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5話.わたし、話す

「間に合った……」


ただ今の時刻、7時55分。会社と家が近くて良かった……。何とか滑り込みで始業に間に合った。ゼーゼーと荒い息を吐きつつ、社員証をゲートのところで翳す。そのままの足でエレベーターに乗り、三階まで一気に上がった。


「あんたが遅刻ギリギリなんて珍しいじゃん」


自分の所属する部署の部屋に着き、はああと大きく息を吐いていると、聞こえてきた声。声の主は、同期の新堂 みゆきだ。私は、「みゆ」と呼んでいるが。ついでに相手は私を「ひま」と呼んでいる。


ふわりと整えられた茶色のショートカットにパンツスーツを着こなす、長身の美人。サバサバしているが面倒見がよく、友人思いの優しい人で、何かと私の手助けをしてくれる。


「おはよー、みゆ。まあ、色々あって……」


「おー、色々か〜。いいことー?」


どうなんだろう? 怒涛の時間ではあったけれど。


「あー、うーん?どうだろう?昨日は、道端で倒れていた青年を家に上げたのよ、それでね……」


と言い始めると、目の前のみゆが大きく目を開く。


「はぁぁぁ!? ま、待って待って!青年をお持ち帰りしたってことっ!?」


それから、額に左手を当てて、こちら側に右手を「ストップ」というように向ける。


「おもっ……ちかえりっ!?ち、違う違う!ってか、声大きい!! 」


今度はこっちが驚く番だった。お持ち帰り!?


「ごめん、ちょっと取り乱した。でも、何が違うのよ、家に異性を連れて帰ったんでしょう」


それから、みゆは、「ふむ、もしや、ひまはその人と……?」「心配だけれど、そういうのもありか?ありなのか?」とかなんとかボソボソと1人で話している。


何を言ってるの。


「まあ、連れて帰ったのはそうだけれど……お持ち帰りというよりは……」


看病なんだけどな、と続けようとした時、


「新堂!結月!無駄話している暇あったら準備しろー!会議始まるぞ!」


私の務める部署の近くにある会議室から上司の声がした。


「あ、はーい!……とりあえず、後で詳しく話聞くから!」


「う、うん」


勢いよくこちらに近づきながらいうみゆに若干戸惑いながらも頷き、そのままとりあえず会議室へと向かったのだった。


それから時は過ぎ、昼休み。私は食堂にて、心配だけれど、興味もあるといったような器用な顔をしたみゆと対峙していた。


「で、どういうことよ?……一夜のアバンチュールでも楽しんだか?」


「アバッ!? そんなわけッ!ないでしょうっっ!! 相手、病人なの!……それに一夜だけじゃない……」


即座に否定する。だって、そんなわけないでしょう!!れっきとした病人看護です!!バンっと立ち上がって力説すると、みゆはポカンとした顔をした。


「今の一言で情報過多過ぎない?どういうことよ?整理させて?まず病人ってのは?」


そんなみゆに昨日あったことを説明する。家に帰っている途中に道端で青年を見かけたこと、熱があったこと、そしてそんな彼を放っておけなくて連れて帰ったことを。


「お、おう……うん、そーなのか。ちょっと混乱してるけれど事情はわかった。……で、一夜だけじゃないってのは?」


「あー、その人、ちょうど色々あって……このままじゃ行くところないって言うから……」


さすがにこれは怒られそうだ、と思って視線を逸らしながら言うと、


「もしかして、それで、そのまま同居することになったの?」


「うん……」


「なんか、うん、ちょっと混乱してる……。で、相手はどこの誰よ?」


「え?……ええっと……?名前は結希さん」


「名前しか知らないのっ!? あんた、馬鹿なの。どんだけお人好しなのよ。 というかそれ、大丈夫なの!?」


「え?」


「名前しか知らないような男、家にあげて、危機感の欠片もないよ、あんた」


言われてみれば、そうだよね。放っておけない一心で決めちゃったけれど、心配されるのも当たり前だ。でも、だからといって放っておくことなんてできない。


「なんか、ごめん。でも、行き先もないってわかっていて放っておけないよ」


「いや、あたしに謝ることじゃないけれど。それに、まあ、放っておけないのはひまらしいし、あたしがとやかく言うことじゃないとは思うけれど……。それで、その人は信頼出来るやつなの?」


