61話.わたし、途方に暮れる
どれくらいカフェにいただろう。少し考えた。
本当にゆうくんは凛さんを好きなのか。
私じゃないあの美しい人がいちばん特別なのか。
まだ直接見たり聞いたりしたわけじゃない。
大丈夫、大丈夫。
ほら、信じて。
ゆうくんはあなたの大好きな人ではないの。
そう、自らに言い聞かせる。
「彼女である私がゆうくんを信じなくてどうするの」
ぽつりと自分のつぶやきが落ちて、ガヤガヤとした店内の音に紛れるようにして消えた。
でも、もし本当だったら、私はどうしたらいいんだろう。
愛する人が自分以外を愛しているなんて考えるだけで苦しいけれど、でも、私はその恋を応援しなければいけないのだろうか。
大好きな人に幸せになってほしい。
だからこそ、私は引いた方がいい。
だって、大好きな人同士を引き裂くなんて真似、出来るわけない。
私が邪魔者なのだ。
ゆうくんを信じたい気持ちともし本当ならって思う気持ちが交互に現れて苦しい。私の気持ちは邪魔なのか。グラグラ揺れる私の心。
どうしたら、いいんだろう。
「ゆうくん、大好き。だけど、私、苦しい……」
テーブルに置き去りにされていたコーヒーを思い出したように1口飲む。
もうぬるくなってしまっていた。
★
それからどうやって帰路に着いたのかわからないけれど、気がつくと自分の部屋のベッドにいた。
時は刻々と進むけれど、私の心は沈んだままだ。でも、こんなに悲しいのに苦しいのに涙が出ないのは何故だろう。
感情が追いついていないのか、まだ信じきれていないのか。泣ければ少しは楽になるかもしれないのに。
電気もつけず、ただベッドに座って膝の上に顔を伏せる。何をするのも億劫で、動きたくない。
その時、カバンの中から着信音が鳴った。動かすのも億劫な腕を何とか動かしてカバンを緩慢な動作で手繰り寄せる。
スマホを取り出すと、通知が1件。図ったように通知欄にはゆうくんの文字。
『いきなりでごめん、少し話したいことがあるんだ。いつか会えないかな』
話したいことってなんだろうか。凛さんとの事かな、そう思ってしまう自分。
自分は別れを切り出されるのだろうか。
自分はいらないと言われてしまうのだろうか。
なんとか言い訳して逃げられないかなと考えてしまう自分はなんとも情けない。
ごめんなさい、最近、仕事が忙しくて。
ごめんなさい、体調が悪くて。
会えない理由ならいくらでも思いつく。
どうしよう、どうしよう。
うじうじ悩む自分にも腹が立つけれど、どうしようも出来なくて。逃げるのも嫌だけれど、怖くて。
夜ごはんはいいか……お腹すいていないし。お風呂に入るのも億劫だ。
この闇のまま、飲み込まれてしまえばちょっとは楽なのかなぁ、なんてらしくないこと考えて。
いつもバカ元気でそれが取り柄だよねっていわれるのにな……。
私、こんなに弱かったかなぁ。
私、こんなに情けなかったかなぁ。
信じたい気持ちも逃げたい気持ちも全部全部苦しい。
ゆうくんへの返信が、出来ずにいる。
真実を聞くのが怖い、ただそれだけ。