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66話.雨猫、追い立てられる

食事をする人達のザワザワとした喧騒の中、店内入ってきたのは凛とあきさんだった。最近よく出会うなぁと感じる。


僕達はメガネを掛けているから変装でわからないかもだしなんて思っていたら、目の前の月見里さんの方から「あ」っと声を上げて、凛たちの方を見た。


それと同時にあきさんも偶然こちらを見たらしく、小さく「あ」っと声を上げるように口を少し開いている。それから凛さんにも声をかけ、こちらに近づいてきた。


「あきさんに凛ちゃんじゃないか」


「月見里さんに蒼羽様」


月見里さんとあきさんがそうお互いに声を掛け合う。どうやら知り合いだったみたいだ。世界って狭いな、なんて思った。


「凛とあきさんと月見里さんはお知り合いなんですか」


「そうだよ。この前の仕事で一緒になったんだ。ほら、サイダーのCMのロゴ、2人が担当してくれたんだよ。そう言う蒼羽くんも知り合いかい?」


そう言えば月見里さんはサイダーのCMに出ていたなぁ。大人っぽい月見里さんがサイダー!?って一時インターネットなんかではザワついていたけれど、CMのコンセプトが「大人のサイダー、懐かしい気分」みたいな感じだったから好評だった覚えがある。あのロゴ、凛とあきさんだったんだ。


「はい、凛とは幼なじみなんです」


「それは素敵な偶然だね。何かの縁だ、一緒に夕食をとるのはどうだろう?」


月見里さんの問いに頷きつつ、答える。すると、月見里さんは優しい笑顔を浮べてそう、2人を夕食の席に誘った。立ったままでいるのもということで、2人は僕達の前に座る。


すると、水がきたタイミングで、あきさんがあっと声を上げた。


「どうしたの、あき」


「すみません、家に忘れものをしたようです」


「あら、大変。重要なものなのかしら?」


「はい、携帯を……すぐ戻って参りますので取りに行ってもよろしいでしょうか」


凛と会話をしたあと、僕たちにも確かめるようにこちらを見やる。家がここから近いらしく、すぐ着く距離らしい。僕と月見里さんが頷くと、あきさんは慌てたように店を出ていったのだった。