「うん、私はそう思う……」


一晩しか一緒にはいないけれど、私は何となくそう思う。そう応えると、みゆは、はあああっと大きくため息を吐いた。そして、


「あんたのそういう勘は外れたことないから信頼できるけど、なんかあったらすぐに言うんだよ?」


そう、みゆの言う通り、私の「この人いい人だっ!」って勘は外れたことがない。人を見る目だけはあるつもりである。


「ありがとう、みゆ!」


「それと、名前以外もちゃんと聞いときなさい!」


「はい……」


それから話は、いつの間にか、みゆのイチオシアイドルの話へと移行していった。


「今回のドラマがねー!めっちゃめっちゃ!かっこよかったのー!!」


先程の頼れる女性オーラは少しなりを潜め、恋する乙女モードへと変換するみゆ。ほんと、いつもの姿から想像できないくらいの変貌である。


みゆのイチオシのアイドルとは、『Colors』というアイドルグループらしい。メンバーは全員色の名前になっていて、


爽やか王子系正統派のアオ(蒼)くん

儚く美しい美少年のユカリ(紫)くん

お色気担当大人の魅力のコウ(黄)くん

末っ子可愛いあざとい系のアヤ(朱)くん


だそうだ。


ちなみにこの説明はみゆの受け売りだ。


私はアイドルとかあまり知らないから、何がなんだかあまりわかっていないが、みゆが楽しそうに話しているので聞いている私も楽しい。


そして、これまたちなみに、アオくんのメンバーカラーは青ではなく蒼、アヤくんのメンバーカラーは赤ではなく朱とこだわりがあるらしい。よくわからんが、こだわりがあるのはいいことだと思う。


みゆの推しは大人っぽい感じのコウくんだそう。そして、その彼、コウくんはどうやら月9の恋愛ドラマに出ているそうで。


「今回の話はね、ついに!!コウくんが主人公さんに告白したのよ!主人公役の女優さんに嫉妬しちゃうくらい、かっこよかった!まあ、相手役も可愛い女優さんなんだけどね!!コウくんの、なんだろう、叶わないってわかっていても好きなんだっていう、切ない感じの表情とかもう最高だった。こう、ね、眉を苦しげに下げながら、少し下を向いて、そっと主人公さんの耳元で言うのよ!「………好きだよ、君が。……ごめん、好きになって」って!!囁くような、掠れたような低音ボイス無理!愛してる!!さいこーに推せる!!」


怒涛の語りである。そして、役としては「コウくん」ではないと思うぞ。


『Colors』か……。有名アイドルなのかなぁ。テレビとかあまり見ないからなぁ。


でも、好きな物を語る人ってキラキラして見えるよね。微笑ましいなぁ。幸せオーラのおすそ分けだね。


なんて思いながらみていると、


「あ、ちっちぇーのがいるな」


自分の後ろから声が聞こえる。振り返らなくてもわかる。相手を馬鹿にしたようなこの言い方をする人は私の周りには一人しかいない。同僚の倉本奏汰である。


立ったままの倉本は、私の頭にトンと腕を置き、


「まあ、いい腕置きにはなるけどな」


みゆの幸せオーラを存分に受け取っていたのにここの人のせいで気分は最悪である。仕事は出来るし良い人ではあるのだが、何故かわからないが私にだけこうやってつっかかってくるのだ、この男は。それも、私が身長低いのがコンプレックスだって知っていて!!


怒りを精一杯目元に込めてキッと睨む。


「何するのよ、退けて」


そんな私と倉本をみゆは呆れたような顔をしてみている。


「あんたら仲良いねぇ」


みゆの言葉に、


「どこが!!」

「そうだろー?いじめがいがあるからなー、こいつは」


ちなみに分かるかもしれないが、前者が私、後者が倉本である。というか、なんだよ、いじめがいって!!


私の周りはいい人が多いし、私のいい人レーダーは優秀だ。そのレーダーが言ってる、この人はいい人じゃないって!!


「そんなことより、そろそろ昼休み終わんぞー。まあ、こんなに小さいお前がいないくらいじゃ、みんな気づかないかもしれないけどな」


こいつはー!!

推しについて語るのって楽しいですよねー。

誰しも饒舌になります(多分)




一応今回初めて出るキャラを紹介!!です

✤人物紹介

・新堂みゆき / みゆ

陽葵の同僚。陽葵のことを”ひま”と呼ぶ。

・倉本奏汰

陽葵とみゆきの同僚。陽葵をよくからかう。



次回の更新は【9月11日8時】です!

よろしくお願いします。

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