62話.雨猫、遂に決意する
ラジオが合ってから1日、日曜日の間、仕事しながらではあるけれど、僕は改めて考えた。
僕のこと、凛のこと、そして陽葵のこと。
僕にとって幼少期は誰にも話したくないことで。知られたら嫌悪されるのではないのかと不安に思うことで。
でも、陽葵なら受け止めてくれるかもしれない。
陽葵なら全部包み込んでくれるかもしれない。
話してみようかな、僕のこと。
信じているから、話す。
しっかり決意できたのは、月曜日になってから。怖がる自分と折り合いをつけるのに少し時間がかかってしまった。
月曜日の夜、仕事から帰ってすぐ、リビングのソファに座った僕は、陽葵にメッセージを送った。
『いきなりでごめん、少し話したいことがあるんだ。いつか会えないかな』
それから同時に、僕に決意のきっかけをくれた凛にも。
『凛、僕、陽葵と話すことにする。ありがとう、君のおかげてちゃんと話す決心がついたよ。凛にはいつも迷惑をかけっぱなしだね』
陽葵からは返事がまだ来なかったけれど、凜からは比較的早く返事がきた。
『いいのですわ。私と結希の仲ではないですか』
『でも、凛はいいの?僕と婚約破棄になっちゃうけれど』
一応お互いに気持ちがないとはいえ、婚約者同士ではあるのだ。何かしら凛にだってダメージはあるかもしれない。
『あら?今更すぎませんか?それに、私は恋愛結婚がしたいんですの』
『そうだったね』
小さい頃の凛のことを思い出して少しだけ笑ってしまう。初めてあった頃も、そう言えばそんなことを言っていた。
『私があなたに未練があるように見えますの?というか、そもそも好きになったことはないですわ。弟みたいなものですもの』
何とも凛らしい答えに笑ってしまう。それもそうだ。あまりの言われように苦笑してしまう。
『わー、すごい言われよう。でも、僕の方が年上なのに弟って……』
『だって頼りないんですもの。陽葵さんのそばに居るならもう少ししっかりなさらないとですわよ?』
それは一理ある。頼りないのは自分でもよくわかっている。凛はきっとスマホの向こうでいたずらっぽい笑顔を浮かべているだろう。
『君はずっと陽葵さんの味方だね。でも、そうだね、ありがとう。僕、もう少し頼れる男になるよ』
『そんなの当たり前ではないですか。私の大切な友人ですもの。言ってなれるものなのかは不明ですわね』
『頑張るよ』
『だーいすきな陽葵さんのために頑張るのですわ、結希。幸運を祈っていますわ』
絶対からかわれた。画面を見ながら苦笑する。
凛とのやり取りを終えるが、僕がさっき陽葵に送ったメッセージは一向に既読にならない。
陽葵から返信、返ってこないかな。
いつもなら、結構すぐかえってくるのになぁ。
仕事、忙しいのかなぁ。こっちの都合でいきなり送っちゃったんだもん、仕方ないか……。
「待っている間、ご飯を作っちゃおっと……それから、明日、アヤにお弁当作って欲しいって言っわれたっけ?」
そう思いながら、ソファから立ち上がり、キッチンへと向かう。今日の仕事の帰り、アヤにご飯の話をしたら、僕は下手だから羨ましいなぁと言われたのだ。その流れで、明日の撮影一緒だから、お弁当をつくっていくことになったのだ。
さて、夜はどうしよう。明日の昼も考えなくちゃ……人に食べさせるのに適当なものは作れないし。
夜ご飯は野菜が少しあったから残っている豚肉と炒めて野菜炒めと、作り置きしていたきんぴらごぼう。メインは昨日買っておいた鮭をバター焼きにでもしようかな。
そんな風に悠長に考えていた僕は、あきさんと陽葵があんな風になっていたなんて、これっぽっちも想像していなかった。