「携帯を忘れるのは確かにつらいよね」


「お仕事の連絡とか入らないか不安になりますわね」


僕と凛がうんうんと頷きあいながら話していると、月見里さんが僕たちの様子をニコニコと笑いながら見ていた。


「2人は仲がいいんだね」


「小さい頃から一緒ですから」


「お仕事の種類も全然違うのに最近会うことが多くて、驚いておりますわ」


確かに最近会うことが多い。個人の仕事でもグループの仕事でも会っているし、この前は偶然かもだけれど、化粧品の現場でも会った。


「きっと、神様が示し合わせているのですわ」

「神様が示し合わせているみたいだよね」


考えていることが同じだったらしく、2人で同時に言ってその後同時に笑う。


「2人は本当に仲がいいんだね」


「腐れ縁ですわ」


「違いない」


その時、ピリリリっと音が聞こえた。音の主は横に座っている人だったらしく、胸ポケットに入っていた携帯を取り出す月見里さん。


「すまない。電話のようだ」


「大丈夫です。出てください」


僕がそう言うと、向かいの凛も頷き肯定する。その返答に月見里さんは嬉しそうな笑顔を見せる。


「ありがとう。少し失礼するよ。注文は先にしてくれて構わない」


「はい、わかりました」


僕の返事を聞くと、月見里さんは少し慌てた様子で席を立った。


「2人とも行ってしまいましたわね」


「そうだね……とりあえず注文する?」


「そうしましょう。唐揚げは必須ですわね」


「それから、だし巻き玉子とかどう?」


「いいですわね」


2人ともいなくなってしまったので、注文を済ませることにした。唐揚げ、だし巻き玉子のほかに、ホタテのバター焼きやイカの姿焼きなどを頼んだ。


「凛はお酒飲む?」


「そうですわね。2人が帰ってきてからにしますわ」


注文を終え、店員さんが去っていくと、凛は秘密の話をするようにこちらに顔を近づけた。次いで小さな声で話をする。


「それで、結月さんとはどうなりましたの?」


「それが……会えていないんだよね……」


「え、どういうことですの!?あれからもう数日経っておりますわよ?意気地無しですの?」


凛がこちらを蔑むような目で見る。お嬢様の凛があまり見せない表情だが、相手が僕しかいないので自由である。普段の可憐な姿からは想像できない冷たい目だ。


「意気地無しって……まぁ、そうかもしれないけれど……。連絡しても返事がなくて……」


「連絡はしたんですのね。そこはまぁ、あなたとしては頑張った方でしょう」


「すっごい上から……」


「なんてったって、あなた、生粋のヘタレではありませんか」


ビシッとこちらを小さく指さし言う凛に苦笑する。やっぱり僕、ヘタレなのか。いや、知っていたけれど。


「……わかっていたけれど、直接言われるとへこむ……」


そう言いつつ落ち込んでいると、ちょうど料理が来る。頼んでいた唐揚げを筆頭にイカ焼きも卵焼きも湯気をあげておりとても美味しそうだ。


去っていく店員さんに凛は頭を下げてから、こちらをむっとした顔で見やった。


「へこんでいる暇がございましたら、次の手を考えていることが大切ですわよ?そうね、突撃するのはどうでしょうか」


うーんと悩んでから凛はそう言い放つ。突撃ってことは、弾丸で陽葵の家に行くってことであってるのかな。


「陽葵の家に?」


「そうですわ!」


「でも、迷惑じゃない?1度考えたんだけれど、仕事で遅くなる日、多いし……」


「このままにしておいても何も変わりませんことよ。時にはあたってみるのも術ですわ!」


「迷惑がられても?」


「好きな人に会いに来てもらえて嫌な人はいませんし、連絡が出来ないってことはなにかに悩んでいるかもしれませんし……」


やっぱり1度は突撃家庭訪問をするべきですわ、と1人頷きながら凛は言う。こういう思い切りが良くて、悩むより動け!な凛の性格は小さな頃からあまり変わっていない。


「凛って、そういうところ、ほんとかっこいいよね。思い切りがいいというか……」


「あら、そうですか?たまに考え無しと怒られるのですけれど……」


「それはそうかも……」


思い立ったらすぐ行動の凛には小さい頃からそうで、よく振り回されて怒られた。でも、くよくよするより動くって考え方は僕には出来ないことも多いからかっこいいなって思うけれど。


「そういえば、小さな頃、猫が木から降りられなくて、何も考えずにドレスで木登りをしたことがあったね」


「あら、そんな小さな頃のこと、覚えていますの。あの時は登ったのはいいものの、降りられなくて大泣きしたのを覚えていますわ」


「それで凛のお父様に大目玉くらったんだよね。出来ないなら人を呼ぶとか考えろ!って」


「そうでしたわね。でも、あの頃よりは考えるようになっていますわよ?……で、話が逸れましたけれど、結希、結月さんの家、行きますわよね?」


「そうだね、行ってみるよ」


「では、今からどうぞ。月見里さんとあきには行っておきますわよ?……というか今すぐ出ていかないと承知しませんことよ、この意気地無し!」


「ごめん、いつも迷惑かけて」


「そこはありがとうでよろしいのではないでしょうか」


「ありがとう、凛!」


凛に言われて立ち上がる。机の上にお金を何円か置くと、お礼を言って店を出たのだった。後ろで、凛が「やれやれ、どれだせ世話をかければ気がすむのでしょう」と呆れていたのが目に入ったのだった。

私の小説に出てくる男性はなんでこんなにもヘタレなのでしょうか。ヘタレにしたくてしてる訳では無いんですよ…?!勝手に……なんでかなぁ……。


そして、凛さんは世話焼きですね……!凛さんの物語も書いてみたいなぁ……。

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