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63話.わたし、約束を取り付けられる

「んで?」


ゆうくんから連絡があってから数日。あれから返信は出来ていない。出来なかった。


怖いというのが1番の感情で。

でも、連絡しないってことは、話をしないってことで。


ゆうくんを信用していない自分も嫌だった。


苦しい気持ちはつづくけれど、時間は進んでいくからそれに従って私も動かなきゃいけないから、こうして仕事をしている。


だが、今日は出社早々みゆに捕まり、顔を覗き込まれながらそう言われた。打刻をした瞬間、腕を引っ張られ、空き部屋に連れていかれたのだった。


「いきなりどうしたの、みゆ」


急に現れてなんの脈絡もなく問いかけるみゆに驚いて、みゆから顔を離しながらそう答えると、みゆはビシリと私の顔に指を指した。


人を指さすのは失礼ですよ、みゆさん。


なんて思っていると、額をツンとつつくように押された。さらに意味が分からず、押された額に手を当てながら首を傾げるとみゆは今度はずいっと私の方へと顔を近づける。


「その辛気臭い顔してる理由をそろそろ教えろって言ってんの」


「そんな顔してた?」


「うん。それもここ最近ずーっと」


私の感情は顔にも出ていたらしい。なんて分かりやすいんだ、私は。みゆに相談してみてもいいかなって思ったけれど、みゆに心配をかける訳にはいかないと思い直す。


みゆは私とゆうくんの恋を応援してくれているし。変に心配させたくない。


「そうかな……?」


とぼけるようにそう言うと、みゆはむむむっと分かりやすいくらい眉を顰める。それから、またビシリと私の方に指を突きつける。


「いい加減のらりくらりしていないで、話してみなさい!聞いてあげるから!ってなわけで、今日は呑みに行くからね!」


それだけ畳み掛けるように言うと、返事を待つまでもなく、くるりと踵を返す。ぽかんとしている私を置いて、空き部屋のドアまで行くと、「あ!」と声を上げてこちらを見た。


「帰りは特別に席に迎えに行ってあげるから、覚悟しなさい!」


それから、さっきまでの厳しい顔を緩めて、ふっと笑い、パチリとウインクをしてから部屋を出ていったみゆ。


みゆは本当に優しい。それから、相手をよく見ている。見た上で、相手の表情とか行動から相手の気持ちを読み取り、気遣いができる人だ。


強引なようにみえるが、さっきの約束だってきっと「呑みに行かない?」と聞く形だったら、私が断るのをわかっているからあえて一方的に断定系で言い切ったのだ。


困っている人を放っておけない人で、大きな心でドンと構えて包み込んでくれる人。


「ありがとう、みゆ」



今日の業務が終了し、残業もなさそうで、帰る用意をしていると、朝の予告通りみゆが現れる。といっても、席は通路を挟んで向かい側なので、1歩で着くのだが。


「ひま、お疲れ!」


「みゆ、お疲れ様」


笑顔で挨拶をくれるみゆにこちらも少し微笑んで返す。みゆの笑顔は元気を貰えるような明るいものだった。こちらが暗い気持ちにならないようにしてくれているのだとわかる。


それからみゆは腰に手を当てて、


「よし、じゃ、行きますか!」


と言う。


「うん。ありがとね、みゆ」


素直に礼を言うと、みゆはニヤッと笑ってみせる。得意げそうな笑い方でこちらを見る。


「おうおう、このみゆ様を敬い奉るがよい!で、場所はいつものところでいい?」


「『つばき』ね、りょーかい」


「この時間、混んでるかなぁ」


「別のところにする?」


「いや、あたしは唐揚げが食べたい!」


会社の廊下を歩きながら、唐揚げ〜♪唐揚げ〜♪とでたらめなメロディで歌い始めるみゆ。周りの人が何事だとチラチラこちらを見てくる。


うん、ちょっと恥ずかしい。みゆの優しさには変わりないけれど。

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