はお前を大好きだって、その心、隠してみせるから。


俺も好きなやつと一緒になるより好きなやつの幸せを願っているから、人のこといえねぇか。


説得力ねぇかもな。

こういうとこは似たもの同士、なんてな。


でも、そうしたいって思っちまったんだ。

背中、押してやんねぇと、って思っちまった。


だって、見た、聞いたってことは直接そいつと話した訳じゃないんだろ。


ちゃんと聞いてみないと分からないんじゃないか。


なぁ、次に繋ぐから。背中を押すから。


……だから、卑怯かもしれないけれど、もう少しだけ……もう少しだけこのままで居させてくれ。

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